例えば、寿一たちが装着するマスク。
今作に限らず、今期の冬ドラマは撮影時期からすでにコロナ禍にあり、劇中に生きる人物たちが自然な形でマスクを付けたり、ソーシャルディスタンスを保つ暮らしをしている。現代を描く話ならば、避けて通れない演出となってしまったのが2021年である。
「俺の家の話」の人物たちは、屋外にいる場合であれば基本、マスクを装着し、食事のときには外す。寿一は息子の参観日に作文を聞いたときも、父・寿三郎をグループホームに預ける際もマスクを濡らしながら涙を流していた。マスクはまた、プロレスでも「覆面マスク」として、能でも「面」として古くから装着されており、違和感なく異文化をつなぐアイテムとなっている。
女好きの父に対して、娘の舞(江口のり子)が「なんでもかんでも、コロナのせいにすんじゃないよ!」と吠えたシーンもあった。このセリフは現代を生きる者の心に突き刺さったのではないだろうか。
連続テレビ小説「あまちゃん」(2013年NHK総合)で東日本大震災が描かれていたり、「いだてん―」では大河ドラマとしては異色の近現代史を描いたりと、そこに現実があるなら“逃げずに描く”印象がある宮藤作品。だからこそ、リアリティーが生まれ、見る者にもガツンと響く。
多くの人にとって「親の介護」というのも、確実に振りかかる問題ではあるのにどこか目を背けて“逃げてしまいたい”思いがある。介護は、親兄弟と感情をすり合わせて現状を乗り切らなくてはいけないし、終盤には親の死という絶対的ストレスが待ち受けている話である。ところが「俺の家の話」は笑いの要素もたっぷりに、真っ向から介護と家族の話を紡いでいる。
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