芸歴28年目で、初めての経験
――演じる皆さんの考えや気持ちを軸に撮影しているんですね。
大九監督は演出をつけられた後、一人一人に「気持ちに無理はないですか?」と確認してくださるので、無理して過剰な演技をしている感覚はありません。演技ではないところのリアルな感情をえぐり取られている感じです(笑)。「外側をまねるのではなく、内側から心理的アプローチで、原作キャラクターに迫れ!」と言われているようで、その演出法に日々刺激を受けています。
――多くの作品に出演されている山口さんにとっても、新鮮な現場だったんですね。
最初は、台本を読んでいてもなぜだか全く頭に入ってこなかったです。どう演じたらいいのか分からず、思考が停止してしまったんです。芸歴28年目で、初めての経験でした。
忍という女性は、漫画が評価されず、母親や妻としての役割を果たそうとする中で、自分の願望、熱意を抑え込み、“私”というものを諦めかけた瞬間があり、そこからは流されるようにして生きてきたはず。そう思い、私のこの思考停止も役柄に利用してしまえと、発想転換をするように考え始めました。漫画家の役なので、漫画家の仕事についてYouTubeで勉強しましたが、それ以外は“無の状態”で撮影に入りました。
不思議ですが、忍が千秋と出会い、恋と仕事のセカンドチャンスによって自分を取り戻していくのとリンクして、私も撮影が進むにつれ、次第に意識がはっきりしてきたというか…。私自身、なんとか自分を取り戻そうとする最中なのかもしれません(笑)。