第122回ザテレビジョンドラマアカデミー賞最優秀作品賞 受賞インタビュー

撮影=石塚雅人

海に眠るダイヤモンド

家族、恋愛、友情、青春…全てを入れ込んだ“ちゃんぽん”のようなドラマ(新井順子P)

炭鉱の島・端島(軍艦島)を舞台にした「海に眠るダイヤモンド」で作品賞を受賞しました。他に主演男優賞、助演女優賞、監督賞、ドラマソング賞も獲得し、5部門受賞です。

新井順子P:ありがとうございます。プロフェッショナルなキャスト、スタッフの皆さんのおかげで取れた賞だと思います。まず、素晴らしい脚本を書いてくれた野木亜紀子さんに感謝します。

松本明子P:本当に野木さんの台本は素晴らしかったです。一つ一つのセリフに意味があり、伏線も張られ、こんな脚本は初めてでした。台本を読んで泣いたこともあるし、台本自体が一つの作品として完成していて、言葉の力をすごく感じました。

投票した読者、TV記者、審査員から「戦後間もない時期と現代の東京という二つの時間軸を巧みに行き来させながら、壮大な物語を描き出した」と評価されました。第1話で提示された「宮本信子さん演じる“いづみ”は、端島にいた3人の女性のうちの誰なのか」「神木隆之介さん演じるホストの玲央は炭鉱職員・鉄平と血縁があるのか」という謎解きも、野木さんのアイデアでしょうか?

新井:そうです。最初に、野木さんと私や塚原あゆ子監督と3人で話していたときに、塚原監督から「現代パートがあった方が、見る人が入り込みやすいのでは」と提案があって、この構成になりました。野木さんと長崎出身の林(啓史)監督は、数カ月にも及ぶ取材を重ね、島民の方にもたくさんお話を聞いて物語を深めてくれました。これだけ長期間かけることはなかなかないと思います。


やはり日曜劇場らしいダイナミックな映像に魅せられた人が多く、「軍艦島が端島炭鉱として栄え、たくさんの人が暮らしていた頃が再現されていくさまが見事だった」という意見も寄せられました。

新井:日曜劇場らしいスケールというのは意識していましたね。そもそも、このドラマが生まれたのは「アンナチュラル」(2018年TBS系)の後、野木さんと長崎を旅行したのがきっかけです。その時はドラマにしようとは話しませんでしたが、それから数年たって「端島を舞台にしたら、日曜劇場にふさわしいものが描けるかな」という話が出て、ドラマ化に向けて動き出したのは2022年ごろからでした。

松本:時代ものということで、1955~74年までの時代を再現するため、いろんなところでロケをしました。長崎はもちろん、端島銀座のオープンセットを建てた群馬、兵庫の炭鉱、静岡の伊豆の海岸…。トータル10県で撮影しました。セットを作ってくれた美術チーム、場所を探してくれた制作チームは大変だったと思います。

新井:全国のあちらこちらをみんなで移動しましたね。トータルの走行距離はなんと1万2500km近くにもなって、「これなら中央アフリカ・バンギまで行けたね」という話をしたり…(笑)。これまでも撮影でいろんな地方に行ってきましたが、間違いなく、私の番組史上最も長い距離を移動しました。

松本:「時代もの」なので撮影場所が優先され、端島という緑がないコンクリートの島や、「海が向こうに見えて…」という台本のト書きを映像にしようとすると、遠いところに行かざるをえなかったですね。炭鉱の内部を撮るのに兵庫に行き…、広島に昭和の頃の客船があると聞けば広島へ行き…。

新井:広島まで行くから、そのまま長崎へも行って撮影して…ガンガン移動して撮影していました。そこは普通のドラマではあまりない感じでしたね。


そんなハードな撮影の中、端島で生まれ育った鉄平と、現代のホスト・玲央を演じた神木隆之介さんは、どうしていましたか? 1人2役の演技が評価され、主演男優賞を受賞しました。

新井:座長としてチームをまとめてくれた印象があります。このパーカーもそうですけど(写真で着ているもの)、いろんなものを差し入れしてくれたり、現場をいつも明るく盛り上げてくれました。撮影は大変だったと思いますが、神木さんが眠そうにしているのは見たことがないですね。

松本:空き時間があると温泉行ったり水族館に行ったりと活動的で、しかも撮影しているキャスト、スタッフのためにお土産を買ってきてくれましたよね。

新井:本当に裏表のない人で、よくしゃべってくれて、いろんな雑学を教えてくれるし、基本的に人間が好きなんだろうなというのが伝わってきました。そういうところは「外勤さん」(炭鉱の総務のような立場)をしていた鉄平に近いですね。

松本:そうですね。神木さん本人に玲央っぽさはなかったかな?

新井:メークをすると役のスイッチが入るようで、朝の挨拶も玲央の日は少し気だるそうな「おはようございます」だった気がします(笑)。


毎回、昭和の端島と現代の東京が交互に描かれましたが、例えば、現代の玲央が出てくるシーンはまとめて撮影したのでしょうか?

新井:神木さんが演じやすいように、なるべくそうしようと思いましたが、撮影スケジュール上の都合がいろいろあり、数日玲央を演じたら、次の数日は鉄平というペースでしたね。どうしても調整できなくて、「午前中は玲央で、午後は鉄平」という日もありました。何回か、そういうスケジュールになってしまいました。

松本:最終話には玲央のモノローグがありましたが、それを収録したとき、鉄平としての音声も録ったんですね。それがもう、声だけで全然違ったんですよ。一瞬の切り替えで、「これは玲央だ」と分かる。やっぱりすごいなと思いました。


その神木さんと豪華キャストの共演によって、四世代にわたる家族や友情の物語が展開しました。

新井:このドラマは(ドラマに出てきた長崎名物の)「ちゃんぽん」のようなドラマです。家族、恋愛、友情、青春、ミステリー。そしてさまざまな愛を入れ込みました。野木さんが話していたことですが、「このドラマのテーマは?」と質問されても、作り手がそれを限定することはしたくない。いろんな要素があるけれど、そのどこに共感するか、何を感じるかは視聴者の皆さんの自由なので…。

例えば、昭和の時代には炭鉱で働く人たちが世間から差別される風潮もあったけれど、 その人たちが汗水流して石炭を掘ってくれたからこそ、電気も使えて生活が豊かになった。そんな炭鉱の人たちの姿に、チームの一員として働くことの意味を感じたと言ってくれた人もいます。

松本:炭鉱内部のシーンの撮影場所は、寒くて暗く、撮影するだけでも大変でしたね。実際は気温35度、湿度80%超えの環境なので働いていた方たちはすごく強靭(きょうじん)な精神と体力を持っていたと思います。放送が終わった後に端島の上陸ツアーに行った人から、「本当に鉄平たちがいるんじゃないかと思った」と言われたときに、やはり時代ものを作る醍醐味、魅力はそこにあるのではないかと思いました。

新井:全員が力を尽くした結果、こうして皆さんに選ばれる作品になったのは本当にうれしいです。関わったみんなにとって誇れる作品になったのなら、プロデューサー冥利(みょうり)に尽きます。

(取材・文=小田慶子)
海に眠るダイヤモンド

海に眠るダイヤモンド

昭和の高度経済成長期と現代を結ぶ70年にわたる愛と青春と友情、そして家族の壮大なヒューマンラブエンターテインメント。芸歴28年の神木隆之介が、日曜劇場初主演を務める。また、脚本は野木亜紀子、監督は塚原あゆ子、プロデューサーは新井順子が担当。「アンナチュラル」(2018年、TBS系)などを手掛けたヒットメーカーが集結する。

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