ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第119回ザテレビジョンドラマアカデミー賞ザテレビジョン賞 受賞インタビュー

撮影=阿部岳人

鈴木おさむ

若い作家さんが、面白い番組を作ってくれるのを楽しみにしています

「離婚しない男―サレ夫と悪嫁の騙し愛―」はテレビ朝日のドラマとして初めて見逃し配信再生回数3000万を達成。鈴木さんが2024年3月いっぱいで放送作家から引退すると宣言し、最後のドラマになるということでも注目されました。

とにかく話題になって良かったです。ちゃんと再生回数などの結果が出たのもありがたかったですね。僕の書く最後の地上波のドラマになるので、もうかっこつけたりしないで、振り切ってやろうと思った結果ですかね。

伊藤淳史さん演じる夫・渉と篠田麻里子さんが演じる妻・綾香、妻の浮気相手・マサト(小池徹平)という泥沼の三角関係や、篠田さんの体を張ったベッドシーンも話題になりました。

このドラマには原作漫画があり、激しい性描写が多いので、それを読んだとき、夜11時台とはいえ、地上波でそこまでやる覚悟があるのかなと思ったんですね。かと言って、セクシーなシーンだけでは見てもらえないだろうし。そう考えたとき、僕が「奪い愛」シリーズや「M 愛すべき人がいて」(2020年テレビ朝日系)などで確立した“笑ってはいけないドラマ”というジャンルがあるので、そのスタイルを採り入れてみました。


綾香が自宅にマサトを連れ込んでセックスしているソファの下に夫の渉がいるというシチュエーション。でも、不倫している様子を撮影して証拠にしなければならないし、という…。

一見、クソ真面目にやっているんですけれど、相当ふざけているんですよね。今の時代、コメディーを最初から喜劇として打ち出すのは難しく、「いろんな見方ができるけれど、時に笑えるもの」というのが正解なんだと思います。

僕が中学生の頃も、大映ドラマの「スクール☆ウォーズ ~泣き虫先生の7年戦争~」(1984~1985年TBS系)を見て、ラグビー部員のイソップが死んだときは泣いたけれど、山下真司さん演じる熱血教師が生徒を殴るシーンはみんなマネして面白がっていました。そういう「香ばしさ」があって、みんなで共有して楽しめるというのがテレビの良さだったんですよね。今、そういうものが消えつつある中、「離婚しない男―」ではちょっと再現できたのではないかと。

うちの奥さん(大島美幸さん)が第1話を見て「面白かったけれど、子供に見せたら、ぶっ殺す」と(笑)。でも、子供に見せられないものってテレビとしては最高じゃんと、むしろうれしかったです。


性描写でも攻めていましたが、鈴木さんが脚本に書いたことはほぼ通ったのでしょうか。

いやいや、全然ですよ。まずは僕が一度、突き抜けないと、みんなどこまでやっていいか分からないと思ったので、初稿はブレーキをかけず、やり過ぎだというぐらい書きました。オンエアされたのは、その半分ぐらい。それでも、僕としては予想より使ってくれたなという感じでした。ただ、セクシーなシーンでも、面白さで解決する(許される)というとはありますよね。綾香とマサトがさんざんセクシーなセリフを言い合って、最後にマサトが「グレイテスト・ショーマン!」と叫ぶ。その1行があることによってセクシャルなシーンがOKになる。


パロディーのような相対化できるセリフということでしょうか。

というより、そのシーンのゴール(オチ)となるセリフですね。小池くんも私生活では良き家庭人なのに、たぶんその面白さがあるからマサトを演じてくれたんだと思うんです。篠田さんの「(夫より)1兆万倍いい!」というセリフも、今回、役柄に不安もあったという中で言えば、逆に突き抜けられるのではと…。「こんなセリフ言ってみたい」「自分の人生では言うことない」というようなひと言。たとえそれがくだらないことでも、結構大事だと思っていて、台本で他の部分はどれだけ変えても、そういうセリフだけは削らないでくれとリクエストします。


