片寄涼太、小竹正人のあとがきに「あぁ、持ってかれたなこりゃ」
――自身が書いたエピソードや相手のエピソードで、特に印象に残った回をお聞かせください。
片寄:自分のほうは、耳の聴こえないUberの運転手さんのエピソードが印象に残っています。あのエピソードが書けたことをきっかけに、自分のなかで連載をする上での扉が一つ開いたような感覚がありました。小竹さんのエピソードはどれも印象に残っているのですが、やっぱり書籍化に伴って書き下ろされたあとがき。「あぁ、持ってかれたなこりゃ」と思いました(笑)。そのくらい叙情的なあとがきで初めて読んだときにすごく心を掴まれたので、全体の連載を読んだあとに、是非ともあとがきまでご注目いただけたらと思います。
小竹:片寄涼太という「少年」に出会ってからすでに10年が経ち、彼という人間を熟知していると思っていたのですが、この連載で、私が全然知らなかった彼の思い出や日常や現在考えていることなどを垣間見れて、すべてのエピソードが印象深いです。タクシードライバーの方、ワインショップの店主、幼い日の彼と彼の両親など、彼の文章の登場人物に私も実際に接していたような気がするほど彼の書いてきたことは今も鮮明に思い出せます。
小竹正人、“連載を一緒に完遂した”片寄涼太は「出来のいい弟」から「盟友」に
――それぞれ、お互いはどのような存在でしょうか。
片寄:小竹さんは10代の頃から僕をひとりの人として見守ってくれていた方だと思っています。時々会ったら大事な言葉を残してくれる親戚のお兄さんみたいな存在です(笑)。
小竹:片寄と私の間には確固たる歴史があるので、大勢いる後輩の中でも彼はかなり近しい存在です。あえて例えるならば彼は「出来のいい弟」とか「親孝行な息子」みたいな存在だったのですが、今回この連載を一緒に完遂したことで「盟友」のようになったなと思いました。さらに最近は「親子ほど年が離れてるのにどっちが先輩でどっちが後輩だっけ?」と思うくらい著しい成長を見せてくれていて……うれしいような淋しいような。
――最後に、著書の見どころ、読者に伝えたいメッセージがあればお聞かせください。
片寄:この約2年間のコロナ禍は、決して楽しいものではない時間だったと思います。僕にとってもそうでした。そんな時間に希望を見出すため、小竹さんとともに紡いできた言葉がたくさん詰め込まれています。自分自身の人間らしい部分もたくさん感じていただける作品となりましたので、是非とも僕の心の深い部分に触れていただけるとうれしいです。
小竹:生い立ちも年齢も全然違う、けれどどこか人間的な根っこの部分が似ているふたりの手紙のやり取りは、すべての老若男女の方に楽しんでいただける内容になっていると思います。私の敬愛する漫画家・東村アキコさんが本書の帯に「あれ?これ、純文学になってないか?」と書いてくださったのですが、ふたりの手紙のやり取りから小説やエッセイ集を読んだときのような充実した読了感を味わっていただけたらうれしいです。私や彼のことを知らない人にこそ読んでいただきたい一冊です。