「アナと雪の女王」「ズートピア」に続き、ディズニーが贈るアニメーションの最新作「モアナと伝説の海」。
海に選ばれた少女モアナが、伝説の英雄マウイと出会い、困難に挑みながらも自分の進むべき道を見つけていく。物語の舞台となったのは、伝説が息づく南の島と、生命の源である海だ。
今作品で監督を務めたのは、「リトル・マーメイド」で新たなディズニー・ヒロインの姿を打ち出し、「アラジン」や「プリンセスと魔法のキス」でも新しい世界を自分の力で切り拓く強いヒロイン像を描いた、ジョン・マスカーとロン・クレメンツ。
そして、今回モアナという新たなヒロインを生み出したふたりに、作品に対する思いや制作秘話を聞いた。
――今回の作品で、お2人のご経験を生かした部分はありますか?
ロン:毎作自分たちと重ねる部分はありますが、モアナは10代の女の子なのに、とても心の中で引かれるものがありました。モアナの周りの世界や、置かれている状況など彼女とクロスするところがあって。
例えば、私はアメリカ・アイオワ州の小さな町出身で、アメリカ中部の方なので海からも大変遠いですし、ロサンゼルスからも大変離れているところで育ちました。
でも、9歳のときに「ピノキオ」を見てとてもとても興奮したんですね。
そして、自分は将来アニメーションの仕事がしたい、ディズニーで働きたいということを強く願ったんです。
ですが、自分が育った町だと“変な目標など持たずに、現実的な夢を持ちなさい”と言われてしまって。けれども、私はモアナのように“自分の中の声に従って”ロサンゼルスに行き、アニメーションの仕事につけたので、そういう点でモアナと共通していますね。
ジョン:今まで私たちの作品は手描きアニメーションだったんですが、初めてのCG作品ということでモアナ同様、私たちも未知の領域での航海に出たという部分でしょうか。
モアナが船で航海に出たと同様、私たちも先が分からない怖い旅というのを遂げていますし、私たちとってはジョン・ラセターがマウイのような位置づけでありまして、CGとはこういうものだということを教わりました。
(冗談で)私たちはジョンからプリンセスと呼ばれて(笑)。モアナが自分の過去を力にして克服していったように、私たちも自分の過去や、ベテランアニメーターの「白雪姫」などに携わった人たちの作品をたどりながら制作していきました。
――制作していく中で、苦労した点は?
ロン:海をキャラクターとして扱うのはディズニーではやったことがないっていうことで、とても独特なものになりました。海自体に思考があったり、気持ちがあったりというのを表現しなくてはならなかったので。
クリス・ウィリアムズという、監督でもありとても才能のあるストーリーアーティストが描いてくださった、幼児のモアナが海と出会うシーン。
海と絆ができて、友達になるというものです。最初にアニメーション化したとても複雑なシーンで、“生きている海”をちゃんと表現できるか、と本編の前に試験的に作ってみたんですね。
どうやったら自分たちの求めているもの、やりたいと思ったものに近づけるんだろうと。キャラクターアニメーターが演技の担当をして、水や溶岩、火を担当するエフェクトアニメーターと試行錯誤しながら、とてもいいものができました。
ジョン:クリエーティブな面で言いますと、マウイの紹介シーンは何度も何度も書き直したんです。まずはとてもやる気のないマウイで、長い間島から出られないため、全身葉やコケに覆われていて、まるで動物のような形相で表現をしてみたら、あまりにもそれがマイナスなイメージになりまして。
魅力的でなさ過ぎるから、もう少し好かれるようなキャラクターにしたいと考えていたんです。そんな中、英語版ではドウェイン・ジョンソンが声優を担当することになり、彼の好感度やカリスマ性があったということ、そこで私たちも方向性を変えるというところで。
もともと、モアナがマウイに憧れていて崇拝していたのが、実際に会うと幻滅するという流れだったんですが、マウイが自然の何かで問題を起こしてしまい、モアナがマウイに反感を持っているというものに変更しました。そして、マウイが歌うことによって、少しずつ2人が仲良くなっていくという感じにしました。
――ジブリに影響を受けた作品とお聞きしましたが、具体的にはどの部分でしょうか?
ロン:今回、制作するにあたって、実際に太平洋の島々に訪れたんですね。その経験によって、海自体をキャラクターとして扱うということ、自然の島々などが擬人化されて伝えられているということで、モアナと自然とのつながりを見ても、宮崎駿監督っぽさと言いますか、影響が出るものではないかと私たちも興奮しました。
2人とも宮崎監督の大ファンなので、そのへんはたいへんうれしく思います。
ジョン:しかし、もともと宮崎監督作品っぽいものを作ろうと目指していたわけではないんですね、自然な形で描こうと思っていた世界観がそちらの方向に行っていた。彼の作品を愛していますし、意図はしていなかったんですけど、自然に対する捉え方などが反映された作品になったんだと思います。
――日本ではここ数年、ディズニー・ヴィランズの人気が高まってきているのですが、今作品では(リトル・マーメイドの)アースラのようなヴィランが出てこなかったのはなぜですか?
ロン:そうですね、今までは(「アラジン」の)ジャファーや(「プリンセスと魔法のキス」の)ドクターファシリエとか、大きなヴィランというのがいました。今回だとテ・カーは火山の巨人(女性)で言葉も発しないということもありますし、彼女は自然の脅威というものが表されているキャラクターなので、少し違いますね。
また、タマトアやカカモラはちょっとコメディー要素が入っているようなヴィランになるので…。
ジョン:ヴィランではないんですけど、敵対する関係なのがマウイ。最初は敵対関係ですが、のちに友となっていくという関係なので、今まで見られていたようなヒーロー対ヴィランというような構図、関係性というのは今作品には必要ないと思っていました。
そういう意味でも、他の作品と今作品は異なりますね。また、考え方として全く違う種類のものを届けたいという思いがあったので。もちろん、今後の作品でいわゆる“スーパーヴィラン”的なキャラクター出てくる可能性もありますが(笑)。
――今作品でも、ディズニーファンが喜ぶような小ネタがあれば教えていただけますか?
ロン:全部ピンポイントで教えてしまうとつまらないので(笑)、ヒント的なものしか言えないんですが、「リトル・マーメイド」のフランダーは出てきます。
ジョン:せっかくだから、どこに?というのをこっそり教えますが、マウイの歌の間に出てくるので探してみてください。
ロン:それから、「アラジン」に登場する魔法のランプもどこかに。また、ベイマックスはカカモラのシーンで出てきます。あと、非常に見つけるのが難しいんですけど、「アナと雪の女王」のオラフが一瞬だけ出てきます。これは不可能に近いので20回くらい見てもらえれば分かると思います(笑)。
3月10日(金)より全国ロードショー