ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第115回ザテレビジョンドラマアカデミー賞監督賞 受賞インタビュー

(C)日テレ

水野格、狩山俊輔、松田健斗

目標として掲げていたのは、世界に出して恥ずかしくないものを作ること(水野格監督)

監督賞を受賞した感想を教えてください。

ありがとうございます。僕が代表してトロフィーを受け取りましたが、このドラマでは通常の作品以上にスタッフがいろんなアイデアを出し、クオリティーを上げてくれました。キャストでは主演の安藤サクラさんが受賞し、助演女優賞は夏帆さんが受賞したわけですが、麻美たちは木南晴夏さんも入れて3人組だし、そこに水川あさみさんが加わって4人組にもなったので、正直、みんなで受賞できれば良かったなぁという気持ちもあります。しかし、作品賞も頂けたので、結果的に全員での受賞ですね。

投票した記者や審査員から「平成の30年間を振り返っていく設定が面白く、プリクラやシール交換など細かい時代設定も作り込まれていた」とも評価されました。

美術スタッフや助監督がいろんなところに奔走して当時のものを用意し、ノートなども書き込んで作ってくれました。プロデューサーたちもリサーチに尽力しくれました。例えば、劇中に出てくる流行歌は最終的には僕と小田玲奈プロデューサーで決めていましたが、そこに至るまでスタッフから脚本のバカリズムさん、サクラさんの案まで出してもらい、その都度、いろんな人の案を採用しました。


最終話で麻美たちがCHAGE and ASKAの「YAH YAH YAH」を歌っていたのはどなたの案ですか?

それは僕です。僕は入社12年目の33歳で、麻美とは同世代。この曲は「振り返れば奴がいる」(1993年フジテレビ系)の主題歌で放送時、僕たちはまだ幼かったんですが、それでもカラオケでは盛り上がる曲として「YAH YAH YAH」を歌う人が結構いたんですよ。それが記憶に残っていたので選びました。サクラさんや水川さんもノリノリで歌ってくれましたね。そこで夏帆さんがチャゲアスのMVのようにコートをたなびかせようと言って、風が吹いている真似を。だから、水川さんは前のシーンで脱いだコートをわざわざもう一度着ているんです。


画面から伝わる通り、和気あいあいの現場だったのですね。

撮影は楽しかったですね。正直、お芝居については手だれの俳優さんばかりで、もうお任せという感じでした。サクラさんは「このドラマは女優の放牧だった」と総括していましたが、本当にそういう感じです。演出として気を付けていたのは笑いの部分というか、セリフの間やリズムやテンポについて。そこは細かくリクエストを出していきました。いずれにせよ、演出と役者を始め、高い信頼関係のもとに成り立っていた現場で、通常ならどうしてもいろんな齟齬(そご)が発生しがちなところ、今回はみんなの気持ちが一つにそろっていたと思います。


安藤さんの演技で印象的だった場面は?

麻美の5周目の人生なんですが、最初に撮ったのがお父さんの誕生日の場面で、サクラさんが「今までちゃんと祝ってなかったけど、最後だからしっかりお祝いしたらどうか」と美術さんにお願いして謎のサングラスと帽子を出してきて「これ使うのとか」と提案されたんですね。僕は正直、それがどんな場面になるのか想像つかなかったけれど、培ってきた信頼関係があるので「この人がここまで言うんだったら」と思い、実際にやってもらったら、サクラさんがものすごく動いて、踊りだしたんです。

それを見たとき、4周目の麻美は感情が抑制されていたけれど、5周目はもう「悔いのない人生を生きる」「今を楽しむ」という事で身体表現で感情があふれ出てしまうということでいいんじゃないかと思いました。

最終話で問題のフライトに麻美が搭乗できることになる場面でも、サクラさんが全身で喜びを表現してくれて、その場で感じたままに演じたんだと思うんですけど、やはり天才肌の人だから、うまく作品全体にリンクしていくんですよね。


