ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第108回ザテレビジョンドラマアカデミー賞助演男優賞 受賞インタビュー

撮影=石塚雅人

永山瑛太

演じることで笑ってもらえることが活力になりました

助演男優賞を受賞した感想を教えてください。

助演男優賞をいただけて本当にうれしいです。この賞を頂けたのも、北川景子さんをはじめとする共演の皆さん、スタッフの皆さん、視聴者の皆さんのおかげです。
テーマは離婚活動でしたが、植田博樹P、坪井敏雄Dとも「コロナ禍の中、とにかく面白いものを作って日本を元気にしよう」というポジティブな気持ちを皆で持ち続ける事が出来たから、最終回まで紘一を演じ切れました。
初めて準備稿を頂いた時から、今どき珍しい古風な男・紘一という役が頭の中を駆け巡り、思いっきり自分の肉体で具現化出来る事を確信しました。


面白いと言えば、第8話では田村正和さんを彷彿とさせるシーンがありましたね。あのパロディーは田村さんが2021年4月に亡くなったので、瑛太さんが追悼として入れたのですか。

そうです。田村さんとは共演したこともあるので(「さよなら、小津先生」2001年フジテレビ系)。ただ、田村さんのまねをするときに、一番わかりやすいのは「古畑任三郎」(1994~2005年フジテレビ系)なので、植田Pに「他局のパロディーですがいいですか」と許可を取り思い切って演らせてもらいました。もちろん追悼の意味があったけれど、紘一の感情からすると、わりと自然な流れで、今回の芝居の延長線上に正和さんがいたんですよね。紘一が説明するときのしぐさとか…。


他にも、鼻をフゴフゴ鳴らしたり、お茶をダーッと口からこぼしたりと、笑えるお芝居をしていました。

鼻をフゴッと鳴らすのは、衣装スタッフにどうしてもああなってしまう方がいらっしゃいまして(笑)、それを取り入れさせてもらいました。あの時点で(第3話でフゴッと鳴らしたとき)、紘一は一度も笑っていなかったから、酔っ払ったときはそうなってもいいのかなと。第8話で貴也と話しながらお茶をこぼしてしまうのは、もともと台本に「お茶をこぼしアチチとなる」と書いてあったんですよ。そこからある程度の誇張はしましたが、僕としては古風な人間を一生懸命演じていただけ。笑ってもらえるということは演者として幸せであり活力になりましたが、同時にどこかで精神的に疲弊する部分もあったのですが…。


楽しみながら演じているように見えたのですが、そうではなかったのでしょうか。

連続ドラマでひとつのキャラクターを作ると、自分の精神に不安定なものが出てきてしまうんです。こういったインタビューではよく「僕は役柄をぶれずに貫き通した」とか言っていますけど、そんなの嘘です(笑)。めちゃくちゃ不安定で心がすり減って、途中で何度もくじけそうになりました。でも、リハーサルで最初に演技をぶつけると、北川さんが笑ってくれる、スタッフも本番中なのにモニターを見て声を出して反応してくれる。「じゃあ、もっと演(や)り切ろう!」と自分を奮い立たせることができました。そうするうちに紘一について台本に書かれていないことはなんなのかなというアイデアが、どんどん膨らんでいきました。


自衛隊員だと感じさせられる身体づくりも素晴らしかったです。かなり筋肉増強したのでは?

いや、もともとあれぐらいですよ(笑)と言いたいですが、そんなことはなく、撮影中は常に筋肉痛でした。プロテインを飲んでは、現場のみんなに「この体をキープするの大変…」と弱音をこぼしていました。自衛隊基地でのロケも思い出深いですが、僕がいるときより、「ぴったんこカン・カン」(TBS系)で北川さんが来たときのほうが明らかに盛り上がっていました。隊員の皆さん、目の色が変わりすぎていましたよ(笑)。そのとき、北川さんと一緒にF2戦闘機に乗せて頂けたのも忘れられないですね。


北川景子さんとは初共演ですが、息の合った演技が印象的でした。お二人でどう演じようと話し合っていたのでしょうか?

