表現力の高さと子役時代から備わっていた存在感
伊藤は共演者、また自分がふんするキャラクターと呼応する表現力がうまいように思う。仲野とも自然な感情のやり取り、また仲野演じる諭に惹かれていく結の気持ちがやわらかくなっていく表情に現れていた。一人芝居でなければ、相手役との受け答えがあるが、伊藤は間合いのうまさもある。
例えば、池松壮亮と共演した2022年2月公開の映画「ちょっと思い出しただけ」。照明スタッフの照生(池松)とタクシードライバーの葉(伊藤)が別れたあとから物語がはじまり、照生の誕生日という1日を1年ごとにさかのぼって出会った日までの6年が描かれる。6年間の移り変わりが、1日の出来事で明かされていくのだが、池松と呼応しながらその移ろいをナチュラルに表現している。
伊藤がデビュー間もないころにいじめっ子役で出演した「女王の教室」(2005年、日本テレビ系)の撮影の際、主演の天海祐希から「カメラが自分に向いていないときでも注目されるようなシーンじゃなくても、必ずあなたは気を抜かずお芝居をしている」と言われたという。その当時から天性のものともいうべき、共演者の目も引く存在感を放っていたようだ。
各作品の世界観に溶け込む柔軟性とでもいうのか、その役を生きている感覚。特徴的なハスキーボイスも印象に残るが、それだけではない存在感がある。
連続テレビ小説「ひよっこ」(2017年、NHK総合)での米店の娘、須賀健太とダブル主演した映画「獣道」(2017年)での居場所がなくドロップアウトしていってしまう少女、「これは経費では落ちません!」(2019年、NHK総合)では天真爛漫なOL、主演映画「タイトル、拒絶」(2020年)では風俗店のスタッフと、実にさまざまな役をこなしている。
コメディエンヌとしても、シリアス、あるいは体当たり演技にも挑戦するふり幅の広さ。あの役もよかった、この役も印象的だったと、きっとまだまだ意見はあるだろう。それほどに、主演でも群像劇でも存在感が際立っている。
「拾われた男」では、これから諭とパートナーになる。同じように表現力に優れた仲野との化学反応で、どんな存在感という光を放ってくれるのか、楽しみだ。
◆文=ザテレビジョンドラマ部