麻美は人生を5周し、中盤で仲良し3人組が実は4人組だったと分かります。時間軸が入り組んでかなり複雑な展開になりますが、どうやって整合性をつけていたのですか。

混乱しないよう年表は作っていましたね。麻美の1周目、真里(水川あさみ)の2周目…というように。クランクインの時点で既に作ってあり、それをどんどん更新していきました。


撮影も計画的に進められたのでしょうか? 麻美たちが振り袖を着る成人式も複数のパターンがありました。

成人式は会場を借りる都合もあり、1日の撮影で全パターンをやってしまいました。第2話の時点で麻美の人生5周目、第9話の分まで撮りましたね。その時点で全話の台本が出来ていたわけではないので、バカリズムさんに無理をお願いし、後半のストーリーを予想して撮りました。麻美の5周目の成人式では真里が隣に座るわけですが、なんと水川さんはその日がクランクイン。いきなり、サクラさん、夏帆さん、木南さんの空気感が出来上がった中に入って演じることになったのですが、コミュ力がとんでもなく高い人なので、すぐなじんでくれました。でも、後で聞いたらやはり水川さんは水川さんなりに、すごく緊張していたそうです。


水野さんが演出家として目指したことはなんでしょうか。

僕が目標として掲げていたのは、世界に出して恥ずかしくないものを作ること。今は配信サービスで手軽に海外のクオリティーの高い作品を見られる時代になっているじゃないですか。それに対して地上波のドラマはなかなか質的に追いついてないという現状を自覚していましたし、監督として競うべき相手はそちらだと思ったので。だから、今回は映画畑のカメラマン・照明技師を迎え、まだあまり日本のドラマでは使われていないシネレンズで撮影しました。


バカリズムさんの脚本なら世界に通じるものになるという考えもありましたか。

そうですね。数年前からバカリズムさんと小田Pと3人で話し合い、本当にゼロから企画を立ち上げていきました。その過程でバカリズムさんのアイデアの一つが「ブラッシュアップライフ」になったんですけど、世界を目指すということとは逆説的に、すごく日本的な話だなと思ったんですよ。地方都市で生きる女性を描く、いわゆる地元の話だから、日本的な作りにした方がいい。そこで、昔の日本映画、小津安二郎監督や成瀬巳喜男監督の名作を見直しました。それをカメラマンと共有し、どう撮っていけばいいかを相談しました。


日本のありふれた街の暮らしをとことんリアルに描くことで、逆に世界の人に面白いと思ってもらおうということですね。

そうです。多くの日本人はこういうふうに大きくなっていくという過程をきちんと描けると思いました。バカリズムさんの台本だから基本的にはコメディーだけど、それに対してクオリティーを伴わせることを目指しました。ジャンルとしてはタイムリープものということになっていますが、どちらかというとゲーム的発想というか、転生ものに近い。その要素はあると思いましたけど、あまり意識しないようにしました。


やっぱり描こうとしたものは、地方都市に暮らす女性たちの絆ということでしょうか。

そうですね。友情と家族の話で、メインは友情ですよね。人生を何周もする間に家族のドラマもありつつ、女友達のつながりの話に最後は帰結する。それで「地元っていいよね」ということからさらに今世を肯定する話になるようゴールを設定し、そこへ向かっていきました。撮影は最終回の直前までかかり、作業としてはかなりハードでしたが、みんなで妥協せずに頑張った結果、納得のいく作品になったと思います。
(取材・文=小田慶子)
ブラッシュアップライフ

ブラッシュアップライフ

安藤サクラが主演を務め、バカリズムが脚本を手掛けるタイムリープヒューマンコメディー。市役所で働く実家住まいの独身女性・近藤麻美(安藤)が、ある日突然、人生をゼロからやり直すことになる。気が付くと産婦人科のベッドの上にいて、目の前には若き日の父と母の姿があった。麻美の2周目の人生が始まる。

第115回ザテレビジョンドラマアカデミー賞受賞インタビュー一覧

【PR】お知らせ