北川さんと台本を読みながら話したのは「説明過多にはならないようにしよう。でも、説明しなきゃいけない部分もあるよね」ということでした。二人のやりとりは感情のぶつかり合いでいきたいので、「咲と紘一はどういった感情でその言葉を相手にぶつけたのか」ということを説明しすぎないようにするけれど、要約しすぎてしまうと見る人に伝わりづらい部分もあり、逆にあえて説明することで面白くなる部分もある。そのへんのバランスについて、北川さんとプロデューサーさん、監督さんたち、みんなで話し合いました。


北川さんはどんな女優さんだと思いましたか?

今回、出産直後で連続ドラマの現場に入って、スケジュールもハードでしたし、あそこまでのパワーを保ち続けるのはすごく大変だったと思います。家に帰れば家事育児もあっただろうに、最後まで可愛いくて美しかったですよね。疲れが顔に出ないというか、心身ともに強い人だなと思いました。撮影中は僕がテンション高くやろうとしていることに対していろいろな思いがあったでしょうけど、絶対に受けてくれるので頼もしかったですね。僕は吹っ切ってやるしかないので、さらに北川さんが咲のキャラクターを強調しすぎると、また違ったドラマになってしまう…そこのバランス感覚が絶妙でした。感情表現の引き出しが多く自然体、咲の気持ちを繊細かつ大胆に芝居を楽しんでいらっしゃった。女性なら共感するだろうし、男性は「かわいいなぁ。咲ちゃん、抱きしめたい」と思ったでしょうね。


クランクアップのときはどんな話をしましたか。

北川さんは号泣してらっしゃって、色々な思いを抱えながらやっていたんだなと改めて感じました。僕に「一緒に作品づくりができてよかった」と言ってくれて、本当に感動しました。思わず「お疲れさまでした」という流れでハグしちゃって、芝居じゃないのに抱きしめてしまって良いのか…ドキドキしました(笑)。


「リコカツ」は笑いの部分と切ない恋愛模様が混在していましたが、その切り替えはどうやっていましたか?

僕は毎話、前半はコメディー、後半はトレンディドラマのようなラブストーリーになると捉えていました。台本に沿ってやっていけば自然とそうなっていく。前半はライトだけど、最後に「だが、まだ君の夫だ」というような決め台詞と胸キュンシーンがある。でも、第1話を見たときは“紘一色”を出しすぎたなと反省したんです。「お前を護る!」とか言っても、この顔じゃやりすぎていて怖い。見ている女の子はキュンキュンしないだろうと思って、いわゆるラブストーリーでイケメンの俳優さんがやっているようなセリフの吐き方をちょっと意識しました。演じているうちにだんだん欲が出てきたのか、女の子ウケしたいという気持ちが(笑)。


紘一にとって年下の上官である一ノ瀬純を演じた田辺桃子さんも、Twitterで“筑前煮女”と呼ばれ注目されました。

最初の方、田辺さん本人は葛藤を抱えていました。例えば第2話で、キャンプ場の森の中に咲を置き去りにするのは本当にいいのかなと。僕は「そういうキャラクターをおいしいと思って思いっきりやったほうがいい。嫌われるんだったらとことん嫌われたほうが、あとでひっくり返すことができる」と先輩面してえらそうに言っちゃいましたけど、結果的にすごく魅力的なキャラクターになりましたよね。もともと田辺さんの持っている生真面目さの部分が一ノ瀬純とうまくリンクしていた気がします。


元自衛官の厳格な父親を演じた酒向芳さんとの共演はどうでしたか。

酒向さんとは初めて共演しました。初日に結婚式の場面を撮ったとき、酒向さんが僕の高いテンションに合わせてチューニングしてくださって、披露宴で急に紘一に叱咤する芝居をされていたので、お父さんとのシーンはまた違った紘一の側面を表現出来ると確信し、楽しみが増えました。紘一はずっと父親に影響を受けていて、お父さんは絶対的な存在。僕自身、父親が亭主関白で食事中は一言もしゃべっちゃいけないような家庭で育ったので、そこは紘一にシンクロするところだったんです。今の時代、あんな親子関係の方は少ないでしょうけど、若い子たちに「こういう父と子っているんだよ」ということは表現出来たかな。


そして最終回、紘一がフランスに行った咲を3年間待ち続けるというのは、納得のいくラストでしたか?

