――読ませてもらいましたが、“いつだって父には敵わなかった”とか“ギターのFコードでつまずいた”とか、ミュージシャンということではなく、一個人として共感できる部分も多くて、「わかる、わかる」と思った箇所がたくさんありました。
あぁ、嬉しいですね。ミュージシャンとしての自分がいますが、今回の本は音楽を聴く人だけじゃなくて、もっと広く伝わるようにということを念頭に置きながら書いていました。さっきも言いましたけど、僕は天才ではないですし、ひとりでやれると思ったこともありません。音楽に限らず、誰かと一緒にやったり、誰かの力を借りてやったほうが楽しかったり、幸せだったりするんです。なので、読んでいただければ、何かしら通じるところがあると思っています。
――家族やメンバーのことも本書の中に登場しますが、もう読まれたんですかね?
つい先日渡しました。メンバーも親もまだ読んでいる途中だと思います。
――エッセイを書くと決まった時のメンバーの反応は?
「できるの!?」って感じでしたね。リリースやツアーの予定もパンパンでしたし、物理的に書く時間があるのかというのと、エッセイを書けるのかという、両方の意味で(笑)。僕も最初はそう思いました。なので、書く前に2つのプランを提案していただいたんです。一つはライターさんに話を聞いてもらって、それを文字に起こしていく。もう一つは自分自身で言葉を書き下ろしていく。「どっちがいいですか?」って。たぶん、メンバーも前者のイメージだったと思うんです。でも、いざ始まってみたら楽屋で僕がヒィヒィ言いながら書いているので「どうしたの?」って。「いや、全部自分で書くんだよね」「書くの!?」って驚いていました(笑)。2015年に活動休止した時から、“健康第一”をスローガンに掲げているので、「体調、気をつけてね」「ちゃんとごはん食べて」って気遣ってくれましたね。
――そういう話からもメンバーとの絆、関係性が感じられます。10周年イヤーという話も出ましたが、バンドを続けるモチベーションは何ですか?
人ですね。大き会場でライブをやりたいとか、CDを何万枚売りたいとか、そういう欲は全然ないんです。自分がお客さんとして観に行っていたイベントやフェスに出たいなというのはありますけど、それもやっぱりこのメンバーで行きたい、このメンバーで出たいという気持ちのほうが大きい。同じバンドのメンバーではありますけど、それぞれ実現させたい音楽の夢もあると思うので、それを実現させるのも僕の夢ですね。sumikaのメンバー間の関係性って独特だと思うんです。2015年に声が出なくなったタイミングで、「声が出なくてもバンドやろうよ」って言ってくれたんですよね。人間として必要としてくれているのが嬉しくて、極論を言うと、音楽が得意だったからバンドをやっているだけで、もし音楽が不得意だったら音楽以外のことを一緒にやっていたチームだったと思うんです。トラブルがあっても、そういうふうに必要としてくれましたし、大事にするしかないなって。
――本の話からは少し離れますが、普段、テレビはどういう時に観ますか?
ニュースとかスポーツ番組とかを観ることが多いですね。普段は帰宅するのが遅めの時間なので、スポーツの結果とかを確認したりとか。あと、朝は情報番組を観ますし、家にいる時にテレビをつける習慣はあると思います。これは正しい情報じゃないかもしれないんですけど、帰ってきて何の気もなしにテレビをつけてしまうのは、狩猟民族が帰ってきて火を起こして「ふぅ〜」ってひと息つくような原始的な習慣なんじゃないかなって思うんです。
――テレビ番組といえば、新曲「Glitter」がアニメ「カッコウの許嫁」のオープニングテーマに決まったり、これまでにもいろんなアニメやドラマの主題歌に起用されてきましたが、そういうタイアップのある時の曲作りって、普段とは違ったりしますか?
そうですね。ドラマにしてもアニメにしても、何か原作がある場合はそれを読み込んで、どっぷりとその世界観に浸かります。一回自分たちの個性みたいなものを捨て去って、その世界観の中で音楽を奏でるようにしています。それは2018年頃から、タイアップをいただける数が多くなってきた時にメンバーと話して決めたことです。一回自分たちの個性を捨ててから考えるというのもsumikaというバンドの個性なんじゃないかなって。僕たちが知らなかった音楽の世界に連れて行ってくれる感覚があるんです。
――Hey! Say! JUMPに「春玄鳥(はるつばめ)」を楽曲提供されましたが、そういう時は?
相手の世界に入り込むという点では、基本的にはタイアップの時と同じです。ただ、最終的に僕じゃない方が歌ったりするので、完全に自分を消したりしますね。他に、タイアップと違うところは「この歌詞は自分だったら歌えないけど、この方だったら歌えるかな」とか「この方だったらこのメロディーを歌えるんじゃないかな」とか、そういう想像を膨らませて作る楽しさもあります。まだ開拓途中ですけど、これは最近自分の中にできたチャンネルですね。めちゃくちゃ楽しいです。
発売日:6月23日
定価:2090円(税込)
版型:A5版/320P
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322111000858/
■片岡健太
神奈川県川崎市出身。荒井智之(Dr./Cho.)、黒田隼之介(Gt./Cho.)、小川貴之(Key./Cho.)とともに構成される4人組バンドsumikaのボーカル&ギターで、すべての楽曲の作詞を担当。キャッチーなメロディーと、人々に寄り添った歌詞が多くの共感を呼んでいる。これまで発売した3枚のフルアルバム「Familia」(17年)、「Chime」(19年)、「AMUSIC」(21年)はすべてオリコンチャート入り。ツアーでは日本武道館、横浜アリーナ、大阪城ホールなどの公演を完売させる、今最も目が離せないバンド。
Twitter:https://twitter.com/sumikaken
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