――臨場感のあるボクシングシーンが印象的でしたが、役作りはかなり時間をかけられたようですね。
森山:今回はプロボクサー役だったので。
武監督:しかも新人とかじゃなくてベテランのボクサーだからね。元日本ランカー1位という。
森山:どこまで説得力を持たせられたか分からないですけど、気概は確かにあったかもしれないです。
これまでボクシングはおろか格闘技そのものをやったことがなかったので、できるだけ早めに始めようと思って、ボクシング指導担当の松浦(慎一郎)さんにも早めに関わっていただいて、基礎的なところから、映画的な見せ方からいろいろ教えてもらって、あとはボクシング関連の映画とかを紹介してもらったので、とにかく見ていった感じでした。
武監督:そういう準備期間が必要だったので、今回はスタッフよりも俳優の方がかなり先行して準備していました。
――以前にもボクシングを題材にされていましたが。
武監督:もともと映画とスポーツって相性が良くないんです。僕はできるだけ題材としてスポーツを選びたくないんですよ。
森山:そうなんですね。
武監督:それは“本当”にできないから。スポーツ以外のことだと、演技で“本当の世界”に持っていくこともできるんですけど、“実際にやらないでやってるように見せる”っていうのはギミックだからできるだけ避けたいんです。
でも、その中でどうやったら本物に見えてくるかというチャレンジは面白いと思います。そういう理由で、スポーツっていうのはあまり選ばない。
森山:なるほど。
武監督:でも、それでうまくいった時は傑作になるから、ボクシングを題材にした名作も残ってるんです。ボクシング映画自体はたくさんあるんですけど、怖い題材の一つなんです。
森山:うんうん。
武監督:ただ試合を見せちゃうだけだとダメなんです。ボクシングを知らない人が映画を見るわけで、ボクシングが好きな人はボクシングを見る。ボクシングを知らない人にどう見せるかというのも一つのテーマですね。
今日(11月2日に「第33回東京国際映画祭」のオープニング作品として上映され、森山と勝地、武監督が登壇)、すごくたくさん女性の方が来てくださっていましたが、そういう方たちが見たときにちゃんと伝わるように。
――森山さんから見た“末永晃”はどういう人物ですか?
森山:元日本ランカー1位ですけど、タイトルマッチの試合でダウンしてしまったことによって、ボクシング人生も実生活もうまくいかなくなって。そこからもう一度立ち上がりたい、もう一度向き合いたいって思ってるんだけど、それは彼自身だけの問題じゃなくて、いろんな、悪い意味でのスパイラルというか、つながりが重なって、なかなか向き合えないまま何年もたってしまっていて、気が付いたらロートルボクサーになっているんですよね。
35、36歳。チャンピオンだったらまだやれる年齢ですけど、そうじゃなければ現役引退しなきゃいけないぐらいの年齢。それぐらいまで引きずってしまってるわけです。
――監督としては、スポーツが難しいということですが、見せ方としてこだわった部分は?
武監督:末永はリングの上で一番輝くんですよ。だから非常に冷たく暗いトーン、普段は撮らないような色調で、冬の冷たさというのもありますけど、そういう色調で日常を撮っています。彼らがボクサーというのもありますけど、リング上で浴びるライト、あれはうらやましいなぁって。
森山:ハハハハ。
武監督:あそこに行けて、熱さを感じるのがうらやましいなと思うんです。なので、見る人にもリングの上の熱さと明るさをうらやましいと思わせたい。そこに立てる人は少なくて、さらにそこでいい思いをする人はもっと少ないわけです。
最初に俯瞰で見せた時に、後楽園ホールのマットの上の血の痕を感じてほしかった。リングの下からだとマットの血は見えないから俯瞰で。あと、観客の無責任な感じ。人間の歴史の暴力性における残酷さみたいなものを。
森山:軍鶏(シャモ)を闘わせてるのを見るのと同じですからね。
武監督:そう。だから、ボクシングっていうスポーツが人間の古い歴史の残酷さを表現していて、“あそこに上がるしかない”、“ここでしか勝負できないんだ”っていう一攫千金を求めてリングに上がっていく。
それが世界中あるっていうことは、世界中に苦しみがあるっていうことなんです。ボクシングの世界では“勝った奴には何もやるな”っていうのがあって、それぐらい負けたら何もない。勝った奴が全部持っていくんです。あのリングの上の明かりというのを、この映画では大切にしています。後楽園ホールで撮影できたこともよかったなって思いますね。
――後楽園ホールはボクシングなど格闘技において聖地みたいな場所ですし。
武監督:その聖地っていうのが一番残酷だったりするんです。リングに上がるまでのボクサーの日常を描きたかったんですよ。試合はもうね、サービス(笑)。リングに向かう花道とか、リングに上がった瞬間っていうのが実は一番のクライマックスなんです。でも、それだと見ているお客さんはお金を払って帰れないから、残酷な試合を見ていただけませんか?って。
ホワイトシネクイント他、全国公開中
配信版「アンダードッグ」
ABEMAプレミアムにて2021年1月1日(金)より配信開始
出演=森山未來、北村匠海/勝地涼
監督=武正晴
原作・脚本=足立紳
音楽=海田庄吾
企画・プロデュース=東映ビデオ
制作プロダクション=スタジオブルー
配給=東映ビデオ
製作=ABEMA、東映ビデオ
公式HP=https://underdog-movie.jp/
(C)2020「アンダードッグ」製作委員会