ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第117回ザテレビジョンドラマアカデミー賞監督賞 受賞インタビュー

(C)TBS

福澤克雄、宮崎陽平、加藤亜季子

僕が大きい企画に挑戦するときがきたら、きっと今回の福澤監督を思い出す(宮崎陽平監督)

監督賞おめでとうございます。宮崎陽平監督、加藤亜季子監督は、チーフ監督の福澤克雄さんと同じTBSドラマ制作部のディレクターさんですね。

宮崎:ありがとうございます。そうですね。僕たちは2015年入社の同期です。僕はずっとドラマ制作部で、“ジャイさん”こと福澤監督の下で「下町ロケット」(2015年)から演出補として学び、他作品で演出としてデビューして以来、初めて今回ジャイさんと演出としてご一緒し、全体の演出補をしながら第6話をメインに演出をしました。

加藤:監督賞、ありがとうございます。私は入社以来バラエティーの制作部にいましたが、6年前にドラマ制作部へ。第9話の演出を担当しました。宮崎と同じく、今回は演出補でもあり、モンゴルロケも含め、ほぼ全話に携わりました。


モンゴルロケは2カ月をかけたそうですが、大変だったのはどんなことでしたか。

宮﨑:僕は事前準備も含め3カ月以上滞在しました。モンゴルロケは楽しかったけれど、やはり慣れない外国ということで、想定外のことも多々、発生しましたね。

加藤:モンゴルのスタッフはベストを尽くしてくれましたが、ラクダが登場するシーンを撮影する前日の夜11時に「ラクダ、明日は無理です」という連絡が入ったことも。遊牧民の人がラクダを連れてきてくれるんですが、やっぱり間に合わなかったと…。

宮崎:あれだけの豪華キャストにモンゴルまで来ていただいているので、「スケジュールが1日でも延びたら終わり」という状態なのに、そんなことになってしまって。

加藤:もう街灯もない真っ暗なところで、「明日のラクダ、どうしよう~」とジャイさんも一緒に皆で頭を抱えました(笑)。

宮崎:結局、撮影予定のスケジュールを入れ替えるしかなく、しかし泊まっているところではインターネットが使えないのでメール連絡ができず、慌ててPCプリンターで変更箇所を印刷して、スケジューラーさんがキャストの皆さんに配ってくださいました。後輩の皆も、夜中に皆さんの泊まっているゲルの扉をコンコンとノックして…。

加藤:堺雅人さんを始め、キャストの皆さんは、そんな急な変更にも対応してくださって、もう、感謝しかありません。


加藤さんが演出した第9話は、ベキの若かりし頃が描かれ、一つの映画のようでしたが、やはりモンゴルで撮影したのでしょうか。

加藤:そうです。あの回はモンゴルロケの最後の方で、ジャイさんも帰国してしまった後。1週間で撮り切らなければならず、土砂降りだけれど撮るしかない!撮影用の爆薬が消えちゃうかもしれないけれど強行突破するしかない!!と、そんな状況でした(笑)。そこで若き日のベキを演じてくれた林遣都さんが撮影の相談に乗ってくださって、いろいろ提案までしてくださり、本当に助けていただきました。


モンゴルの風景に感動したところ、撮影で手応えがあった場面はどこですか?

宮崎:第1話の後半で、砂漠を回ってきた乃木、野崎(阿部寛)、薫(二階堂ふみ)、ドラム(富栄ドラム)が、羊の大群に紛れてクーダンに入ろうとするところ。あの映像は日本では撮れませんでした。大変でしたが、キャストの皆さんも現地スタッフの皆さんも、顔を土ぼこりで茶色にしながら一生懸命、羊さんとヤギさんと撮影しました。

加藤:その後のシーン、乃木たちが街中を馬で駆け抜ける場面も、日本では絶対に撮れないシーンでしたね。

宮崎:そして、第6話、ダルバンという国でテントが爆破テロを起こした場面も、海外ロケならではの迫力のある映像が撮れました。あの場面がモンゴルロケのクランクアップだったので、モンゴル人のスタッフさんが「撮影終了!」とお祝いにシャンパンを持ってきてくれて、忘れられない思い出の日になりました。


主演男優賞を撮った堺雅人さんの演技はいかがでしたか?

