第121回ザテレビジョンドラマアカデミー賞監督賞 受賞インタビュー

(C)NHK/AOI Pro.

大九明子

悲しみだけにフォーカスせず、生きる楽しさとつらさにも目を向けていただけた

「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」で監督賞を初受賞されました。まず感想をお聞かせください。

ありがとうございます。映画に携わることが多い私がこのような賞を頂けるなんて感激です。本作は、これまであまり連絡が来ない人や監督仲間たちが結構見てくれて感想を言ってくれるんですよ。映画と違って、テレビの即時性の高さを改めて認識しました。

本作は岸田奈美さんのエッセーが原作ですが、どのような形で連続ドラマ化していこうと思われたのでしょうか?

最初は⼿探りでした。ただ、エッセーからは岸⽥さんが持つ⼈間⼒みたいなものがすごく伝わってきました。そして岸⽥さんの暮らしを取り巻く要素が本当にすてきで。⼀番強烈だったのは、お⽗様が乗られていたボルボ。これは絶対に印象的に描きたいと思い、ボルボで始まってボルボで終わると決めました。


新しい形のファミリードラマだったような気がします。

いわゆる定番のファミリードラマにしたくないという思いは最初からありました。家族を描いていますが、家族の形なんて本当にそれぞれなんですよ。とくに今回描く岸本家は、輝いている部分だけではなく重いものもたくさんあり、深く突き詰めていくと苦しくなってしまう…。だからこそ、せめてドラマくらいは⾚いボルボに乗って宇宙までぶっ⾶ばすくらいハッピーでいいじゃんと。草太が幼少期に描いた⾚いボルボの絵が動き出すことにしようと決めました。

これが決まったときはすでに撮り進めていたので、第3話から宇宙を⾶んでいるボルボの絵を貼って、印象的に映していました。岸⽥さんがどんな状況でも⾯⽩く、エンターテインメントにしていたので、そのマインドにならいたいと思いました。


現場でいろいろアイデアを出し合い、意見を反映して変えていったとお聞きしましたが。

これは私のスタイルなので、今回だから特別ということはないのですが、現場で俳優と話し合い、その場で台本を⼿直ししてコピーを取り、午後からそれを元に芝居をする、みたいなこともありました。ただ、俳優さんたちはなかなか画を想像できなかったような気はします。編集が終わるまでどういうシーンになっているかは私の頭の中にしかない状態だったので…。皆さんが信じてついてきてくれて本当にありがたかったです。


やはり映画と違ってテレビは時間がなかったですか?

とにかく前半部分を撮影しながら後半部分の脚本に⼿を⼊れて、後半部分を撮りながら前半部分を編集するという、何をやっているのか⾃分で分からないくらいバタバタで。よくテレビを⾒ていると番宣などで俳優さんたちが「最終回の台本を私たちまだ⾒ていないです」なんて⾔っているのを思い出し、これか!って思ったりしました(笑)。オンエアが決まっているだけに、時間に関してはなかなか綱渡り状態でした。


画面が分割されたり、画面が真っ暗になったりと、映像の遊びもふんだんに取り入れていたように思いました。

映画でもよくやる⼿法なので新鮮味があったかは分かりませんが、今回は俳優の皆さんのノリが良かったのでどんどんアイデアが膨らんできたのは事実です。皆さんが演技したものを全部⾒せたいと三分割したり、いろいろ遊ばせていただきました。

そしてこの編集については、映画監督仲間からも「あぁいうこと、テレビでやっていいんだ、知らなかった」と⾔われて。私としてはダメという感覚がなかったので結果論になりますが、テレビ、映画にあった勝⼿な固定概念が知らぬ間になくなったのは良かったと思いました。

あとカメラの後ろから話し声がするとか、⾳だけで何かが起きているように感じてもらうのも私は好きで。話している⼈だけにフィーチャーしないのも無⾃覚で⾏っていました。本当にのびのび撮ったという感じ。私を野放しにしてくれたプロデューサーさんのおかげです。


主演女優賞4位に選ばれた、岸本七実を演じた河合優実さんの演技も魅力的でした。

彼⼥が主演だったからハードなスケジュールでも乗り切れたし、安⼼できました。今回、現場は出演者の⽅も多くバタバタだったので、素晴らしく優秀な俳優である河合さんに安⼼して⽢えていたのですが…。そしたら中盤くらいに「少し時間をください」と⾔われて。そのときに、家族に対する接し⽅や七実は⾃分のことをどれだけ不幸と思っているのかなど、話し合いました。それも、質問事項を箇条書きでメモってきてくれていて…。河合さんの真⾯⽬さと優秀さを垣間⾒ることができました。


河合さんをはじめ、岸本家のチームワークの良さを感じましたが、現場ではいかがでしたか?

