第122回ザテレビジョンドラマアカデミー賞助演女優賞 受賞インタビュー

(C)TBS

杉咲花

私の何げないしぐさを宮本さんがリンクづけてくださって…

「海に眠るダイヤモンド」で朝子役を演じ助演女優賞を受賞されました。まず感想をお聞かせください。

ありがとうございます。「海に眠るダイヤモンド」チームが多くの賞を受賞したと聞いて、とても誇らしい気持ちになりました。

最初に脚本を読んだときの感想を教えてください。

端島に人が住んでいた時代と現代という2つの軸があり、そこを行き来する話だったので、どのように描かれるのだろうと想像がかき立てられるような脚本でした。その中でも、人々のささいな心の機微がとても丁寧に描かれていて、私はその時代を過ごしたことがないけれど、生活の匂いや手触りを感じました。


朝子という人物を演じる上で気をつけていた点はありますか?

朝子たち出水家は、例えば欲しい服や弟の望むテレビを購入することが難しいなど金銭面での厳しさがあったり、端島という社会の中で、格差や貧富の差を感じて生きてきたはずなんです。けれど朝子は、どれだけ忙しくても、自分の見つめている世界の中にあるものの美しいところに目を向けて、前例のない取り組みにも果敢に挑んでいくようなエネルギーに満ちた人。その生命力の強さや、そのようにして生きてきた背景、年輪のようなものを体の中に刻みたいと思いました。それから、現代パートでいづみを演じた宮本信子さんへ、どのようにバトンをお渡しできるかという大きな課題がありました。


いづみが実は朝子ということが回を重ねるうちに分かっていきますが、朝子を演じる上で宮本信子さんが演じたいづみを意識しましたか?

一度現場にお邪魔して実際にいづみさんのお姿を拝見したとき、表面的なリンクでは到底たどり着けない領域だと痛感しました。自分が演じた時代の朝子が、目の前にいる人との関わりやさまざまな出来事を経験して、その先に宮本さんが表現するいづみという人がいるのだから、と。第1話を撮影が始まった序盤の方に観ることができたことはとてもありがたかったです。船の上から端島を見つめるいづみさんの表情を見て、どれだけ壮絶な時間を歩んできたのだろう、と。だからこそ、若き日の朝子として、そこで流れる時間を命いっぱいに味わうことに集中しようと思いました。


途中からはいづみが朝子にしか見えなくなる瞬間が多々ありましたが、ご覧になっていかがでしたか?

ある時塚原(あゆ子)監督から、宮本さんが、私が何げなくしていた髪をかき上げる仕草をリンクづけてくださっているとお聞きして。とてもうれしかったです。


朝子といえば端島弁を話していましたが難しかったですか?

難しかったですが、方言指導の三井(善忠)先生がセリフを吹き込んだ音声データを送ってくださったり、現場でも常にそばにいてくださったおかげで、なんとか落とし込んでいくことができた気がします。


神木隆之介さん演じる鉄平とのシーンは多かったですが、神木さんとお芝居はいかがでしたか?

いつも神木さんは寄り添ってくださるので、今回こそ、少しはそばでサポートできたらいいなという気持ちで撮影に望んだのですが、やっぱり神木さんのお人柄の温かさに包まれてばかりの撮影期間でした。

お互いのことをずっと前から知ってはいたけれど、今回はより突っ込んだところで率直な意見を交換し合ったり、いろんな話をしたりもして、今まで以上にコミュニケーションをとることができたようにも感じています。

神木さんとは共演経験が多いこともあり最初から安心感があったのですが、それと同時に、個人的には、隣に並んだときの既視感のようなものをどれだけ削ぎ落とした状態で現場に立てるだろうかということが、もうひとつの課題でもありました。ですがそんな心配は杞憂だったかもしれないと感じるくらい、神木さんが演じる鉄平や、脚本の中で輝く朝子という人物に魅了され、気付いたら引き出されていた感情がたくさんありました。


神木さんは、杉咲さんのことを「切り替えのプロであり怪物だ」とおっしゃっていましたが…。

いえいえいえ。全く逆です!(笑) 神木さんは、もう、すごいですよ。隣に立っているのは鉄平なのか、無邪気な少年なのか、いつも混乱が起きていたくらい切り替えのプロフェッショナルなので。

私は切り替えが苦手なんです。なるべくニュートラルに役の心情へ近づいていくために、本番までにいかに自分を整えられるかということに神経を注いでいくタイプな気がします。緊張しいなんです。


鉄平から告白されるシーンは神木さんのアイデアが盛り込まれていたとのことですが。

そうなんです。言うなれば「あいのり」のような、ドキュメンタリータッチな告白シーンにするのはどうだろう、ということを塚原監督と話し合われたみたいで。そんなアイデアを目を輝かせながら私にも共有してくださった日は、わくわくしました。これはきっといいシーンになるのではないかなぁとギアが上がっていくような。

ですがそのような表現って、ある種分かりやすさからはかけ離れていくものではないかと私は感じていて。人の気持ちには波があるし、恥ずかしいときにそれを隠したり、笑いたいときほど涙が出てしまったりと、相反する感情が出てくることってありますよね。そういった心の動きに対してとことん素直であってよいというご提案は、受け手や演じ手への信頼でもあると感じて、胸が熱くなりました。


いろいろ提案したり相談したりできる現場だったんですね。

劇中には描かれていない行間の部分をどう解釈するかを監督と話し合ったり、時には委ねてくださったことが印象に残っています。本当に愛がある方なんです。それぞれの方々が持っているパワーに感化され、回が進むごとに志が研ぎ澄まされていくような感覚もあって、刺激的な現場でした。


そこには塚原監督の存在も大きかったですか?

塚原さんの他者や物作りに対する姿勢に何度も感銘を受けた日々でした。特に印象的だったのが第4話のリナ(池田エライザ)が端島音頭を歌うシーンで、エキストラの方にも参加していただき長時間の撮影をしていたのですが、小さい子供たちの中には疲れてしまったり、泣き出してしまう子もいて。それを見ていた塚原監督は「疲れたよね、そのままでいいよ。好きなところに行ってもいいし、ここに残ってもいい。どうしたい?」とおっしゃっていて。無理に泣き止ませるということは絶対にしなかったんです。

その姿を見たときに、目まぐるしい撮影の中でも、相手の気持ちを想像してこんなふうに寄り添うことを大切にされている監督に、誰もついていかないわけがないと思ったんです。塚原監督が中心にいる現場だったからこそ、物語の深度や説得力がより増していくのだということを確信しました。


本当にいい現場だったんですね。

衣装やメーク、セットをはじめ、とても細かい部分までこだわり抜かれた世界の中で朝子としていられたことが幸せでした。


鉄平のその後が描かれたラストシーン、杉咲さんにはどのように映りましたか?

コスモスのお花畑のシーンを観たとき、言葉にならなかったです。どれだけ悲しみに包まれていながらもポジティブに前を向いていようとする鉄平の心意気のようなものが伝わってきて、とても勇気をもらったんです。このドラマは、自分というたったひとりの人生を生きてきた全ての方に贈られる人間讃歌だと思いました。

(取材・文=玉置晴子)
海に眠るダイヤモンド

海に眠るダイヤモンド

昭和の高度経済成長期と現代を結ぶ70年にわたる愛と青春と友情、そして家族の壮大なヒューマンラブエンターテインメント。芸歴28年の神木隆之介が、日曜劇場初主演を務める。また、脚本は野木亜紀子、監督は塚原あゆ子、プロデューサーは新井順子が担当。「アンナチュラル」(2018年、TBS系)などを手掛けたヒットメーカーが集結する。

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