どんなことも“当たり前”ではない
作品制作をある程度終わらせた僕は、9月に日本に帰ってきました。個展までの1ヶ月はあっという間で、たくさんの方の協力の下、準備を進めることができました。隔離中の制作は家族が全面的に協力してくれたし、作品に必要な廃材などは土木関係の仕事をしている友達から譲ってもらったり、車を出してもらったりと、周りの協力なしでは進めることができませんでした。
今思い返してみると、段々と形になっていくにつれて、周りへの“感謝”が大きくなっていったのを覚えています。個展が無事に終了し、ホテルでひとり横になっている時、ふと感謝とはなんなのだろうという考えが浮かびました。
皆さんは幼い頃から“感謝”をすることは大事だと教わり、実際に感じてきたかと思います。僕も家族といる時間が少なかった分、周りの大人や友達家族にたくさんお世話になりました。そのため周りに“感謝しなければ”と思い生きてきました。ただ今まで自分が思ってきた感謝の気持ちは、心から出てくる感謝の気持ち、ありがとうの言葉だったのか、それが“ただの言葉”になっていなかったかと思ったのです。
“感謝しなければ”ならない環境で育った分、どこかで義務のように感じていたのではないか、“ありがとう”と言えばいいと思っていたのではないかという考えが頭をぐるぐるしました。
僕はこの1、2年で、今まで当たり前のように過ごしてきた環境や状況が“当たり前”ではないと感じる経験がたくさんありました。大切な人の死、お金、健康、まあ言い出したらキリがないですが、そんな経験をしながら“当たり前”の大切さや尊さを改めて思い知りました。
人は“当たり前”が“当たり前”じゃなくなった時に初めて心から感謝することができる。今回の個展を通して、僕自身も開催できたことが当たり前ではないということ、準備での過程で力を貸してもらえること、そしてたくさんの方に来てもらえることも当たり前ではないということを感じ、発見できた個展だったと思います。
そして今回の個展では、準備から開催までの間にたくさんの新しい出会いがありました。コラボしたカヌレの制作では実際にお店のある香川まで足を運び、ビジュアルのチェックと味のチェックをしたのですが、その際、カヌレ店の店主である寺井司くんのお家にお世話になり、ご家族をはじめ一緒に切磋琢磨する仲間の皆さんやお友達ともお会いし素敵な時間となりました。
10月22日から開催された個展でも、アート業界の方やメディア関係の方などたくさんの方に足を運んでいただきましたし、来場していただいた方の中には僕に初めて会うと言っていた方もいらっしゃいました。今回のこうした縁がつながり、また次のステップへ進んでいければいいですし、その時にはまた久しぶりの出会いや新しい出会いがあると信じて活動していきたいと思います。