第123回ザテレビジョンドラマアカデミー賞監督賞 受賞インタビュー

撮影=阿部岳人

宮崎陽平、嶋田広野、 小牧桜

松坂桃李さんをはじめ同世代で思いきりやらせてもらった(宮崎陽平監督)

「御上先生」を手掛けた宮崎陽平監督(第1・2・3・6・10話演出)、嶋田広野(第4・5・8話演出)、小牧桜監督(第7・9話演出)が監督賞を受賞されました。今回は宮崎監督、小牧監督にインタビューを受けていただきます。受賞おめでとうございます。

宮崎:ありがとうございます。素直にうれしいですが、僕たち監督が受賞したというより、撮影部や美術部をはじめ、スタッフ全員でもらったのかなと思っています。僕は入社10年目で、「御上先生」で初めてチーフ監督を任され、日曜劇場の枠で「過去の学園ドラマと違うものを作ろう」という目標を掲げ、それにみんなが協力してくれて、新しいテイストの作品作りを模索できたのかなと思います。
小牧:私も演出というより、作品全体への評価だと思っています。

宮崎:作品賞も頂けたことを、主演の松坂桃李さんたちや生徒役のキャストのみんなと分かち合いたいですね。特に、生徒役の皆さんの努力に感謝しています。


投票した審査員や記者から、「官僚教師の御上(松坂桃李)と成績優秀な生徒たちのハイレベルな会話劇がスリリングだった」「ちょっとダークでスタイリッシュな映像表現が日曜劇場では新鮮」という声が挙がりました。

宮崎:うれしいです。今の視聴者の皆さんは配信で海外ドラマなどを見慣れているし、「御上先生」の内容がこれまでになく攻めているので、作品の“ルック”はすごく大事にしました。撮影前にカメラテストを繰り返し、色味や照明のバランス、美術品の色バランスなど、妥協することなくとことん話し合い、「御上先生」の世界観を作り上げました。映像を暗めにしたつもりはなかったんですが、御上の部屋が暗くて「電気をつけろ」とSNS上でツッコまれ続けました(笑)。でもあれは、過去を背負う御上の心情描写の狙いです。


どんな映像にしようという狙いだったのですか。

宮崎:日常では、光と影を強調し過ぎず、自然な光の中にある美しさが魅力的に見えるような映像を目指しました。そのため従来の日曜劇場の作り方と照明のセッティング方法をかなり変えてもらったので、最初はセッティングの時間がかかりました。主な舞台となった3年2組の教室は、もちろんロケではなくセットです。窓の外に映る景色は、「アンチヒーロー」(2024年TBS系)のときと同じ、光を吸収するドイツ製のカーテンを採用しました。また、進学校の学生の独特の悩みと重圧も表現したかったので、教室が明る過ぎるとそう見えない。その意味でも、陰影を意識して撮りました。


撮影全体で一番苦労したのはどの段階でしたか?

宮崎:3年2組の雰囲気づくりですね。隣徳学院は難関高校なので、生徒役のキャストには進学校特有のキャラクターを理解してもらい、クラス全体の空気をつくっておく必要がありました。そのセットアップをするため、29人の1人1人に役柄の設定を渡し、それぞれに“考えて”もらいました。生徒役のみんなはモチベーションが高いので、いったん自分の役柄が理解できてしまえば、後はもうセリフがない場面でもその役になりきって演技をしてくれたので、とても助かりました。ほとんどの生徒はしゃべりません。そんな生徒たちの「沈黙」、発言しないときにどういう気持ちで御上の言葉を受け止めるかが大事でした。


最終話で卒業式を迎え、御上が生徒たちに語りかける場面では、生徒全員に1人ずつピントが合っていく演出が印象的でした。

宮崎:クラスの空気感を切り取るために、なるべく1人のアップで片付けないよう広めの画角に撮影していましたが、あのシーンはみんなの表情をしっかり映したかったんです。だから、“ピン送り祭り”になったんですが、できれば全員をワンショットにしたかったですね。あの場面、実は裏設定があって、生徒役のキャストにはそれぞれの進路を書いた表を渡してありました。東大に合格した子も残念ながら不合格だった子も、私学に進む子も予備校に行く子もいて、それを知った上でのみんなの表情だったんです。


嶋田さん、小牧さんの演出回では、どんな苦労がありましたか

宮崎:嶋田監督は第4話の隣徳祭(文化祭)と第5話のビジコン(ビジネスプロジェクトコンクール)を、それこそ裏設定も込みで、生徒たちが「チーム・オカミ」のTシャツを作るところから細かく作っていました。今回、助監督さんたちも若い人が多く、今の10~20代が経験してきたリアルな学生生活を反映していました。

小牧:私は中継ぎのような形で第7・9話を担当し、これまでの「御上先生」の温度感を大切にしつつ、物語が進んだ段階で何を追加するかということを考えました。後半は御上が兄のことを打ち明け、生徒たちからの影響も受けていく中で、最初のセットアップとは変化してきた関係性の“生感”を大事にしました。


第7話では女子生徒が生理用ナプキンを万引きして…という「生理の貧困」を描きました。

小牧:生理については感覚や認識に個人差があり、たとえ女性同士だったとしても必ずしも共感できるとは限らない問題です。だから「生理の貧困」を描くこと自体にフォーカスを置くのではなく、あくまでその問題に直面している1人の生徒とその周りを描くことを意識して進めました。いろんなご意見があるものだとは思っていましたが「描く意義があった」と受けとめてくれた人が多く、うれしかったです。

宮崎:ネガティブな反応も覚悟していましたが、生理や戦争の話題も好意的に見てもらえましたね。社会全体の感度が上がってきている証拠でもあるし、逆に僕たち制作者側がもっと勉強しないといけない。その上で皆さんを信じて踏み込んでいいんだと気付かされました。

小牧:こういうドラマを面白い、新しいと見てくださる感覚が世の中に根付き始めているのかなと…。時代が変わってきていることを実感しましたね。


投票でも「教育の課題、社会問題など難しいテーマに果敢に挑戦していた」点が評価されました。それで、かつ平均世帯視聴率10%以上を獲得したことには、手応えがあったのでは?

