第123回ザテレビジョンドラマアカデミー賞最優秀作品賞 受賞インタビュー

撮影=阿部岳人

御上先生

分かりやすくし過ぎないギリギリのラインを探りました(飯田和孝P)

日曜劇場「御上先生」で作品賞を受賞した感想をお聞かせください。主演男優賞、監督賞、ドラマソング賞も含め、4部門受賞となりました。(受賞インタビューには飯田和孝P、中西真央Pが登場)

飯田P:主演男優賞を受賞した松坂桃李さんも言っていましたが、作品賞は、いろんなセクションの人たちが一丸となって作り上げた“総合力”への評価だと思っています。キャストや現場のスタッフはもちろん、それだけではなく、編集などのポスプロスタッフや社内外のスタッフも含めて関わった全員で喜べる賞なので、本当にうれしいです。
中西P:ありがとうございます。「御上先生」は飯田さんと脚本の詩森ろばさんが5年前から企画していた作品で、私は放送1年前ぐらいからチームに参加しました。企画書を読んだとき「官僚が学校に派遣される」という設定がすごく面白くて、「これは発明だ!」と感じました。大勢の人と共に一生懸命作ったものが、ちゃんと世に届いたのが何よりもうれしいです。


企画の立ち上がりはいつ頃だったのでしょう?

飯田P:最初は2020年頃です。その時点でタイトルは「御上先生」で、松坂さんを教師役のイメージキャストとして、詩森さんと企画を進めていました。ただ当時の企画書は今とはテイストも違っていて、いろいろな意味でタイミングが合わなかったんです。しばらく企画を寝かせた時期があり、再チャレンジを始めたのが2023年でした。その間、詩森さんはさまざまな演劇作品だけでなく、映像作品にも挑戦され、僕自身も他のドラマの現場を経て、ようやく「今ならもう一度挑戦できる」という手応えが生まれたんだと思います。


飯田さんは「VIVANT」(2023年TBS系)以降、複数の脚本家のチームでドラマを作ってきましたが、「御上先生」は詩森ろばさんによる作家色の強いドラマになりました。

飯田P:「御上先生」は、詩森ろばの画力の成せる作品、というのはいうまでもありません!さまざまな方向から飛んでくるセリフに、原稿をもらう度にワクワクしていました。これはご本人もおっしゃっていますが、映像の脚本家としてはまだ経験が少ないので、全10話の連なる物語を作るため、映像作品経験のある畠山隼一さんと岡田真理さんに脚本協力として入ってもらいました。さらに、学校・教育監修として工藤勇一先生(元・千代田区立麹町中学校校長)や西岡壱誠さんにも参加してもらいました。詩森さんは、取材段階では大勢の官僚や教師の方にも会われています。そう言った意味では、大きなチーム、に近い形になったと思います。


投票した人の感想では「これまでになかった学園ドラマ」「パーソナル・イズ・ポリティカル(個人的な事情は社会的課題)など、エリート校の生徒に本当に大事なことを考えさせていくところがすごく斬新だった」という評価が寄せられています。

飯田P:詩森さんとは、一人一人に起きている問題が、社会全体の問題に通じるような構成にしようという話をしました。教育の歪み、偏差値主義の限界などを一概に否定するのではなく、「こういう教育もあるんじゃない?」という提案を込めたかったんです。「ドラゴン桜」(第2シリーズ/2021年TBS系)のとき、変わると言って変わらなかった教育制度。放送から4年たった今も、変えることへの課題が多いと聞きます。「御上先生」では、その教育制度を作る官僚サイドも描くことで、変えられない原因にも挑みたかった。


「金八先生」シリーズや「ドラゴン桜」を作ってきたTBSが、熱血教師が強いリーダーシップを発揮して生徒を導いていく物語ではなく、生徒に「自分で考えて」と促す御上先生を描いた意味は?

飯田P:学校監修の工藤先生から「日本の学校では、子ども同士の問題を先生が間に入って解決するのが教師の仕事とされてしまっているんですが、当事者同士で話し合って解決するという、民主主義を教えていないことになるんです。日本は民主主義の国なのに」という話を聞いて、胸に刺さったんです。当事者同士で対話して問題解決することを、学校教育の中で学ばないまま社会に出てしまう。それが本当に正しいのかと。その疑問も「御上先生」の内容に落とし込まれていきました。


御上と生徒の対話がハイレベルで、教科書検定、生理の貧困、格差の問題について話し合うなど、かなり挑戦的だったと思います。「内容についていくのが大変だった」という感想も寄せられましたが、その点の不安はありませんでしたか?

飯田P:テレビドラマって、ご飯を食べながら“ながら見”できるもの、とされてきたんですけど、今の視聴者は配信も含めて、すごく集中して見てくれていると感じていて。なので、決して難解な内容をやっているつもりはなく、集中して見ていただければ、セリフの中に込めた意図も拾えるはずだと信じていました。それに、配信の海外ドラマだって、一瞬でも目を離すとついていけなくなるけれど、皆さん、見て楽しんでいるわけです。そんな中、これまでのドラマのようには分かりやすくし過ぎないというギリギリのラインを探っていました。

中西P:私もこれまでは、とにかく分かりやすく作ることが正しいように感じていたのですが、詩森さんの書くセリフには力があって、生徒たちが語り合う場面に集中してもらえれば伝わるものがあると信じられるようになりました。逐一解説して理解してもらうというより、人と人との対話を通じて、誰かの心が動いていく瞬間を見てもらうことに、この作品の意義があったと思います。


