ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第113回ザテレビジョンドラマアカデミー賞最優秀作品賞 受賞インタビュー

(C)TBS

石子と羽男―そんなコトで訴えます?―

完璧じゃない彼らを愛してもらえたのなら、うれしいです(新井順子P)

作品賞を受賞した感想を教えてください。

作品賞、ありがとうございます。本作のテーマは「声を上げる」ということ。過去のリーガル作品との差別化も考え、身近なネタを取り扱いました。しかも、弁護士や医者と聞くとスーパーマンのようなイメージがありますが、知り合いの弁護士さんに「弁護士だって失敗するし、普通の人間だから」と言われ。何かが足りないから人間味があり、人に寄り添える、そんな主人公にしたいと思いました。完璧じゃない彼らを愛してもらえたのならうれしいです。


今回、リーガル作品を手掛けようと思われた理由から教えてください。

自分は助監督時代を含め、リーガルものを手掛けたことがなくて。“やったことがないからやってみよう”という単純な興味から始まりました(笑)。ただ、ドラマ「リーガル・ハイ」(2012年ほかフジテレビ系)や「99.9-刑事専門弁護士-」(2016年ほかTBS系)といった過去の人気リーガル作品と違ったものにするにはどうしたらいいか…と考えたときに、大きな事件ではなく、身近にあるような問題でいこうと思って。「それって実は犯罪なんだ」といった視聴者の皆さんに“あるある”と思ってもらえるような題材を取り扱ったら差別化できるのではないかと思ったんですよね。


世の中にあふれているモヤモヤをすくい取り、そこを鋭く突くようなストーリー展開でした。投票理由の中にも「現代の事件が題材になっているところが身近に感じられて興味深かった」という意見がありました。

良かったです。このドラマは「声を上げる」というテーマを核としていて。実は私も過去にトラブルが起こり、賠償金を支払ったことがありまして。こちらに非があったので、いろいろ調べたりもせず、要求通りに応えてしまったのですが、後々、弁護士の先生に話したら「そんなに払う必要なかったよ。相談してくれれば良かったのに」と言われ…。日本人って、言われるがままに了承しがちなんですよね。そんな経験もあり、(視聴者に)寄り添えるような作品にしたいなと思いました。脚本の西田(征史)さんにも「学生にも分かるように、説教くさくなく、今の問題を伝える作品にしたい」とお願いしました。


作品内に出てきた問題や案件は、新井プロデューサーがピックアップされたのですか?

ドラマのプロットを作る前に20個ぐらいネタを考えて。ニュースやネット記事を見て、自分が気になったものもありますし、20代~50代のライターさんと打ち合わせして、今、興味があることをリサーチしました。


3話の著作権法違反の話で、「ファスト映画」を取り扱われていたのが印象的かつ、作り手側としての強い意思を感じました。

ネタ探しのとき、ちょうど、ファスト映画の問題で逮捕者が出たとニュースになっていた頃で。その後、脚本を進めているうちに、どんどん大きな話題になっていったんですよね。ファスト映画に関しては、「よくぞやってくれた」という感想も多くいただきましたね。


ラスト、加害者(ファスト映画の投稿者)に対して、被害者が「許せない」と否定する。この終わり方も衝撃的で…。

許すのか、許さないのか、私も迷っていたところがあって。最初は、“許す”という台本を用意していたんです。でも、山本(剛義)監督に意見を求めたら「これは許してはいけない」と。ビターな終わり方のほうがいいですよ、ということで、放送された内容に変更しました。ドラマ的には救いがあったほうが良いということもありますが、ファスト映画に関しては、作り手側の我々が世に出す以上、許してはいけない。私たちの話だからこそ、あのラストでいこうと決めました。


人間の心理に迫る着地点だったと思います。どのキャラクターも人間味あふれていて、魅力的でしたが、主人公の硝子(有村架純)や羽根岡(中村倫也)など、登場人物についてこだわった点はどのような部分ですか?

硝子や羽根岡に関してはどこか欠陥のある人物にしたいなと思って。例えば、ドラマや映画に登場する医者や弁護士って、スーパーマンみたいな人が多いじゃないですか。でも、実際は失敗だってするし、何でもできるわけではない。本作は、「声を上げる」というのをテーマにしていますが、依頼者だけでなく、トラウマやコンプレックスを抱えて苦しむ主人公たちも声を上げたらどうかなという発想から、硝子と羽根岡が生まれました。


「硝子と羽根岡の軽快なやりとりが面白い」という声も多く聞かれました。脚本を読んで、このやりとりは秀逸だなと思われたシーンがありましたら教えてください。

1話の冒頭、羽根岡が初めて潮法律事務所にやって来るシーンですね。硝子が洗濯物を取り出しながらしゃべっていた場面はワンシチュエーションでずっとやりとりしていて。あそこは台本では数ページにわたっていて、台本を読んでいても大変面白かったです。#2で扇風機をカチカチしていたのは(羽根岡役の)中村倫也さんのアドリブ。事務所はさまざまな面白いお芝居が生まれた場所です。


ちなみに、最終回でも硝子と羽根岡が山盛りのかつ丼を食べながらお互いの思いを打ち明ける場面がありましたが、爆食シーンを入れた意図は?

物語の舞台は、“鴨ヶ谷”という架空の下町なのですが、何か街のウリが欲しいという話になり、塚原(あゆ子)監督から「爆食はどうか」と。ちょうどロケハンをしていた場所でも、“荒川おでん”という旗が立っていて、そんなふうに旗やのぼりがはためいてたらいいかもしれないと。なので、爆食は街のイメージを作るための演出です。


最終回の「ずっと晴れていれば傘もいらない」という大庭(赤楚衛二)のセリフも心に響きました。番組タイトルが流れるところでも、硝子と羽根岡が傘を差していたり、劇中、度々、傘が出てきましたが、傘の色などにも何か意味はあったのでしょうか?

「真面目に生きる人々の暮らしを守る“傘”になろう」というのが潮法律事務所のスローガンであり、それは西田さんの案で。脚本を読み、一生懸命頑張っている人たちを守るための傘、という発想が素敵だなと思い、オープニングタイトルやポスタービジュアルなどでも傘を小道具として使いました。

最終回のラスト、横断歩道で立ち止まってしまった硝子に羽根岡が青い傘を差し出す。あの傘はスタイリストさんが提案されて、監督もOKされていました。(大庭拓が書いた)“晴”の文字も青でしたし、“晴れ”の青にかかっているんだと思います。


(取材・文=関川直子)
石子と羽男―そんなコトで訴えます?―

石子と羽男―そんなコトで訴えます?―

有村架純、中村倫也のW主演で、正反対のようでどこか似た者同士の二人が成長する姿を描くリーガル・エンターテインメント。有村は、司法試験に4回落ちた崖っぷち東大卒のパラリーガル・石田硝子、中村は司法試験予備試験と司法試験に1回で合格した高卒の弁護士・羽根岡佳男を演じる。脚本は西田征史が手掛ける。

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