兵頭てつ兄のインタビュー
――動画SNSのように映像がなく、声だけの世界で勝負するのはなかなか難しいかと思います。なぜClubhouseを選択したのですか?
偶然の偶然が結構重なってまして、まず一つは事務所に今入ってないんですよ。「事務所に絶対入りたい」という願望はないんですけど、そもそも芸人を始めたのが27・8歳ぐらいの時で、事務所に入ろうと思ったら、年齢制限が結構多かったんです。元々芸人を目指してる人生じゃなかったので、そんなに詳しくなかったんですよ(笑)。
「あれ、事務所入れないじゃん」ってなって、相方とも解散して、やっぱフリーでやるぞってなりながらも、相当難しい茨の道だとは重々分かっていたんで。「どうしようかな」って思ってた時にコロナ禍が始まって、外出れないし何もできないというタイミングになり…。家でじっとしている30代のフリーの芸人と、家にいる中で少なからず知名度なり認知度なりを上げる場、もしくは喋りの練習になる場っていう意味では『Clubhouse』っていうのはすごくいいなとなって。音声はすごい楽だな、ベッドの上で寝ながらできていいなと思いまして、始めたのがきっかけです。
――同期の世代の芸人はどなたがいるんですか?
今ちょうど4月で5年目になるので、唯一有名なのが「ラパルフェ」です。阿部寛さんや『トイ・ストーリー』のものまねでTikTokでだいぶバズってるんですけど、僕らの同期でトップの人ですね。
――兵頭さんはどんなお笑いスタイルですか?
よく言われるのが、インパルスの堤下さんとカンニングの竹山さんを足して2で割った感じです。毒だけだと今の時代厳しいんで、何か厳しいことを言うツッコミの中に愛を出していく技術が必要だなと思っているのですが、それもこの1年半ぐらいの間で、音声配信のおかげですごい練習ができているんですよ。芸人の練習する場って普通はやっぱり舞台なんですが、舞台って2時間ぐらいのライブで出番が2〜3分ぐらいなんですよ。でも音声配信では5時間しゃべれるんですよ、僕一人で。もう練習に最高の場です。
――手応えをつかんだきっかけは何ですか?
僕が何げなく作ったルームにちょこちょこっと7人くらい集まったんですよ。その7人ぐらい集まったメンツがすごいメンツだったんです。「なんでこんな人たちと出会えるの?これはすごいアプリだな」と思って、何か本格的にしたいなって芽生えたのはそこからだったんですよ。
いつか芸人でテレビに出た時にやっぱりMCもしたいっていう気持ちがあったので、自分がMCで何か企画を考えて自分で回そうって考えてました。その時に、「あ、声真似って一番わかりやすいな」と思ったんですよ。モノマネできる人集まれみたいな感じで、「声真似選手権」を作ったらものの30分ぐらいで2000人ぐらい集まって。多分たまたまなんですが、2000人ぐらいがバッと集まって、2時間ぐらい経ったら2500人ぐらい集まり、そこでフォロワーが一気に700ぐらい増えたんですよ。「あ、これはこの700人を無駄にしちゃダメだな、ここから適当にしたらもったいない。ここから毎日やったろう」と思って。そこからですね。
――ファン層・フォロワー層はどういった感じですか?
これが自分でもびっくりなんですけど老若男女いるんですよ。比率的には女性の方がちょっと多いです。もう単純に耳が暇で、僕の声と僕のトークがつまらなくなく聞けるっていうので、1年ぐらいずっと付き合ってくれてるんですよ。
――ファンの求めるものに気づいて、何か変えたことってありますか?
ちゃんとデータを取らないとぼく心配なんですよ。なんでこの人たちが来てるのかっていうのをわかった方が絶対得じゃないですか。ずっとMCの企画のルームだけやってた時は、すごいフォロワーも増えてて良かったんですけど、あるところから「兵頭は異常者」だっていう噂が耳に入ってきたんですよ(笑)。
それで何で?って聞いたら、ずっとハイテンションでずっとツッコミして回してるんで、あいつは普通じゃないっていう噂になって(笑)。「なるほど中身も見せないとダメなんだ。落ち着いてるところを見せないといけないんだ」っていうことに気づきました。それで、夜中に『兵頭の独り言』として「僕のことが好きな人だけがここで寝落ちをするルームです」って話して、ただ知らない人と一対一でゆっくり喋る感じのテンションを夜中11時ぐらいから朝の8時ぐらいまでずっとやってたんですよ、毎日(笑)。
元々ずっと“聴き専”だったファンの人に、僕が「ちょっとしゃべりましょう」と言ってスピーカーになってもらった時に、「なんで俺の配信こんな聴いてんの」って聞いてアンケートをとった結果が今の話です。
――『Clubhouse』を選んだ理由は?
やっぱり招待制ですね。僕の電波がビビってきたんですけど、まだそんなに広まってないタイミングで、僕のような地下の人間がウワーってはいあがったら面白いぞと思って、招待制というところにすごい好意を持ちました。1週間ぐらい招待余ってない?って聞きまくりましたね。
――今後も一人でやっていく予定ですか?
やっぱ漫才が好きなんで。今年のキングオブコントとM-1グランプリは、相方候補に「一緒に今年のは出ようか」っていう話をしてます。
――目標のために音声アプリで練習しているのですか?