その意味では「奪い愛」シリーズで鈴木さんと組んできた水野美紀さんの快演も光りましたね。「おセックスしたんですか」という名セリフもあり…。

水野さんが演じた弁護士のトキ子については、いつも通り面白い水野さんを見せてくれたそのセリフより、最終回で生き別れになっていた息子に土下座するシーンをゴールにしていました。これで僕が引退すると言ったら、水野さんはすごく残念だと言ってくれて、この「笑ってはいけない」シリーズを誰かが引き継ぐべきだと言うので、水野さんが自分で書くしかないんじゃないかと思います(笑)。


今回、作品賞は宮藤官九郎さん脚本の「不適切にもほどがある!」(TBS系)が受賞しました。鈴木さんも同作をほめていますが、もしかすると、鈴木さんにとっての「不適切」がこのドラマだったのでは?

そうですね。「不適切にも―」で阿部サダヲさんの演じる昭和からタイムスリップしてきた主人公が、テレビをつけてみたら「令和でもこんなドラマやってる!」と驚くような、昭和と変わらない作品を僕はいまだに作っている。面白いですね。僕は不適切なドラマを作るという行為そのもので、宮藤さんと同じメッセージを伝えたかったのかもしれない。


鈴木さんは宮藤さんと同世代ですが、これからもドラマを作っていく人にはどんなことを期待しますか。

もっと上の先輩たち、例えば倉本聰さんのような世代は、年齢を重ねるにつれ、「やすらぎの郷」(2017年テレビ朝日系)のような自分たちの年代の物語になっていったと思うんです。でも、僕たちは1970年代の生まれで、とにかくテレビがキラキラしていた時代を見て育ってきたから、老年として落ち着いた感じにはならないのではないか。宮藤さんならきっと、変わらずにふざけながら時代を刺してくれるんじゃないかなと思います。


これから放送作家や脚本家になりたいと思う若い世代には、どうアドバイスしますか。

とにかく、いいプロデューサーとの出会いを願うという感じですけれど、まず自分の発信力が大事ですよね。SNSのフォロワー100万人になるとかショート動画でバズるとか、テレビ以外のところで何か武器を作って、それをテレビに還元してほしい。これからは、自分の付加価値があってこそ、テレビでも企画が通るし、自由なことができるようになると思います。そして、テレビ局のプロデューサーさんには、手堅く100万再生を狙うとかではなく、新しい作家を育てて一歩踏み出し、ホームランを打ってやろうという気持ちを持ってほしいですね。


鈴木さんは本当にもうドラマやバラエティーは作らないのですか?

既に脚本を書き上げた「極悪女王」(プロレスラー・ダンプ松本の半生を描く)というドラマが、2024年中にNetflixで配信されます。それは僕が企画から立ち上げ、これまでの集大成として作った作品になります。(2024年)3月までに書き上げたもので、これから公開されていく作品はありますが、新作はもう本当にやりません。

この段階で「ソフト老害」にならないように身を引くことにしたけれど、こうして最後の地上波ドラマが話題になり、自分の感覚が鈍っていないと思えるうちに辞められるし、また、それが放送作家の原点とも言える深夜枠というのも良かったですね。そして、その結果、篠田麻里子さんの人生が大きく変わるというのも、うれしいです。ご本人にもそう言ってもらえたし、結局、テレビも最後は人と人の出会いじゃないかと…。


では、数年後に誰かが「新作ドラマを書いて俺の人生を変えてくれよ」と頼んできたら?

いや、もうやりません。既に頭は新しく始めた仕事のモードに切り換わっていますし、今はそう言っておきます(笑)。
離婚しない男―サレ夫と悪嫁の騙し愛―

離婚しない男―サレ夫と悪嫁の騙し愛―

大竹玲二の漫画を原作に、伊藤淳史主演で描くリコン・ブラックコメディー。妻の不倫を目撃し離婚を決意した新聞社のエース記者・渉(伊藤)が、わずか1割と言われる「父親の親権獲得」を実現すべく、相棒となった探偵と共に困難な戦いに挑む。鈴木おさむが、引退前最後となる地上波連続ドラマの脚本を手掛ける。

第119回ザテレビジョンドラマアカデミー賞受賞インタビュー一覧

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