2021/04/03 12:40 配信
新型コロナウイルスの影響により、2020年6月に上演延期となった舞台が4月に“リベンジ上演”を果たす。現在28歳の主宰者タカイアキフミが、作・演出も務める“TAAC”というプロデュースユニットによる舞台「世界が消えないように」だ。約10カ月越しとなる4月7日(水)-13日(火)、同公演を東京・下北沢の駅前劇場で上演するという。舞台業界に身を置き、「『2020年は勝負の年だ』と意気込んでいた」というタカイに、公演が延期になった時の心境、そして現在どんな気持ちとともにリベンジ公演に臨むのか、その思いを聞いた。
TAACは、「妥協なく創造・共創する集団」として2018年に大阪で立ち上げ、同年4月の第1弾公演「正義姦」では関西小劇場としては異例の2週間のロングラン、9月に第2弾公演「を待ちながら。」では七味まゆ味(柿喰う客/七味の一味)と山崎彬(悪い芝居)の二人芝居を東京・大阪2都市で上演するなど注目のユニットだ。
そして第3弾公演となる三上市朗主演「だから、せめてもの、愛。」で、2019年12月に本格的に東京進出。開演の15分前に到着した方にキャッシュバックする“15分前到着割”や、携帯電話による妨げに明確なペナルティを設けた“サイレント上演”などの試みも。
2020年6月に「世界が消えないように」が延期になった際には、劇場をただ開放する「なにもない劇場」を開催するなど、“劇場・演劇の価値の再発見”に取り組んできた。
そんなTAACの第4弾となる舞台「世界が消えないように」は、2020年に予定していた出演者である、永嶋柊吾、松本大、大野瑞生、高橋里恩、三好大貴が続投。
※高橋里恩の「高」は正しくは「はしご高」
本公演は、2020年冬(コロナ禍直前)大学卒業を前に海外に卒業旅行へ行く男子学生たちの旅行劇である。彼らのグループには、かつて友人の1人をある事件で亡くした過去があった。友人を殺してしまった罪悪感によって彼らは絆を深めてきたのだが、その絆は友情なのか友情とはまた別のものなのか、そして彼らの絆は卒業とコロナ禍を機に消えてしまうのか。
亡くなった友人とのエピソード、旅行中の出来事、卒業後のコロナ禍という3つの時期を行き来しながら、子どもでもなく大人でもない人生の転換期にいる大学生たちの危うく儚い姿や関係性、時間を描きたい。
大学教育・大学生活がリモート授業によって一変する昨今の日本において、コロナ感染症によって奪われ消えてしまった尊い時間や、家族・友人との絆や思い出について観客に考えさせる機会を創出したい。たとえ大きな渦に飲み込まれようとも、決して消えることのない人々の営みを丁寧に描きたい。
そんな企画意図とともに、本公演の準備を進めるタカイに、インタビューを行った。
――2020年の公演が延期になった時、率直にどんな心境だったでしょうか?
まだコロナウイルスがどれほど恐るべきものか分かりきっていない時期だったので、お客さまとカンパニーの役者、スタッフらの安全を優先しました。2019年に拠点を東京に移し、「2020年は勝負の年だ」と意気込んでいたので、2020年中はずっと気を落としてしまっていました。
――コロナの影響は、舞台業界にどんな風に残り続いているのでしょうか。
演劇は役者やスタッフ、お客様が、同じ空間に存在して表現するものなので、稽古、本番においても消毒や換気が欠かせません。ただ、リモート会議が一般的になった影響で、スタッフらとの打ち合わせをオンラインでも実施することができ時間の調整はしやすくなった気がします。
あとは、稽古もダラダラとやるのではなくて短時間集中型で実施しており、生産性は上がったのではないかなと思います。
――イベントがしにくくなってしまった世の中の動きがある一方で、舞台業界の動きはどんな状況だったのでしょうか。
この1年でコロナウイルスとの付き合い方がある程度分かってきたので、出来る限り上演できるように動いている団体が多いと思います。ただ去年に関していうと、僕個人は何もやる気が起こりませんでした。
――そんな中で、2020年のリベンジに当たる今回の公演に込めた思いは?
コロナウイルスはとても憎い存在ですが、コロナ禍がなければ今作の「世界が消えないように」は生まれなかったと思っています。
演劇は【今】を切り取ることのできる表現媒体だと思っているので、コロナという大きな渦に飲み込まれそうになっている1つの小さな世界の物語を描くことで、人間の日々の営みの愛おしさと残酷さを伝えることができればと思っています。そして、またいつか大きな出来事があったときに、人々の拠り所となれるような普遍性のある作品にしたつもりです。
――今後まだしばらく新型コロナウイルスの影響が続いていくかと思いますが、舞台の在り方、舞台への気持ちにどんな変化がありそうでしょうか?
リモート演劇やオンライン配信なども活発ですが、僕個人としては、劇場への執着がより強くなりました。やはり同じ空間にいるからこそ伝えられるものがあると思うので。これからも空間に流れる細かい粒子を大切にしていきたいです。
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