宮崎:堺さんは、乃木ともう一人の人格“F”との切り替えが完璧で感動しました。Fがどんなふうに現れて、どういうときがFなのか、深く考えていらして、台本に乃木と書かれているところでも「いや、ここはFなんじゃないか」と何度か相談して演じられていました。乃木とFのキャラは僕たちの想像を遥かに超えるお芝居で、僕たちはリハーサルの度に堺さんの演技を見ては「やっぱり堺さんのお芝居すごい…」と盛り上がっていました。

加藤:本当に堺さんのお芝居は圧倒的でした。乃木とFが一つの画面で会話するシーンはグリーンバックで撮ってCG処理することもあり、堺さんは同じ場面を2回ずつ演じなければならず、大変だったと思います。

宮崎:ジャイさんが堺さんのことをピッチャーに例え「何回でも同じ球を投げられる人」と言ったそうですが、本当にそうなんですよ。しかもその投げる球が速いし、絶対に間違えないから、僕たちも共演者の皆さんもビックリする。「たまには間違えてほしい」と思う共演者の方もいると聞きます(笑)。

でも、僕が演出した第6話、乃木と薫が家で一晩を過ごす場面では、堺さんもあまりこういう王道のラブシーンをやったことはないということで、二階堂さんも交え3人で、どこまで不器用にしてどこまで気持ちでいくかなど相談させていただいたのを覚えています。


助演男優賞を獲得した阿部寛さんとはどんなやりとりをしましたか。

宮崎:阿部さんとは「下町ロケット」「DCU」など何度もご一緒させていただいていますが、とても作品愛が深く面白い方です。例えば、野崎がガッツポーズをするシーンでは、撮影裏で何パターンも違うガッツポーズのやり方を相談してくださって、どのぐらいのテンションでやるかなど一緒に考えさせていただきました。

加藤:私たちみたいな若い監督にも気さくに接してくださって、いろんなことを相談しやすかったです。


「VIVANT」は主演級のキャストが豪華共演したこと、また壮大なスケールの映像が高く評価されましたが、監督として得たことはなんでしょうか。

加藤:ジャイさんは私たちに駄目出しはしないんですよ。ただ、演出として押さえるべきポイントを教えてくれました。第9話では、乃木が株式操作でお金を稼ごうと言い出したとき、ベキがやるべきかどうか悩む。そこで、みんなが座ったまま展開するのではなく、決断したベキが立ち上がって話せば、「何を言うんだろう」と注目させることができる。そうアドバイスしてくれました。

宮崎:そういうことは何回かありましたね。やっぱり、今回は一見「本当にこの台本のまま撮影するのか」と多くの人が思うくらいのスケールが大きい企画だったんですけど、ジャイさんが全身全霊を込めて一つずつ丁寧に面白いものを作り上げていく姿を目の前で見ていて、色んなことを勉強することができました。

この先いつか、僕が大きい企画に挑戦するときがきたら、きっとこのときの福澤監督を思い出すんだろうな…と思っています。今回、久々に助監督として目の前でジャイさんの演出を見て、さらに一緒に演出をやらせていただいたことが、自分の骨肉になっているといいなと思います。

加藤:私も「本当に誰も見たことのないドラマを作るぞ」というジャイさんの気概に引っ張られて、これまでやったことのない演出に挑戦できました。一生に一度あるかどうかの貴重な経験ができたことを、本当に感謝したいです。

(取材・文=小田慶子)
VIVANT

VIVANT

堺雅人が主演を務め、阿部寛、二階堂ふみ、松坂桃李、役所広司が共演するアドベンチャードラマ。「華麗なる一族」(2007年)、「半沢直樹」シリーズ(2013年ほか)、「下町ロケット」シリーズ(2015年ほか)などのヒットドラマを世に送り出してきた福澤克雄が原作・演出を手掛けるオリジナル作品。

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