練習もそうですし、やっぱり自分はフリーなんで、肩書きっていうのも絶対必要だと思ってます。「自分がどんだけ影響力があるか」という数字も必要だと重々分かっていますし、そういう部分をライバルが少ないところで培うっていうのが絶対賢いと思ってるので。
――テレビに出るのが最終目標とすると、その前段階の目標のようなものはありますか?
僕の考え的には、今『Clubhouse』と『Radiotalk』を主にやってるんですけど、やはりこの2つだけに頼ってもしんどいと思ってます。僕は、他のプラットフォームで名を上げたら、音声アプリ側にも人が流れてくるっていう考えなので、最近YouTubeを始めたんですよ。ホントに最近です、マジで最近(笑)。YouTubeは、野球、高校野球とドラマ考察という2つチャンネルを始めたんですよ。
――言える範囲で結構ですが、芸人の収入と比べ、音声アプリでの収入は何倍になりましたか?
いや、僕芸人の収入はゼロやから、何倍か言ったら全部ゼロになる(笑)。何倍といったらそうですね、40倍ですね。約1年で40倍になります。昨日も『Radiotalk』デイリーランキング1位でした、ありがたいことに。
――あまり芸人さんっぽくないと言いますか、マーケティングなどの面から調べるのが結構好きなんですか?
調べるのが好きというか、調べないと勝てないよねって思ってます。好きとかではないです。キリンビールで営業していて、そこで培った経験がでかいかもしれないですね。情報がないとダメでしょう。僕はツッコミなんですが、ツッコミはまともじゃないとダメだって思ってます。ボケは“バカ”でいいと思うんですけど、常識人でないとツッコミで訂正ができないんで。言っときますけど、僕も天然なところありますからね(笑)。
作家も女性の作家と組んでいるのですが、女性目線が自分には足りないと思ってお願いしました。自分がテレビのプロデューサーで、数字を気にする芸人さんと気にしない芸人さんがいたとしたら、僕だったら絶対数字を気にする芸人さんを使うんですよ。それを理解してる人を使ったほうが絶対に良いと思ってます。
――今年の目標はありますか?
まずはYouTubeを収益化することです。いきなりテレビっていうのは簡単ではないと思ってますので、きっかけがほしいです。YouTubeの収益化と、何かしらテレビに出たいのと、ラジオ番組を持ちたい。この3つです。
――芸人として世間の人たちに対する思いをお聞かせください。
僕が2回目の離婚をした時にすごい噂を立てられたんですよ。でも理由を知らずに悪く言ってる人間が多い。 実は1回目が死別で、2回目も相手の浮気が原因で。「2回離婚した人間ってだいぶヤバイよね」って噂が流れてむかつくじゃないですか。それはむかつくけど、ケンカするんじゃなくて、有名になって金持ちになることで見返してやろうと。あれだけ噂していた人たちが「兵頭すごいね」って言ってきたら、 もう全部無視したろと思っていて(笑)。これが目標なんです。「私も会社でいじめられてる」とか、 「嫌な思いをしている」と言う人たちに対して、結局自分が頑張れば覆せるよっていうところを証明したいです。
――音声アプリでの兵頭さんなりに思う向き不向きはありますか?
やっぱり虚言癖な人は向いてないです。これはリアルもSNSも一緒です。結局、ボロが出るんですよ。声だけのアプリなんで、本当のことを言ってる時の声と多分嘘付いてるなっていうの時の声とが、もう聴き専の人達からすると、浮き彫りになるらしくて。
会って話すときって、CIAとかよくやるんですけど、ここ(首元)に脈があるので、ここ(首元)をこう触りながら質問して聞いて、脈が速くなったら嘘をついているって分かるんですよ。でも、僕はそんなことしなくていいんですよ。もう声でわかるんですよ(笑)。
――改めて音声アプリの魅力はどこだと思いますか?
すごいメリットが多いアプリなんですよ。メリットとして言えるのは、距離感が近くなるのが早いんです。文字だけのメッセージだと、やりとりに時間がかかるし、相手がどういう人か分からないじゃないですか。でも、こっちはもういきなり“電話”なんですよ。だから早いっていうのがまず一つですかね。男女の出会いというメリットも一つあると思いますが、同じようにビジネス面での出会いも早いんですよ。僕はやっぱり、そういった面で音声アプリは、人と人との距離感が詰めるのが一番速いアプリだと思います。
――なるほど。
あと、めちゃくちゃ綺麗事言っていいですか、今から(笑)。僕だけの力じゃなくて、聴いてくれてる人たちがすごい協力的なんですよ。僕は毎日毎日お金にならないのに、『Clubhouse』で1日22時間、10カ月間ずっと配信してたんですよ。頭おかしいじゃないですか(笑)。電車乗ってる時もシャワー浴びてる時も風呂入ってる時もトイレ行ってる時も、ずっと配信やってたんですよ。22時間Clubhouse、1時間Twitter、1時間インスタ。だからびっくりしたんですよ、「寝てないやん!」と思って(笑)。
やっぱり応援してくれてる人を喜ばせたい気持ちが原動力なのは間違いないです。本当にピュアなんですよ!この話。ただ、僕が言うとすごく胡散臭く聞こえるんですが(笑)。