“賞を獲るための作品”に懐疑的な理由「10年後に何か残るのかな?」
――本の中では「お笑いの大会で賞を獲る為に作品を生むのは間違っていると今でも思う」と書かれています。「長くなるので別の機会に」とあったので、ぜひこの機会にお考えを聞かせてください。
僕個人としては、「賞を獲るための作品」に懐疑的なんです。例えるなら、芥川賞を結果的に獲れた小説はすごく価値があると思うけど、芥川賞を取るために作られた小説は果たして価値はあるのか?…という話です。
僕ら世代の芸人は、面白いネタができたから「M-1」に出場して、決勝で自分たちが面白いと思うネタをやれたらそれで幸せでした。でも今は、あまりにも「M-1」用の漫才を作り過ぎる傾向があるように感じます。そういう若い芸人を見て、「この子たちの10年後に何か残るのかな?」と心配になってしまうんです。
マヂカルラブリーとかは良いと思うんですよ。優勝した2020年の「M-1」では大会用にアジャストしたはずですが、根本の「面白いことやりたい」という思いは変わらず、マヂラブにしかできない笑いをやっていたから見事だなと。だけど、最初から「M-1」に寄せちゃうと、芸人になりたての頃の「面白くなりたい」という気持ちを忘れてしまうんじゃないかと感じます。とはいえ、今は「M-1」で優勝することが夢でお笑いを始めている子たちもいるから、それはそれでいいんじゃないかなとも思います。
YouTuberの台頭に「僕も今若かったら芸人にはならず、YouTubeをやる」
――昔は「面白いことをやりたい」「人気者になりたい」と考える人たちのファーストチョイスは、芸能界及びお笑い界でしたが、今はネットから多くの人気者が誕生しています。面白くて才能のある若者が、YouTubeなどのネットの世界へ流れていくことについてはいかがでしょうか。
これも仕方のないことで、僕も今若かったとしたら芸人にはならず、YouTubeをやると思うんですよ。逆に、今の若手芸人の子たちがなぜこの道を選んだのか不思議です(笑)。大して自由もないし、お金もYouTuberのほうが稼げるし、芸人が売れるのなんて35歳から。なのに芸人をやる理由が僕にはわからないんですよね。
ただ一方で、僕らの若い頃の芸人は、今のYouTuberに近かった気もします。ダウンタウンさんが「お笑いっていうのはこんなにすごいんだ!」と散々自由にやっている姿に憧れていましたから。きっと、松本(人志)さんが今の時代の若者に転生したとしたら、芸人じゃなくて、YouTuberとして天下を獲るほうを選びそうですけどね。
――たしかにそうかもしれませんね。
こんな感じで、僕は「芸人愛」があるわけじゃないんです。たまたま自分の周りにいる人たちが芸人だっただけで、仮にYouTuberが周りに多かったら「こんなにすごいYouTuberがいるよ!」っていう本を書いてるかもしれません(笑)。
――最後に、もし徳井さんがMCを務めるバラエティ番組が新たに始まるとしたら、ひな壇には誰を選ぶのか、お聞かせください。
ひな壇では陣内(智則)さんがぶっちぎりですごいと思っているんですよ。「さんまのお笑い向上委員会」で、さんまさんがノリボケしている時に「ちゃうわ!」ってツッコむのは、陣内さんが一番早いし的確。さんまさんの話の流れを切るのって、超怖いんですよ。もしかしたら、その後に超面白いことを言うかも知れないし、「まだあったのに」と注意されるかもしれないですから。そんな恐怖がありつつもうまく立ち回れる陣内さんさえいれば、あとは正直、誰でもいいぐらいで。全員ボケで、裏回しは陣内さん一人いれば成立する。それぐらい抜けてる気がします。陣内さんに匹敵するのは、川島(明)さんだと思っています。川島さんもワードセンス、大喜利、品がある…全部すごいですから。
文=こじへい