ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第112回ザテレビジョンドラマアカデミー賞助演女優賞 受賞インタビュー

撮影=藤田亜弓

松本若菜

美保子さん役は私の宝物 真面目に遊びました

まずは受賞のお言葉からお聞かせください。

本当に本当にうれしいです。4カ月近く演じてきた深山美保子という人間が視聴者の皆さんの中で育ってくれたからこそ、こうした賞を頂けたのかなと思っています。けれど、この美保子という役が成立したのは、土屋太鳳ちゃんや松下洸平さんをはじめ、他のキャストの皆さんが芯のある芝居をしてくださったから。演者の皆さん、スタッフの皆さんのおかげだと思っていますし、本当に感謝しています。

まさに松本さんのイメージを一新する役どころでした。オファーが来た段階で、美保子がああいうキャラクターになることはすでに聞いていたのでしょうか。

まさかまさかです(笑)。台本に「ノコノコ」というセリフはありましたし、監督から「セリフは1.5倍速で」といったオーダーは撮影前にいただいていましたが、回を重ねるごとにどんどん美保子のクセが強くなっていって…(笑)。私の中でも美保子という役が根付いて、気づいたらもっと強い美保子を見せたいという気持ちになっていました。


今までもいろいろな作品で拝見しておりましたが、コメディエンヌという印象はなかったので、こんなにもコミカルな役がお似合いになるとは思っていませんでした。

そう言っていただけるとうれしいです。私としてはずっとコメディーをやってみたいなという興味はあったんですね。ですが、「やんごとなき一族」は決してコメディーではありませんので、まさかこの作品でこんなことになるなんて思ってもいないことでした(笑)。


最初に美保子さんとしてのギアが上がったのは、どのシーンでしょうか。

第1話の佐都さん(土屋)をサウナに閉じ込めるシーンですね。そこで、お母さんの良恵さん(石野真子)が倒れたという電話がかかってきて。それをガラス越しに口パクで佐都さんに伝えるのですが、本番の前に監督がいきなり「テストとは違う表情をしてください」とおっしゃって、「え?え?」みたいな(笑)。そんな中で生まれたのが、あの表情でした。


即興とは思えないインパクトでした。元々変顔が得意なんてことはあったんでしょうか。

普段から「顔がうるさい」とよく言われるんですよ。ですから、元々持っていたものが相まってのことかもしれません(笑)。

あとは、美保子さんは小指を立てるのがお決まりなんですけど、それもあの場面で携帯を持つときに監督から「小指を上げて」と言われたのがきっかけでした。あのサウナシーンから、美保子さんというキャラクターがどんどん固まっていった気がします。


あの場面は怒濤(どとう)の早口ゼリフでしたが、本番は一発オッケーでしたか。

それが何カットも撮っているから、どんどん口が回らなくなってきてしまって(笑)。しかもセリフも結構長いんです。それを(テストから本番まで)一連でずっとやっていたので、途中で何度かかんじゃってリテイクになったりしていました。


相当エネルギーがいるところです。

本当に(笑)。どっと疲れましたね。


そこから回を重ねるごとに、どんどん演技のおかずが増えていった印象です。あのアイデアは松本さん発信ですか。

そうですね。所作に関しては、現場で思いついたものをそのままというのは結構あったかもしれないです。


片手で顔を隠して佐都だけを見るところとか、お美しい顔が般若のようになって大笑いしました(笑)。

あれは確か、監督が最初に「目を隠しながらドヤ顔してください」とおっしゃって。そしたら、ああなりました。本当に般若ですよね(笑)。

替え歌も面白かったです。特に大変だったものはありますか。

第3話の「バッドバースデー」ですね。佐都さんがキッチンで思い悩んでいる中、私が「バッドバースデー♪」と歌いながら入ってきて。セリフをしゃべりながらワインをグラスについで、言い終わったタイミングで飲み干さなければいけなかったのですが、入れ過ぎちゃって飲み切れず、もう1回となることが何度かありました(笑)。いろいろなことをやりながら入れる量を調節しなければいけないので、そこが大変でしたね。


個人的には第5話で、有沙(馬場ふみか)の恋人・俊也(葉山奨之)に対し、「目を覚まして。現実を見て」と言うときに指を鳴らして「見てるよ」というジェスチャーをしたのがツボでした(笑)。

