第122回ザテレビジョンドラマアカデミー賞主演女優賞 受賞インタビュー

(C)NHK

吉高由里子

「ワープして平安時代を見に行きたい」とどれだけ思ったことか…

大河ドラマ「光る君へ」(2024年NHK総合ほか)の紫式部/まひろ役で主演女優賞を受賞しました。連続テレビ小説「花子とアン」(2014年NHK総合ほか)、「わたし、定時で帰ります。」(2019年TBS系)、「最愛」(2021年TBS系)に続いて、4度目の受賞となります。

ありがとうございます。撮影期間も長く、その分思い入れが深い作品なので、うれしいです。主演女優賞ですが、「光る君へ」を作ったみんなで取った賞。こうして、一つでもこのドラマの名前が記録されるのは、すごく誇らしいことだなと思います。

「光る君へ」の撮影はおよそ1年半をかけたということですね。

そうです。このドラマだけに集中できたというのは、タイミング的にも奇跡だったと思いますね。これまでの出演作の中でも圧倒的に時間をかけ、長い期間向き合いました。


投票した人からは「教科書の中の人だった紫式部が、吉高さんの演技によって生きた人物として自分の心に残った」「吉高さんの演じる“まひろ”は、母を殺され夫や弟に先立たれるという波乱の人生だったけれど、終始ぶれなかった。その肝の座り方が吉高さん自身と重なるのでは」という意見が寄せられています。

実在した紫式部の人物像は分からないけれど、このドラマの式部、まひろはそういう人生を歩んだということですね。歴史のことも勉強しましたけれど、私はあくまでこの物語の中のまひろを演じようと思っていました。


紫式部と藤原道長(柄本佑)のロマンスに胸をときめかせた人もたくさんいました。2人の迎えた結末をどう思いましたか。

第45回でまひろは太皇太后・彰子(見上愛)の元を離れる決意をし、道長に「行かないでくれ」と引き留められたけれど、「違う人生を歩んでみたくなった」と断って旅に出ました。2人でちゃんと対面してやりとりはしたものの、関係が終わってしまったという寂しさはあって…。最終回では、死にゆく道長を見送る側になったのが、いかにもまひろらしいなという感じがしましたね。


道長の「生きることは、もうよい」というセリフ、そう言われたまひろの表情が印象的でした。

そうですね。政治の世界から身を引いた道長が感じている報われない気持ちとか、今まで戦ってきて誰にも見せなかった寂しい孤独な部分があったんでしょう。まひろは道長に対して「少しでも長く生きていてほしい」という思いだったけれど、それを成仏させてあげたい気持ちもあって、枕元で物語を読んでいたのかな…。「もう生きたくない」と言われたのはショックだったと思いますけど、あなたは精一杯やったよねという気持ちもあったし、道長の気持ちを受け入れることが一番の愛だったのかなとも思います。


まひろにとって道長は、どんな存在だったのでしょうか。

まひろと道長は最終的に結ばれることはありませんでしたが、でもその距離があるから、互いに自分自身のままいられるという関係だった…。道長の存在が、まひろの生きる理由、意味になっていた。だから、その人が生きることを諦めるのは、本当に捨てられたような気持ちにもなったのかな…。そう考えると、難しい恋愛ものをやっていたんだなとつくづく思いますね。


道長役の柄本佑さんとは、クランクアップのときにどんな話をしましたか。

「本当に終わっちゃったんだね」みたいな感じでしたね。撮影が終わったその瞬間は、2人ともあまり実感が湧かなかったと思います。でもその後、最終回の放送や関連イベントが終わってからほどなく、柄本佑さんからお電話を頂きました。「えっ、なんかあったのかな」と思ったら、「あんまりこういうことは言いたくないんだけど」と照れながら「大河ドラマを一緒にやったのが吉高で良かった」と言ってくださったんです。その瞬間は、うれしさと恥ずかしさみたいな感じはありましたけど、2秒間の言葉でこの1年半が詰まったような感謝をしてくれて、「いや、こちらこそ、ありがとうございます」という気持ちになりました。


最終回のまひろが、道長の正妻・倫子(黒木華)に「殿(道長)とはいつからなの?」と問われる場面は、どうでしたか?

