ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第110回ザテレビジョンドラマアカデミー賞脚本賞 受賞インタビュー

(C)TBS

奥寺佐渡子、清水友佳子

しおりの過去が明らかになる回は書きながら涙が出ました(清水友佳子)

「最愛」の脚本はお2人でどのように進めていったのでしょうか?

奥寺佐渡子「まず、新井順子プロデューサーが作った大筋のあらすじがあり、登場人物や誰が殺人事件の犯人かということも決まっていました。それに沿って全10話を清水さんと分担し、担当回ごとに書いていきました」
清水友佳子「執筆に入る前には新井P、塚原あゆ子監督たちと台本打ち合わせをしました。自分の担当回ではないときも参加して情報共有するようにしていましたね。ですから、私の書いた回に奥寺さんのアイデアをいただいたこともあります」

奥寺「このドラマは打ち合わせがめちゃめちゃ長くなりましたよね。最長で8時間かかりました」

清水「5時間ぐらいで終わると『今日は早かったね』と話していたぐらいです(笑)」


審査員、記者からは「伏線の張り巡らせ方がうまく、ミスリードも巧みで、最後までスリルを持続させた」と評価されました。サスペンスとして難しかったところはどこですか?

奥寺「やはり情報をかく乱するのが難しかったです。どうやって10話にわたり段階的に真相を明かしていくか隠していくのか」

清水「そうですね。ミスリードのやり方など、ドラマを見る皆さんは目が肥えているので、どう裏切っていくのか、みんなで頭を悩ませました」

奥寺「いろいろな登場人物が犯人かもと思わせる怪しい行動を取るわけですが、そういうミスリードだけでなく、その人にどういう背景があってどんなことを抱えて生きているのかという人間ドラマを、どう並行して見せていくかという点が悩みどころでした。打ち合わせでは細かい描写やセリフまで詰めました。終わってみると、反省点も数え切れないほどあります。隠さずにもうちょっと見せれば良かったというところも…」

清水「このドラマは説明し過ぎないものにしようと新井Pからも言われていましたが、説明が足りなかったかなと思う箇所もあるし、でも、描き過ぎたら興ざめになったかもしれない。いまだにどっちが良かったのかなと考えてしまいますね」


梨央(吉高由里子)をサポートする弁護士の加瀬(井浦新)がキーパーソンでした。加瀬はどのような人物として書きましたか?

奥寺「加瀬さんは常に優しく梨央に寄り添っている。その基本設定を崩さないようにしました。最終話まで見たときに、これまでの加瀬さんがつながることを意識して…」

清水「書いていて、加瀬さんが一番難しかったですね。そんなときは井浦さんに助けられました。ものすごく深く掘り下げて役を作ってくださったので、お芝居からインスパイアされて『こういうとき加瀬さんはこうするかな』と書いたところもありました。本来、脚本家が把握していなければならないのに(笑)」

奥寺「本当に井浦さんにはヒントをたくさんいただきました」

清水「このセリフをこのトーンで言うんだと驚きがあって、井浦さんのちょっとしたしぐさや表情、特に梨央を見るときの顔がヒントになりましたね」


俳優の演技が台本を変えたということでしょうか。

奥寺「井浦さんだけでなく、吉高さんや松下(洸平)さん、皆さんそうです。私が6話の台本を書き直しているときに放送が始まって、見ると、役者さんの演技がすごく生々しくリアリティーがある。それを反映して書く方がいいなと思いました。だから、今回、脚本を評価していただきましたが、芝居と演出の力、現場の熱量あっての受賞だと思います」

清水「私も、吉高さんや松下さんのお芝居や演出のトーンを見て、それまで自分の中でまだ少し曖昧だった世界観のフォーカスがカチッと合いました」

奥寺「梨央のキャラクターも、複雑な境遇をうそなく演じてくださる吉高由里子さんが想像よりはるかに素晴らしいので、しっかり書かなきゃと、背筋が伸びましたね」


しおり(田中みな実)という人物は大学時代に性被害にあったという設定で、この題材を扱うのは難しかったのではないですか?

奥寺「そうですね。実際にこういう被害にあわれた人が想像以上に多く、深刻な問題なので、安易な描き方をしてはいけないということは、作り手のみんなで確認していました」

清水「7話はしおりの過去が明らかになる回なので、私もメンタルをやられ、書きながら涙が出ました。しおりを救ってあげたい気持ちでいっぱいで、つらかった」

奥寺「本当に人としては一番救ってあげたい。でも、作劇上、それはできないつらさが…」

清水「見る人に、しおりを救わなかったことに意味を感じてほしいという気持ちもありました」

奥寺「田中みな実さんの演技も素晴らしかったです。7話のラスト、ホテルの部屋でしおりが梨央に語る場面を見て、最終話のしおりのセリフを、もっと心情を吐露する内容に書き換えました」


今回、オリジナル作で評価されたという手応えはありますか?

奥寺「オリジナルはネタバレがなく続きが分からないので、視聴者の皆さんも推理しながら見てくださって、反響が大きいという手応えはありました。ラブとサスペンスだけでなく、企業もの、創薬もの、警察もの、弁護士ものと、医療や法医学、陸上競技や方言、ありとあらゆる要素が入った作品だったので、監修の先生方に細かいところまで助けていただきました」

清水「原作がない作品はキャラクターを自由に作れる楽しさとやりがいがあり、みんなで愛情を込めて作り出した梨央や大輝、登場人物たちを応援していただけてうれしかったです。一方で、オリジナルのサスペンスを作る大変さを思い知りました」

奥寺「私はテレビドラマのオリジナル作でメインライターというのは初めてでした。それが新鮮でうれしかったし、面白くもあったし、大変でもあったし、自分の記憶にずっと残る作品になったと思います。『あの役者さんの、あのお芝居がすてきだったな』と、大切に思い出す作品になりそうです」

清水「お芝居も演出も素晴らしいこのチームに参加させてもらえて幸せでした。これまでで最も生みの苦しみを感じた作品でしたが、その分、思い入れも愛情も一層深い作品になりました」

奥寺「またこのチームに呼んでもらえるよう、これからも精進しないと、ですね」

清水「はい、頑張りましょう(笑)」

(取材・文=小田慶子)

最愛

殺人事件の重要参考人となった吉高由里子演じる実業家・真田梨央と、事件を追う刑事、そして、あらゆる手段で梨央を守ろうとする弁護士の3人を中心に展開するサスペンスラブストーリー。脚本はドラマ「リバース」(2017年)を手掛けた奥寺佐渡子と清水友佳子のタッグによるオリジナルストーリー。

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