あれ、よく海外ドラマとかで見ません?(笑) ボーッとしてる人に対して「大丈夫? 私の目を見て」と言うときにあの仕草をやっているんですよ。それがパッと浮かんで。でも、テストのときにやったら、皆さん、「何それ?」みたいなリアクションでした(笑)。

馬場ふみかちゃんからも「笑ってお芝居ができないんですけど」と言われて(笑)。「ごめんごめん、邪魔はしないから」と言いながら撮影したのを覚えています。


第7話で泉(佐々木希)に対し、「イッちゃってる~」と人差し指を立てるのもインパクトがありましたが、あれは台本通りですか。

「イッちゃってる~」は台本にはなかったですね(笑)。確か台本では「怖い~」だったと思うんですけど、実際に佐々木希さんと対峙させてもらったら、完全に「イッちゃってる~」だったので、ついあのセリフが出てきてしまいました(笑)。


第10話ではヨガ中にぺこぱ・シュウぺイさんの“シュウぺイポーズ”も入れていましたね(笑)。

あそこは目をつぶって瞑想しているんですけど、ヨガポーズって目をつぶるとふらつくんです。それで安定させようとしたら、自然とああなっていたんですよね(笑)。

シュウペイさんとは、先日、お会いする機会があったので、「すみません、ちょっと使わせてもらいました」とお伝えしたら、シュウペイさんもご覧になっていたみたいで。放送後ですが、ご本人からちゃんと快諾していただけました(笑)。


こちらの勝手な思い込みかもしれませんが、いつの間にかどんどん夫役の尾上松也さんと顔が似てきているのも気になりました(笑)。

不思議なもので似てきたんですよね(笑)。意識なんてしていないですし、お互いにそういう話もしていないんですよ。後半にかけて一緒のシーンも少なくなっていましたし。それでも、なんだか似てきちゃって。私も不思議でした(笑)。


街中で「美保子さん」と声を掛けられる機会も増えたのではないでしょうか。

そうですね。この間も「美保子さーん」と声を掛けていただいたので、小指を立てたら「キャー!」と叫ばれてしまって。「どっちのキャー? 怖かった?」なんて思いつつ、とてもうれしかったです。


強烈な演技が話題をさらった美保子さんでしたが、演じていて最も大切にしたことは何ですか。

もちろんクセの強いキャラクターは美保子さんらしさの一つでもあります。でも、美保子さんは生まれながら良家の娘ではなく、自分の出自にコンプレックスを抱えながら自力でのし上がってきた過去がある。そこは大切にしたいなと思いました。

どうしても面白い人って、出てきたら笑っちゃうみたいなところがあるじゃないですか。だけど、美保子さんの過去がバレるところなんかは、すごく真面目なシーンです。コミカルなところとシリアスなところの落差をちゃんとつけるためにも、彼女の過去に関する場面はいつもより感情を強めに出すように心掛けました。


分かりやすいネタキャラとして消費するのではなく、一人の人間としての背景までしっかり見せたかったと。

そうですね。見ていただく方に、こっちは笑えるシーン、こっちは真面目なシーンとちゃんと区別していただけるようにというのは考えていました。


そこで思い出すのが、第5話です。駆け落ちした有沙(馬場ふみか)を家に連れて帰るとき、美保子さんは車内で「私たちに憧れを持ってくれる女性もたくさんいる」と話します。あそこはとても心に残りました。

ありがとうございます。あそこも美保子っぽくやろうと思えばできるシーンではあるんです。でも、監督からも「ここは有沙に言って聞かせるのではなく、自分自身に言い聞かせるイメージで」という話があって。だからあえて抑揚はつけず、淡々と演じました。

そのあと、美保子さんの出自が明らかになるわけですが、その伏線となるのがこのシーンなんですよね。初めて美保子さんが人間っぽいところを見せるというか、ただのヒールではないことが分かってもらえるシーン。個人的にもすごく好きです。


毎回、松本さんの演技がSNS上でも話題でした。視聴者からの反響をどんなふうに受け止めていましたか。

最初は日本中から嫌われるようなヒール役になる覚悟で演じていました。でも本気で演じれば演じるほど、なんか憎めないんだよねという声が増えて。今振り返れば、その憎めなさが美保子っぽさなのかなと。

美保子さん自身も本気なんです。深山家の長男の妻としてうまくいっていたところに佐都さんが現れて、いろいろなことが思い通りにいかなくなった。そして、それをどうにかしてやろうと画策するたびに、変な方向に変な方向に進んでいっちゃう(笑)。きっとこのうまくいかないところが視聴者の皆さんに愛着を持っていただけた理由なのかなと思っています。