宮崎:視聴率は本当にありがたかったです。実は、放送が始まる前、チーフ監督として挑戦作を作ろうと言いながらもヒットするかは自信がなく、「年配の人が見てくれなかったらどうしよう」「もうダメだ」とかずっと言っていて(笑)、松坂さん・吉岡(里帆)さん・岡田(将生)さんにも「大丈夫だよ」と慰めてもらっていましたが、新しく試したところを数字でも評価してもらえたので、「良かった、でも、視聴者の皆さんがすごい」と身を引き締めました。


主演男優賞を受賞した松坂桃李さんの演技はいかがでしたか?

宮崎:僕は「VIVANT」(2023年TBS系)以来でしたが、松坂さんは最初の顔合わせの段階で、もう既に“御上先生”でした。事前打ち合わせでは、御上は変人みたいにも見えるけれど、実は優しさを秘めていると確認だけして。そこを松坂さんも解釈してださって、現場で相談しながら演じてくれました。もちろん、演技の引き出しも豊富で、こちらの要望にも柔軟に応えてくれ、感謝しかないです。

小牧:私は2025年1月に放送された「スロウトレイン」(2025年TBS系)でも松坂さんとご一緒し(同作ではプロデュース)、そこでも人間らしさというか、お茶目な一面を見せてもらいましたが、松坂さんはその後すぐ「御上先生」に入り、「スロウトレイン」とは全然違う人物にスッとなりきっている。素晴らしいなと思いました。御上役でも厳しさの中、お茶目なところが垣間見えていたと思います。あと、私たちと同世代なんですよね。

宮崎:僕は松坂さんの二つ年下、嶋田監督と小牧監督は一つ下ですよね。でも、松坂さんはドラマ作りにおいては大先輩。本当に「座長」でした。出番がないときも現場にいて、生徒たちと自然に距離を縮めてくれました。第6話で御上が兄のことを打ち明ける長ゼリフのシーンでは、撮影のトラブルもあり、いろんな角度から何度も演じてもらいましたが、もちろん同じ長いセリフをお願いしても完璧。「自分の顔がどう映るより、生徒の表情を引き出すために体力を残しておいた」とおっしゃっていて、頼もしかったです。


他のキャストの演技で印象的だったことは?

宮崎:真山弓弦役の堀田真由さんとは「アンチヒーロー」でも組ませてもらったので、全面的に信頼していましたが、今回は人を殺してしまうという難しい役。堀田さんは弓弦という役への責任と拘置所に入っているという役作りで、体重を落としてくださいました。事前準備の成果で迫真の演技をしてくれたと思います。でも、本当にキャストの皆さん、若手の方からベテランの方まで皆さん素晴らしかったので、本当に感謝しています。

小牧:本当に皆さん、すてきでした。槙野役・岡田将生さんの演技アプローチも印象的でしたね。第9話の槙野のトラウマに関する場面で、キャラクターを鑑みたご提案を頂き、それまで撮影していた内容を変更し、その場で演出や見せ方を変えたことがありました。結果、槙野の心情もより鮮明になり、撮影の途中であってもキャスト・スタッフが気にせず現場で感じたことを柔軟に取り入れていける感じが新鮮で楽しさもありました。

宮崎:松坂さんと岡田さんは本当に仲が良く、松坂さんは「文科省のパートは全面的に信頼している岡田に任せた」と。そして、撮影の合間は2人でイチャついていました(笑)。


改めて「御上先生」で達成したことはなんでしょうか?

宮崎:これまでドラマの現場で培ってきたことも多いけれど、今回は新しさを意識して試したことを評価していただき、とても光栄です。松坂さんをはじめとする同世代で思いきりやらせてもらったことも大きく、さらに僕たちが次の時代のドラマをどう作っていくかと考えると、もっともっと勉強しなければと思いますね。

小牧:この作品が評価してもらえたのは、現実を見据え議論を進める高校生が現代ならではの温度感にマッチした部分があり、それが皆さんに届いたからなのではと思いますので、今後もおごらず真摯(しんし)に時代を描いていきたいと思います。そして、物語から受け取ったメッセージは「自分の頭で考えること」ですね。

宮崎:そうですね。今回描いたのはある意味、理想の学校像。見てくださった皆さん達が「こんな学校に通いたい」と言ってくれたのが何よりうれしかったです。僕自身、撮影が本当に楽しかったので、「御上先生」から離れるのが寂しくて、今も絶賛ロス状態です。

(取材・文=小田慶子)
御上先生

御上先生

とある高校を舞台に、権力争いや国の思惑、大人社会の要素を盛り込んだ新たな学園ドラマ。東大卒のエリート文科省官僚・御上孝(松坂桃李)は、官僚派遣制度によって私立高校へ出向することに。彼は官僚でありながら自ら教壇に立ち、現代の高校生たちを自分なりのやり方で導くとともに、権力に立ち向かっていく。

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