第125回ザテレビジョンドラマアカデミー賞最優秀作品賞 受賞インタビュー

(C)カンテレ

僕達はまだその星の校則を知らない

磯村さんなら大丈夫という絶対的な信頼感がありました(岡光寛子P)

「僕達はまだその星の校則を知らない」(カンテレ・フジテレビ系)が作品賞に輝きました。脚本賞(大森美香氏)、ドラマソング賞(ヨルシカ「修羅」)も獲得し、3部門受賞です。投票した読者、TV記者、審査員からは「詩的なタイトルやセリフが印象的。繊細な人間模様を描いた」「生徒と先生とスクールロイヤー、それぞれの立場や抱える問題をリアルに描いていて、共感できた」「学園ものという枠を超えて心に響くドラマだった」という感想が寄せられています。

岡光寛子P:ありがとうございます。白石Pと組んで制作した連続ドラマは今回で5本目。前作「春になったら」(2024年カンテレ・フジテレビ系)が親子、家族の物語だったので、今回はもう少し大きな、社会の縮図である学校を舞台にしました。
学校は人生をより良く生きるための土台を作る場所だと思いますし、大人も子どもと同じように悩みを抱えながら生きています。ですので、大人が一方的に何かを与えるのではなく、学校嫌いなスクールロイヤーの主人公が生徒や先生との交流の中で何かを感じ取っていく方がいいのではないかと考えました。決して派手さのない作品ですが、一つ一つ丁寧に積み重ねてきましたので、こうして視聴者の皆さまのおかげで評価してもらえて、うれしいです。

白石裕菜P:まずは、作品賞をありがとうございます。最初の企画書に「完璧な大人も子どももいない。むしろ不完全さを通して人と関わることを肯定するドラマにしたい」と書きましたが、「ぼくほし」チームみんなで達成できたのでは、と思います。視聴者の皆さんがそれぞれの感性を持って見てくれて、作品の余白を埋めたり、深めてもらったという実感もあり、うれしいですね。制作過程でも、10代のキャストも含め、年齢やキャリアは関係なく、みんなが対等な関係で、人と人とが作ることが掛け算になっていました。すごく幸せな現場だったと思います。

岡光P:視聴者の皆さんの反応としては「いいね」ボタンをたくさん押されるというより、感想を一つ一つじっくりと深く書いてくださるドラマで、私たちもそのコメントを読んで「ちゃんと届いているんだな」とすごく励みになっていました。


2期前の第123回の最優秀作品賞は同じく高校を舞台にした「御上先生」(2025年TBS系)でした。このタイミングで学園ドラマを作ろうと思ったのはなぜですか?

岡光P:タイミングは偶然だと思いますが、いくつか学園ものがありましたね。カンテレ制作では「GTO」(1998年、2012年)、「僕たちがやりました」(2017年)などがあり、私も先輩プロデューサーのように、いつか学園ドラマを作ってみたいという願望はありました。やはり学園ドラマにしかない、熱量や、キャストとの掛け算で予想だにしなかったミラクルが生まれる瞬間があると思うんです。自分が若くて体力があるうちにやりたいと思ったのですが、そう若くもなくなり(笑)、ですから「ぼくほし」では1クラスの生徒全員を描くのではなく、メイン生徒を11人にしぼって、物語を作っていきました。それでも、その一人一人の交友関係や家庭環境があり、そのバックボーンを構築していくのは大変でしたね。


「御上先生」や「なんで私が神説教」(2025年日本テレビ系)とは生徒役に同じ人がいなくて、しかも演技力があるフレッシュなキャスト陣でしたが、どうやって集めたのですか。

岡光P:白石Pといろんなところにアンテナを張り、映画やMVを見て、気になる人には会いに行ったり、もちろんオーディションもしたりしましたが、演技だけではなく、人となりを見せてもらった上で、「ぼくほし」の世界観とマッチする人、何より我々がご一緒したいなと思う方にお願いしました。そうして集まってくれた生徒役のキャストの好演も評価していただいた要因の一つになったと思います。

白石P:そうですね。若いキャストに接して、こんなに可能性に満ちた人たちがまだまだいるんだということに、すごく希望を感じました。大人の役者さんやスタッフも生徒役の皆さんに指導するという姿勢ではなく、むしろ「こちらが刺激をもらえるよね」という感じで、同じ目線で一緒にモノ作りをしていて、こんな関係性ってすてきだなと…。大げさに言えば、まだまだ日本は大丈夫だと思いました(笑)。


スクールロイヤー(弁護士)の白鳥健治を演じた磯村勇斗さんは、主演男優賞部門3位でした。磯村さんの演技はいかがでしたか?