松本さんはこれまでもいろいろな連続ドラマで活躍されていますが、特に近年目立つのは「ミステリと言う勿れ」(2022年、フジテレビ系)の猫田刑事のような、1話限りのゲスト出演です。こうしたスポットでの出演のときに心掛けていることは何ですか。

現場の居方としては、なるべくコミュニケーションを取ること。

私、すごく人見知りなんですね。でもある先輩から「若菜ちゃんはしゃべったら気さくなのに、そうやって壁を作るのはもったいない。最初はつらいかもしれないけど、もっと人と話した方がより早く自分のことを知ってもらえるし、相手のことを知ることもできるよ」と言っていただいて。それからは特に自分から話し掛けることを意識するようになりました。

当たり前のことのように聞こえるかもしれませんが、20代の私には到底無理な話だったんですね。特に単発で入る場合、すでに出来上がっているチームにお邪魔するわけですから、なおさら緊張してしまって。

そこで役に立っているのが、その先輩から言われた「人見知りではない自分を演じるつもりで人と対峙すると楽になれるよ」というアドバイスです。そうやって思い込むだけで、確かに気持ちが楽になれた。おかげでお芝居に関する相談もしやすくなりました。


出番が限られているからこそ、その中でちゃんとコミュニケーションを取ることが大事なんですね。

そうですね。あとは、やっぱり作品全体のことを考えることです。ゲスト出演の場合、台本ってその回のものしか頂けないんですね。そうすると、それまでの経緯がつかめないこともある。

ですから、もし見ていない作品の場合は必ず1話からチェックしますし、ストーリーの主軸とつながる部分に関しては監督やプロデューサーに相談して、ちゃんと納得してから現場に入るようにしています。


今回、助演女優賞ということで、松本さんの助演に対する考え方も聞いてみたいです。中には「脇役」という呼称をネガティブに捉える人もいますが、松本さんは助演というポジションのどんなところに誇り、やりがいを感じますか。

5年前、ヨコハマ映画祭で賞を頂いたときも、今回と同じ助演女優賞でした。そのときに知り合いから言っていただいたのが、「主演女優賞ももちろんすごい。だけど、主演女優は数が限られている。助演女優賞は、主演女優の何倍もの対象者の中から選ばれる。だからすごいことなんだよ」という言葉で。そこから「脇役として生きていこう」「私の居場所はここだ」と思うようになりました。

先ほど作品全体のことを考えると言いましたが、そんなふうに思えるようになったのは、ここ最近で。それまでは自分の役のことしか考えられていなかったんですね。

でも、脇役は悪目立ちしてはいけない。作品全体のことをちゃんと理解した上で、自分の役はどうあるべきか考えられるようになったのは、ヨコハマ映画祭で助演女優賞を頂いてからでした。

今回、こうして助演女優賞を頂いて、あのとき、知り合いからもらった言葉を思い出したし、またここから新しいスタートを切れるという気持ちです。


7月クールの「復讐の未亡人」(テレビ東京)では主演も務め、ますます活躍のフィールドが広がっています。

本当にありがたいです。こんなチャンスを頂けるのも、これまでやってきたことがあるからですし、「脇役」は今の私を形成してくれたもの。こうして賞を頂けたことで、今までの自分をまた一つ肯定できた気持ちになれましたし、もっと面白いものを作ろう、また別の作品でも爪痕を残そう頑張ろう、という励みになりました。


では最後に、美保子という役が松本さんにくれたものを教えてください。

確実に私にとって宝物ですね。私の女優人生に新たなスパイスを加えてくれた役だと思っています。こうやって賞を頂けたのは、多くの方に美保子さんを愛していただいたから。ちゃんとしまっておかないとすぐにまた出てきちゃうので(笑)、心の奥底に大切にしまいつつ、美保子さんに出会えたことに感謝しながら、今後も女優人生を続けていきたいと思います。

(取材・文=横川良明)
やんごとなき一族

やんごとなき一族

土屋太鳳主演で、こやまゆかりの同名コミックをドラマ化。庶民の家庭から上流社会の一族に嫁ぐことになった主人公・佐都(土屋)が、理不尽な一族のしきたりや親族内の複雑な人間関係に翻弄(ほんろう)されながらも、夫・健太(松下洸平)と共に立ち向かい奮闘する様子を描く。脚本は神森万里江ら、演出は田中亮らが務める。

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