山戸監督の演出に「ヤバかったですね」
――ヒグチさんはドラマを毎話リアルタイムで視聴されていますが、ドラマの感想をお聞かせください。
ヒグチ:原作を事前に読んで、言葉の裏にある考えが大事なエッセーだと思いました。だから、その後ろ側にある意味合いをどういうふうに映像にするんだろうと思っていました。見た人の想像力に任せるのか、それとも後ろ側まで網羅して映像にするのか、どっちなんだろうと思っていたら両方ともあって。文字だけで書いてあることを出しているところもあれば、視聴者の想像力に任せているところもある。本当にすごいなと思って。
自分の想像力だけでなく、そこに向かう階段も用意してくれています。私が平面でしか見られないところを立体的に見て、感情の奥行きを作る能力を持っている人っているんだなと思いました。
祖父江P:やっぱり、脚本の井土(紀州)さんと山戸監督のゴールデンコンビですよね。
ヒグチ:言葉もそうですけど、しゃべっている言葉の裏の部分を描くのは本当にすごいです。
祖父江P:山戸監督は30代の若い監督ですが、脚本の井土さんは中年の男性の方なんです。今回の作品は井土さんの人生の蓄積と、山戸監督の感性がぴったり合ったと思っています。ジェーン・スーさんのお話は表面上ウィットに富んでいるし、おしゃれです。その裏にある繊細な人間の感情を掘り起こして、見える形にする作業を、井土さんや山戸監督がとてもうまく丁寧にしてくださいました。
山戸監督はウエットでエモーショナルな表現が得意な人だと思います。だから一見するとジェーン・スーさんのカラッとした軽妙な文章に合わないんじゃないかとも思われるかもしれません。しかし今回でいうと、スーさんが文章で書く揺れ動く人間性を映像で表現するのに山戸監督のテイストはピッタリとマッチしました。1話の冒頭で女の子がラジオを聞いているところとか、“That's 山戸結希”って感じがしましたね。
ヒグチ:やばかったですよね。あのカメラの感じとか、見えている感じとかね。映像だけでも意味を考えるものになっていましたね。
――ジェーン・スーさんがラジオでドラマ制作側の理解度がすごいと言っていました。
祖父江P:原作だけでなく、別の書籍も読み込みましたね。ジェーン・スーさんは作品が多いので、読むのは少し大変でしたけど(笑)。私も山戸監督も東京で働く独身女性で、ジェーン・スーさんがずっと寄り添ってきたタイプの女性の一員です。そういう意味でもジェーン・スーさんの文章に救われてきた人の一人でもあるので、そういっていただけるとうれしいです。
――お二人が気に入っているお話や場面はありますか?
ヒグチ:お葬式の時に、棺桶の中に口紅を入れてもいいだろうって言ったところは印象に残っていますね。うちの父親は自分の我を通すタイプでもないんです。でも、その父親から一人の人間が出てきた瞬間を一度だけ見たことがあるんですけど、その瞬間を思い出しました。
それはいい思い出ではないんですけど、その出来事を思い出すというか。私は恥ずかしいことや嫌なことが思い出になっていることが多いです。よかったとは思わないけど覚えているということは、自分の中では大事な部分だったのかもしれないって、そのシーンを見て思いました。
祖父江P:オリジナル要素ではあるんですけど、3話、7話、8話が好きですね。父と娘の話も好きですが、東京で働く女性を描いた話も好きです。実はジェーン・スーさんが寄り添ってきた東京で働く女性を集約したのが、北野、ミナミ、東の3人なんです。なので、彼女たちの悩み=私たち(働く女性)の悩みなんです。ジェーン・スーさんに影響を受けてきた私たちが考えた物語だけど、考え方を受け継いでいるのでジェーン・スーさんの物語だと思っています。
ヒグチ:ああいう友達っていますか?
祖父江P:いますよ! 何でも話せるようでいて、何でも話せなかったという話が7話でありましたが、そういうところもそっくりです(笑)。
ヒグチ:どういうつながりなんですか?
祖父江P:仕事で知り合った友達と、学生からの友達ですね。この3人が一緒にいるって珍しいですよね。学生時代の友達も在学中はそこまで親しくはなかったんですが、3人とも社会に出てから似たような業界で働いているので交流が増えて。何でも話せるようでいて、何でも話せないのは本当にそっくりだと思いました。ヒグチさんはいないですか? でも、親友は居ますか?って言われて、いますって即答できる人もなかなかいないですよね(笑)。私もその二人を親友って言っていいのか迷っている段階です。
ヒグチ:それはなんで迷うんですか?
祖父江P:向こうはそう思ってくれているのだろうか…って。
ヒグチ:それ、わかります。向こうは友達付き合いがたくさんあるのに、私はそうじゃないとか。もしかしたら同じことを思っているかもなとか。でも、パッと思いつかなかっただけで、私、友達はいました(笑)。
毎週金曜深夜0:12-0:52ほか
テレビ東京系で放送
【公式HP】https://www.tv-tokyo.co.jp/ikirutoka/
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