あれで言ってしまうのが、まひろですよね(笑)。もともとうそが嫌いでしょうし、道長との秘密を墓場まで持っていけない不器用さがあって、隠しきれずパーってしゃべっちゃった。でも、それがあったからこそ最後に道長と2人で過ごせたのかなと…。倫子さんの器の大きさに感謝です。黒木さんは「花子とアン」のときは妹役だったのに、「光る君へ」では私がぴしゃりと言われる側になっちゃって、ちょっと不思議な感じでした。でも、結局まひろは、賢子(南沙良)が道長の娘ということは明かさなかったですね。


まひろと夫婦になった藤原宣孝役の佐々木蔵之介さん、宋から来た医師の周明を演じた松下洸平さんとの共演はどうでしたか?

以前、蔵之介さんとは「知らなくていいコト」(2020年日本テレビ系)、洸平くんとは「最愛」(2021年TBS系)で共演したことがあります。宣孝は演じる蔵之介さんの人間性が反映された豪快さがありましたね。まひろの家に来て天井に烏帽子が当たっても「おっと」という感じで、そのまま演技を続けちゃうような…(第27回)。

周明とまひろは、お互いに居場所がない2人で、自分がどこで生きていけばいいか分からないような気持ちが共鳴してひかれ合った。洸平くんは最終盤にも再登場してくれて、なんかね、お互いに平安時代の格好をしていると、まるで「最愛」の梨央と大輝が転生したような不思議な気持ちになりました(笑)。


そんなふうに男女の秘密の関係があるなど、平安貴族の世界がリアルに描かれていました。

その時代はもっと人間関係が複雑だったのかもしれませんよね。本当に、撮影中は、どれだけワープして平安時代を見に行ってみたいと思ったことか。千年前の京都に3日間だけでいいから行きたい!と思いました。


脚本の大石静さんによる大胆な歴史解釈や心理描写も、魅力でした。

「知らなくていいコト」「星降る夜に」(2023年テレビ朝日系)、そして「光る君へ」と、大石さんの作品に出演させていただきましたが、台本には大石さんがこれまでの人生で女性として経験されたことが地層みたいになって描き出されていて、私の人生にも響いてきました。すごく昔のようだけど、まだできたてのような体温がある言葉が多かったですね。「生きていることは悲しいことばかりよ」とか、「これは私が大石さんの気持ちを代弁しろというセリフなのかな」と思ったこともありました。


そもそも吉高さんにとって大河ドラマの主演というのは、以前から目標としてあったのですか?

ないですよー!本当に思ってもない話でしたし、願ってもないことが降ってきて、制作発表のときも、自分がこういうところにいるのが、ちょっと他人事というか不思議な感じで…。でも、逆に、自分が目標にしてきたことじゃないから、大河ドラマ主演というプレッシャーにガチガチにならず、自由な余白を持って演じられたのかなと思います。


もし、次に歴史上の人物を演じるとしたら、誰をやりたいですか?

何でしょう。今回は貴族の中では身分が低い役柄で、それも楽しかったけれど、今度は身分が高い役で、えらそうにしてみたい(笑)。誰かの奥様というよりは、自分がトップに立っているような…。


「花子とアン」、「風よあらしよ」(2022年NHKBSプレミアム)、「光る君へ」と、作家の役が多いのは、吉高さんに作家的要素があるからでしょうか?

そこが分からないんですよ。私は読書家じゃないし、文字を読むのが遅くて、台本だって人の倍かかって覚えているんです。なのに、なぜ作家役を振られるのか…。プロデューサーさんや脚本家さんは、あえて私に難しいお題を与えて成長させようとしているのかもしれませんね。


吉高さんにとって「光る君へ」はどんな作品になりましたか。

シンプルに言うと「宝物」。「一期一会」ということを改めて学んだドラマになりました。スタッフさん、キャストの皆さん、いろんなジャンルから来た人がこれだけたくさん集まって同じ瞬間を共有できるって、すごく素晴らしいこと。でも、同じ人たちが集まることはもう二度となく、ここだけの縁になるわけですし、ドラマとしてもちゃんと、そのかけがえのない瞬間をギュッっと凝縮できたという手応えがありました。本当に私にとって「宝物」の作品になりました。

(取材・文=小田慶子)
光る君へ

光る君へ

「源氏物語」を書いた紫式部の人生を吉高由里子主演でドラマ化。変わりゆく世を自らの才能と努力で生き抜いた女性の愛の物語。千年の時を超えるベストセラーを書き上げた女性の秘めた情熱と想像力、一人の男性への思いを描く。脚本は「和田家の男たち」(テレビ朝日系)などを手掛けた大石静が担当する。

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