ドラマのままのいい雰囲気でした。そこは草太役の吉⽥葵さんが求⼼⼒となってくれて、葵くんを中⼼にチームワークが⽣まれていたような気がします。

おばあちゃんの芳⼦役を演じた美保純さんともよくお話をしていて…。あるとき、美保さんが「いただきます」のところを「いただきマンモス」って⾔ったんですよ。そしたらそれが葵くんのツボにハマり…。それから何にでも“マンモス”をつけるようになり、現場でも“マンモス”がめちゃくちゃはやりました。そのおばあちゃん発信で流⾏が⽣まれるって、なんかレガシーみたいなものを感じて感慨深かったです。


吉田さんもそうですが、ダウン症の役はダウン症の方が、障害のある役は障害がある方が演じられていたのも新鮮でした。

全て当事者の⽅に演じてもらうのはどうしてもやりたかったことです。それもあってか、よりリアルに物語が伝わったのかもと思うと、良かったと思いました。ちなみに今まで私がやってきた現場は、それぞれが⾃分たちのやり⽅で仕事に集中していたのですが、今回は葵くんをはじめ、みなさんがそうさせてくれなかった(笑)。「次が始まるよ」と⾔ってもどうしても楽しい⽅向に向かっちゃう。だからこそどこか温かくもあり、優しい雰囲気が漂う唯⼀無二の現場になっていたと思います。


亡くなった父親・耕助(錦戸亮)は、さも生きているように岸本家で過ごしていましたが、あの演出はどのようにして浮かんだのですか?

岸⽥さんが、弟さんはたまにパパと話しているようなときがあるとおっしゃっていて、それはすてき、取り⼊れたい!と思いました。なので最初は七実には⾒えずに草太のみが⾒える形にしています。

ちなみにパパは本⼈たちが⾒たいパパなので、決して本⼈たちのイマジネーション能⼒と⾔語能⼒を超えることはないんです。だから草太といるときは「楽しい」「ワクワク」といった単語で話し、ときおり芯を突いたことを⾔ったり「⼤丈夫です」と⾔ってくれる。対して七実は、パパとの別れ⽅に後悔があり怯えていたので、最低限の⾔葉だけで「そうか」と「⼤丈夫」を⾔うようにしています。


「大丈夫」という言葉は印象的に使われていましたね。

原作の中で、「大丈夫」という言葉をすごく大事にしているような気がしたので、意識して使用しています。「大丈夫」という言葉には、責任が発生するんですよ。そんな言葉を簡単に発してはダメ。草太が七実に言ってあげるときも、草太に言うときも、きちんとその後のことを考えて「大丈夫」という言葉を使うようにしています。


さりげないところにたくさんの意味が込められていた作品でしたが、監督にとって本作はどのような作品になりましたか?

最初に、岸⽥さんのエッセーを渡されたとき、私も原作と同様、必死にふざけないとやっていられないと思いました。直視なんてできないですよ。必死にふざけることで、やっと何か希望のようなものに向かっていると信じさせることができるというか…。だからこそ、気持ちが明るくなるようなエンディングにしたいと思いました。

現実は本当にツラいことがたくさんあるけれど、たまたまテレビをつけている不特定多数の⼈に不⽤意に届いてしまうテレビという媒体だからこそ楽しく終われたら。そこで生まれたのが、赤いボルボに乗って宇宙までぶっ飛ばすエンディング。もしかしたら映画だったらこのエンディングを選ばなかったかもしれません。

おかげで、悲しみだけにフォーカスせず、作品の裏にある生きる楽しさと、同時につらさにも目を向けていただける作品になったと思います。多くの方に見ていただき、評価いただけたことは本当にありがたかったです。

(取材・文=玉置晴子)
家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった

家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった

作家・岸田奈美の家族を巡る自伝的エッセーを河合優実主演でドラマ化。ベンチャー企業家だった父が急逝し、母は突然車いすユーザーに、弟はダウン症、祖母は物忘れの症状が現れるなど、困難が次々訪れるからこそ「家族」というものに真剣に向き合い続けたある一家を描く。ほか出演は、坂井真紀、吉田葵、錦戸亮、美保純ら。

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