コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、類さんの『がんばれ!コッペパンわに』をご紹介。気弱で不器用な“コッペパンわに”と、コッペパンわにが営むベーカリーにやってくるお客さんやベーカリーに関わる人々との話で、コッペパンわにの奮闘ぶりに応援したくなると評判だ。物語序盤では、近年話題の“カスタマーハラスメント”をする困った客が次々と登場し、コッペパンわにが苦労するエピソードが多かったが、ある話がきっかけで作品の方向性に変化が訪れたのだとか。類さんに制作の裏側を聞いた。
「がんばれ!」はコッペパンわににだけではなく、お客さんや読者にも向けたい言葉
愛猫をテーマにした『茶トラのやっちゃん』シリーズで知られている類さん。フィクション作品にも挑戦してみたいとのことで、生まれたのが『がんばれ!コッペパンわに』だ。
「最初はただの丸っこいワニとして描いていたのですが、愛着がわき、今後も一つのキャラクターとして描いていきたいと思ったので名前をつけることにしました。ぽってりとした輪郭がパンっぽいな、ということで名前に“コッペパン”を付け足すことに。パン屋の設定は彼の外見と名前から後付けで考えていきました」
そうして第1話「開店前なのに…」をTwitterに投稿したところ、9.1万いいねを獲得(2022年6月時点)。無理を言って押しかける客を断ることができずに酷い目に遭ってしまうコッペパンわにが不憫だと大きな話題を呼んだ。その後の話でも、口をつけたパンを返品するように迫る客、閉店時間にも関わらず入ろうとする客などさまざまな厄介な客が登場する。
「『がんばれ!』というタイトルにあるように、読者がコッペパンわにに共感し、応援したいと思ってもらえるストーリー作りを目指していました。そのため、コッペパンわにが大変な目に遭うお話をメインで描いていたのですが、『そっくりなお客さん』というエピソードを描いたことで自分の中で考えが変わりました。この話はダントツで反響があったように感じているのですが、お客さんのキャラクターが多忙なサラリーマンということで、共感する方が多かったのかなと思います。物語の中でコッペパンわにや、登場するお客さんが救われることで、読者の方々が自分のことのように喜んだり、涙したり…。物語に入り込んでくれる多くの方を見て、タイトルの『がんばれ!』はコッペパンわにだけではなく、登場するお客さんや読者にも向けたい言葉だと思うようになりました」
類さんが考えを変えるきっかけになったという「そっくりなお客さん」。コッペパンわにのパンを買いたいと何度も足を運ぶも、仕事の都合で購入できずに帰っていく客が登場。コッペパンわには彼のために、夜に屋台を出してあげる…という話だ。タイトルの「がんばれ!」という言葉がお客さんにも向けられているのがよくわかる。
コッペパンわにの成長に合わせて、人間キャラクターの表情に変化
気弱で、自己主張が苦手なコッペパンわに。しかし、物語を経て彼も徐々に成長していく。物語序盤では友人や、時にはお客さんに助けられていたコッペパンわにが、お客さんを救う立場になる話も多く描かれるように。類さんのお気に入りエピソード「テラス席を作ろう」でもコッペパンわにのさりげない優しさが印象的だ。
「コッペパンわにが“ふわふわ建設”にテラス席作りを依頼するのですが、頑固な親方はパンを食べてみたいけど部下の手前で強がっていて。コッペパンわにがお礼に差し出したパンケーキをニコニコしながら頬張る姿は反響も多かったです。周りの目を気にして“好き”が言えなかったりチャレンジできなかったりする方はたくさんいると思うので、そういった気持ちをコッペパンわにに救ってほしいなという気持ちで描きました」
コッペパンわにの成長は、人間キャラクターの描き方にも表れているという。
「物語序盤では、コッペパンわにはお店を持ったばかりの新米なので、慣れないお仕事や初めて見るお客さんに対して不安な気持ちを抱いていました。そのため、相手の人となりがわからない不安感を表現するため、普通のお客さんも含めて人間たちはキラキラとした瞳の“ピュアフェイス”で描いていました。物語を経て、コッペパンわには成長することができたので、最近のお話で登場するお客さんたちはピュアフェイスではなく、表情豊かに描写しています」
確かに「開店前なのに…」「レジミス地獄」といった物語序盤のエピソードを見ると、人間は判を押したように同じ顔をしている。対して、「テラス席を作ろう」では、気弱なコッペパンわになら“怖い”と感じるであろう頑固な親方もきちんと表情が描かれていて、それだけコッペパンわにが人と向き合えるようになったとわかる裏話だ。共感がキーポイントの作品とあって、ストーリー作りにも気を使っているのだそう。
「“誰かを一方的に批判しすぎないこと”を心がけています。共感してもらえるストーリーを描く上で、読んで傷ついたということは避けたいので、ある話で悪者だった人でも別の話で意外な一面が見られたり…という描写を最近は意識して描いていますね。『素直なきもち』に登場する課長さんがその例です」
最後に読者の人へメッセージをもらった。
「いつも『がんばれ!コッペパンわに』と読んでくださってありがとうございます!現在の本作品は“パン屋に関わるさまざまな業種”をテーマに描いています。どんなお仕事でも、いろいろな方の手を借りて成り立つもの。それはベーカリーわにも同じです。周りの助けに感謝し、時には助ける側になるコッペパンわにの成長を今後も楽しんでもらえたらうれしいです」
取材・文=西連寺くらら