岡光P:私たちは「TWO WEEKS」(2019年カンテレ・フジテレビ系)で磯村さんとご一緒したことがあり、脚本の大森さんは「青天を衝け」(2021年NHK総合ほか)で組んでいましたので、彼の人柄、お芝居に対する姿勢や技量も分かっていて、安心して主人公を託せました。健治は繊細で難しい役ですが、磯村さんなら大丈夫という絶対的な信頼感がありましたね。

白石P:役について思い悩むところもあったでしょうけれど、私たちの前ではそれを見せませんでしたね。本当は、素の磯村さんと健治は、ある意味遠いキャラクターだと思うんです。健治は「僕には(世の中をうまく渡っていく)ヌタヌタのスキルが全くない」と言いますが、磯村さんは自然に他者と適切な距離で接することができる方なので、完全には理解できない部分もあったと思うんですが、大森さんの脚本を信じ、健治という人を生きてくれました。


健治と心を通わせる国語教師・珠々(すず)を演じた堀田真由さんは?

岡光P:私はシンプルに堀田真由さんが好きで、いつかご一緒したいなと思っていたので、珠々役をお願いしました。堀田さんは想像以上にお芝居に真摯で、役に対しての理解度が深く、周囲への愛情も深く、なんてすてきな女性なんだ!と改めて思いました。

白石P:堀田さんは“受け”のお芝居がとびきりすてきですね。健治を受け止め、生徒たちを受け止め…。ここは彼女の表情で成立しているというシーンがたくさんありました。本当に堀田さん自身、珠々のような女性かもしれない。全然普通なんかじゃない才能と感性がある方だと思いました。

岡光P:第9話で健治にそう言われるセリフがあって、「自分に言われているみたい」とおっしゃって、本番で涙を流されているんですよ。「大森さんの脚本に自分を肯定してもらえたような気持ちになって、涙が止まらなかった」と話していて、役柄とのリンクを感じました。そんな堀田さんと磯村さんの相性はとても良かったと思います。


職場の恋愛の描き方がとてもリアルでした。ラブコメでよくあるようにひとつの職場で何組もカップルが成立するのは現実的ではないですし、かといって誰も恋愛をしないのも違和感があるところ、健治と珠々が自然に惹かれ合っていくという…。

岡光P:社会に出るのを嫌がっていた学校嫌いな健治が、主体的に関わることで初めての感情を知っていき、そうして一歩踏み出したからこそ、珠々のような女性と出会えた…。たしかに今、男女の組み合わせでも恋愛には発展しないのがトレンドだったりしますが、健治という人物を描く上で、恋愛じゃないと描けない2人の気持ちの揺れ動きがあるよね、という話になったんです。ですが、あくまで人間的なつながりなので、大森さんともこの2人のこのドラマにおけるゴールは「手をつなぐぐらいですかね」と話していました。2人だからこそ、ピュアで尊いシーンになったのだと思います。


学園の尾碕理事長を演じた稲垣吾郎さんはいかがでしたか?

岡光P:稲垣さんは本当にすてきな方です。あんなに知性と品性とミステリアスさと兼ね備えた人って、他にいないですよね。そこにいるだけで説得力がありますし、この作品との相性はとっても良かったと思っています。作品の根底に流れる、私たちが大切にしたいものを言わずもがな理解してくださって、信頼感がありました。

白石P:役柄上、健治とは対決する立場でしたが、現場ではとても優しく、監督たちの提案も「そうだね」「そっちの方がいいね」と受け止めてくれましたね。


「修羅」でドラマソング賞を受賞したヨルシカについても、一言お願いします。

岡光P:この主題歌は我々からヨルシカさんに書き下ろしてほしいとオファーしました。台本を読んで作ってもらい、作品の想いをお話しして、何回かやりとりするうちにこの曲が完成しました。もともとヨルシカさんは宮沢賢治をオマージュした曲を書かれていたので、言葉の選び方が秀逸で、世界観にぴったりだったと思います。曲のテンポもちょっとリズミカルで、このドラマの最後は希望で終わりたいという私たちの気持ちに、すごくマッチする曲にしてくださいました。生徒役のキャストさんたちはこの曲を聴きながら撮影現場に来ると言っていましたね。私たちもこの曲にすごく愛着があって、毎週、その回の一番いいところで「修羅」が流れるようにしていました。

(取材・文=小田慶子)

僕達はまだその星の校則を知らない

磯村勇斗の民放連続ドラマ初主演作。独特の感性を持つがゆえに何事にも臆病で不器用な主人公が、少子化による共学化で揺れる私立高校にスクールロイヤー(学校弁護士)として派遣される。そこで法律や校則では簡単に解決できない若者たちの青春に、必死に向き合っていく学園ヒューマンドラマ。

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