実は、僕は違う結末を考えて植田Pにぶつけていたんです。最終回、紘一は任務で災害救助に向かうけれど、行方不明になってしまって、しばらくして紘一の首に掛けていたドッグタグが海の中で発見される。紘一は無人島で生きていて、僕は全裸で体に海藻を巻き付けウォーって叫んでいる。誰かがGoogle Mapのストリートビューでその島をどんどん拡大していって発見されるわけです。咲が「えっ、紘一さん、生きてる!」となった顔で終わり、そして、「リコカツ ザ・ムービー」につながっていくという…。


とてもドラマティックですね。なぜそのアイデアが採用されなかったのでしょうか。

分からないです(笑)。もちろん、台本通りですごくいい結末でしたね。紘一があのマンションで3年待つ様子を撮影しているときは、正直、「何をやっているんだろう、普通なら耐えられなくなっちゃうよな」とは思ったし、ちょっと誘惑に負けて合コンに行っちゃうという案もありました(笑)。でも、紘一は絶対に揺るがない。最終回の仕上がりを見たときは感動すらしました。結婚指輪などを祭壇のように飾ってしまう紘一の変態性に(笑)。


瑛太さんはこの「リコカツ」でも、今年放送された「ライジング若冲 天才 かく覚醒せり」(NHK総合ほか)でも、他の出演者より高いテンションで切り込んでいくような演技が印象的でした。

その場の空気をぶち壊そうという意識はないけれど、役によっては、異物感として入っていきたいんです。子供のころから天の邪鬼だからなのか、どうしても人と違ったことをやりたい。そういう自分が運良く俳優の仕事をできているのはすごく幸せなことだと思うし、でも、仕事にするっていうことは楽しむだけでなく、責任感を持って命懸けで作品と向き合わなくてはいけない。「リコカツ」なら永山瑛太じゃなくて緒原紘一がどうなっていくのかをみせたい。ドラマの世界観の中でその人間がどうなっていくのかということに説得力を持たせるのは大事だと思っています。


確かに、笑えるのにリアリティーがあって、本当に紘一のような人がいるんじゃないかと思いました。

最近のドラマを見ていると、若い俳優さんたちはリアリティーがあり、とにかく上手い。緊張している方なんていないんじゃないかな(笑)。僕なんて俳優を20年やってきても、どうやったらリラックスできるのか分からない。今でも時々、緊張してガタガタ…手にすごい汗をかくし、心臓がバクバクしている音が胸元のマイクに拾われるぐらいなんです(笑)。今回、「リコカツ」が始まるとき、この役なら芝居は上手い下手じゃないってことを伝えられるとも思いました。現役のサッカー選手に例えるなら前田大然選手のような、ああいうプレースタイルが好きで、とにかくゴール前に走り込んでいく、技術だけじゃなくて気持ちでプレーする。一生懸命やっていれば、何かしらいい結果が生まれるかもしれないということを僕は信じているし、若い方たちにもそんな精神性が伝わっていたらうれしいですね。


長年、所属した事務所から独立して初めてのドラマ。瑛太さんにとって「リコカツ」はどんな作品になりましたか。

このドラマでお芝居するのがまた楽しくなりました。反省点もたくさんありますけど、キャラクターを作る楽しさと苦しみ、連ドラの楽しみ方ってこういうことだよなと改めて感じました。スタッフの力は大きいけれど、視聴者の多くはやはり出演者を見ている、良い作品かどうかの責任は俳優部にかかってくる。その意味で10話をかけ作っては壊しての繰り返し、連ドラは大変な事も沢山ありますけど自分の財産になる。回によって変化しても進化してもいい。無限の表現があり、どこかの時点でハイ現象みたいなことが起きて、どんどん役を膨らませる事ができる。そのことを改めて感じました。

このチーム全員で面白いと信じることを最後まで貫き通せたからこそ、この賞もいただけたし、第二の俳優人生を「リコカツ」の紘一でスタートできたのは大きな意味を持っています。改めて責任感を持って、これからの俳優人生を全うしていきたいと思います。

(取材・文=小田慶子)
リコカツ

リコカツ

交際ゼロ日で結婚した水口咲(北川景子)と緒原紘一(永山瑛太)が、離婚に向けた活動“リコカツ”を始める姿を描く。自由な家庭で育った自分に正直な咲と、厳格な自衛官一家で育った紘一はまるで正反対。幸せな新婚生活が始まると思われたが、生活習慣や価値観の違いで意見が食い違い、新婚早々離婚を決意する。

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