日曜劇場なので、勧善懲悪の痛快さを期待する声もあるかと思います。

飯田P:それもしっかり分析すると、バイアスがかかった見方かもしれません。ここ十数年、弱きものが強き悪に立ち向かう分かりやすいものが全て高評価を取っているかというと、必ずしもそうではないんですよね。制作側としては、それが必ずしも正解ではないという結論に達しつつあって。高評価を得ているドラマには、緻密な構成や、魅力的なキャラクター、ハイクオリティーな映像表現、良い演出が必ずあると思っていて、それをしっかり踏まえた上で、「御上先生」では、今までとも違う方向性を目指したかったし、それが結果的に好評を頂き、こうして賞も頂いた。視聴者の皆さんが求めるものが変化してきているのは事実だと思います。


主演男優賞を受賞した松坂桃李さんの演技はいかがでしたか。

飯田P:松坂さんの御上には冷静さと情熱、温かさと強さともろさが絶妙なバランスで同居している。たたずまいや声のトーンなどで繊細に演じてくれました。最初の読み合わせの段階から「これが御上先生だ」という安心感がありました。

中西P:生徒役の若いキャストたちからも本当にリスペクトされていたと思います。優しさだけでなく、背中で語ってくれる姿勢があって、若い俳優陣にとって良い緊張感を持てる現場になっていたと思います。


生徒役の俳優たちも素晴らしかったです。オーディションでかなり絞り込まれたそうですね。

飯田P:「神崎(クラスのリーダー的存在である報道部の男子)になれる子を出してください」という形で各事務所から精鋭を募り、300人くらいの中から29人を選びました。結果的に、この作品で自分を磨きたい、成長したいという気持ちを強く持った子たちが集まってくれたと思います。

中西P:みんな前向きで、モチベーションが高かったです。そしてお芝居の上手さに心震わせられた場面がたくさんありました。例えば、神崎を演じた奥平大兼くん(助演男優賞部門2位)は、第1話のラスト、御上に「本当の闇を闇を見たければ僕を手放すな」と言われ、「あんた、なんでそんなオレに構うの」と返すシーンがあるのですが、ちょっと強がっているけれど今にも壊れてしまいそうな思春期ならではのもろさを見事に表現してくれていて。見ているこちらが泣きそうになりました。この撮影期間中は本当に生徒役の俳優さんたちにたくさん驚かされましたね。

飯田P:奥平くんが演じた神崎と、蒔田彩珠さんが演じた富永。この2人のキャラクターをどう描くか、演じるかということは、最初にかなり時間をかけて話し合いました。いろいろ検討したけれど、結果的に次元(窪塚愛流)の部屋で3人集まるシーンを撮ったときに、3人とも役をパッとつかんだ。若くても、さすが役者だなと思いました。


主題歌「Puppets Can't Control You」でONE OK ROCKがドラマソング賞を受賞しました。「ワンオクらしい激しいロックの曲調が、回を重ねるごとにどんどん緊迫感を増すドラマの世界観と見事にシンクロしていた」と評価されました。飯田Pからワンオク側へぜひとお願いしたそうですね。

飯田P:NHKの「ONE OK ROCK 18祭(フェス)〜1000人の奇跡 We are〜」を見てこのドラマを企画したんです。ワンオクがドラマ主題歌をやるイメージはないけれど、当たって砕けろでオファーしました。「御上先生」が表現しようとするコンセプトや我々の信念に共鳴してくれたと聞いています。最初に上がっていた楽曲は全英詞だったのですが、冒頭を日本語の歌詞にしてくれたんですよね。

「Puppets Can't Control You」は、最終話のサブタイトルにもしました。Takaさんが「パペッツ」は人形遣いだけれど、権力者とか大統領という意味あいもあって、物事が簡単に変わらないのは裏で操っている人がいるからだと。ドラマでも最後に古代理事長(北村一輝)が交代するけれど、学校教育の構造はすぐには変わらない。そこが歌詞と深く重なって、本質を突く楽曲になっていると思います。


最後に、この作品を通じて得られたものがあれば教えてください。

中西P:私は御上先生が言ったように「考えることをやめない」という姿勢を、自分自身が改めて持つようになりました。それが少しでも視聴者の皆さんにも伝わっていればうれしいです。

飯田P:今までテレビドラマの制作って、放送と追いかけっこで、時には、語弊があるかもですが“間に合わせる仕事”が求められてきたと思っていて。でも今回、撮影前に全話の台本がそろい、「時間がないから」と言い訳できない状況で、スタッフ、キャストが作品に向き合い、フルパフォーマンスを出せたという手応えはありました。だからこそ、自分に足りない部分がはっきりと見えてきたんです。

各セクションから、品質向上するための課題がしっかり上がってきていて、僕自身もう少しこうすれば良かったという反省もたくさん見えてきて。まだまだ変革途中ですが、まずはこういう制作環境を作ることが、作品のクオリティーを上げていくためには必要。それを、前回の「アンチヒーロー」に続き、再確認できた作品になりました。

(取材・文=小田慶子)
御上先生

御上先生

とある高校を舞台に、権力争いや国の思惑、大人社会の要素を盛り込んだ新たな学園ドラマ。東大卒のエリート文科省官僚・御上孝(松坂桃李)は、官僚派遣制度によって私立高校へ出向することに。彼は官僚でありながら自ら教壇に立ち、現代の高校生たちを自分なりのやり方で導くとともに、権力に立ち向かっていく。

第123回ザテレビジョンドラマアカデミー賞受賞インタビュー一覧

【PR】お知らせ