コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回紹介するのは、漫画家・ブロガーの弓家キョウコさんによる『飼い猫の雨への追悼漫画』。同作は突然天国へと旅立った飼い猫「雨」への追悼のために、幻想的なお花見の情景を描いたもの。Twitterで公開したところ、2022年8月30日時点で6.2万件を超えるいいねを集めた。この記事では作者の弓家キョウコさんにインタビューし、作品を描いた背景や「雨」への思いを伺った。
愛猫「雨」との別れを、幻想的なお花見の情景で描く
川辺に咲きそろう桜の木の下で、まん丸の瞳がかわいらしい黒猫「雨」と作者の弓家さんが、焼きたてのお魚やホカホカのおにぎりをご飯に、のんびりとお花見を堪能。「今日は雨のために用意したんだよ」「ややっ、かたじけないですにゃ」といった、一人と一匹の会話がほっこりと描かれている。美味しそうにお魚を食べる雨を、ほほえみとともに見守る弓家さんの様子から、雨への深い愛情が感じ取れる…。そうした愛であふれた宴の席も、川向から一艘の小舟がやってきたことで終わりを迎える。舟に乗り込む雨と見送る弓家さん。「また会えるかなぁ」弓家さんの呼びかけに「雨がふればまたあえます」と答える雨。
岸から離れる舟と、涙を流しながら見送る弓家さんの様子が印象的に描かれる。雨は「またね。」という言葉を残して、宙を泳ぐウミガメや魚とともに、川向にある天を埋め尽くすほど大きな桜と鳥居に向かって去っていく…。
弓家さんと愛猫「雨」とのお花見が、美しい桜吹雪とともに幻想的に描かれた本作。やがて訪れる別れを知っていながら、大切な家族とのひと時を噛みしめる弓家さんの心情に、愛猫を亡くした経験のある人は思いを重ねてしまうだろう。Twitterでは「涙なしでは読めない」「素敵な投稿をありがとうございます」といったコメントが寄せられている。後日談『雨がいなくなって、その後のはなし』もぜひチェックしてみよう。
「やっと雨さんに対して『ありがとう』と言えた」漫画に込めた感謝の気持ち
――『飼い猫の雨への追悼漫画』を描こうと思った理由やきっかけについてお教えください。
突然の雨さんの死に耐えきれない思いがありました。「もっと早く症状に気づいていればこうならなかったのでは」という思いや、お家で看取ることができなかったので、「病院で息を引き取る時、寂しい思いのまま逝ってしまっていたらどうしよう」と考えたり、それらの後悔や懺悔の念にとらわれて、雨さんに対して感謝の気持ちを浮かべたり追懐することができなかったんです。それもとても申し訳なく感じて、葬儀後も眠りが浅い日が続きました。そんな時に、漫画の最後に登場する鳥居の光景が夢にでてきたので、そこから逆算するかたちでストーリーを考え漫画にしました。
夢を漫画に起こすことで、後悔や懺悔の念を噛み砕いて飲み込み、やっと雨さんに対して「ありがとう」と言えたと思います。
――なぜ、桜の木の下でお花見をする様子を描いたのでしょうか？ シチュエーションに込めた思いについてお教えください。
桜の季節に亡くなったので、自然と登場させていました。また夢の中でも鳥居と桜の大木がでてきたので、そのままの映像を漫画に起こしました。
雨さんがなくなる最後の1週間、ほぼ毎日面会に行っていたのですが、病院からの帰り道に桜の並木道を通っていたので、その印象もあると思いますし、桜が散る様はどこか悲しくなりますが、来年もまた桜は咲いて、季節は巡っていく…。
「雨がふればまたあえます」というセリフには、雨が地に降り海に流れまた空へと循環していくところに、輪廻転生の思いを込めているのですが、桜がまた来年咲くという季節の巡りにも、この思いをこっそり載せて描いたと思います。
――雨ちゃんとの出会いのエピソードや、一緒に暮らしていたなかで特に印象に残っている思い出についてお教えください。
雨とは、嵐の夜に出逢いました。たまたまご縁があってご近所さんと保護猫活動をしているのですが、その活動の延長で出会いました。生後0日でうちにきたので、私の手のひらよりも小さく、雨に濡れていましたがとても温かかったのを覚えています。猫も赤ちゃんの時は夜間授乳をしなければなりませんので、2〜3時間おきにタイマーをかけてミルクをあげました。小さい命は簡単に消えてしまうような気がして、とにかく赤ちゃんの時はお世話に気をつけていました。
雨さんとの思い出に残っているエピソードは、雨さんが持病を発症してから、よく私と寝室で一緒に休んでいたことです。雨さんの持病は脳に原因があり、それは気圧に左右されるものと獣医師から説明をされまして、私もまた幼い頃から重度の気管支喘息で気圧にかなり左右されてしまいます。体の調子が良くなくなるタイミングが似ていて、調子の良くない時はふたりで一緒に休みました。
気管支喘息の発作が起きているときはうまく息ができなくて、いつも一人で心細い思いをしていたのですが、隣に雨さんがいてくれることを心強く感じていました。雨さんもまた、そうだったらいいなと思っています。
――『飼い猫の雨への追悼漫画』を公開された後の読者の声・反響はどうでしたか？
とても反響が大きく、ペットさんを亡くされた方、また現在ペットさんと暮らしている方から多くのコメントやメールを頂きました。
「一緒に過ごせている今この時間を大切にしたい」という声でしたり、亡くされたペットさんのことをを思い出すと前述の私のように「もっと早く症状に気づけていれば」と後悔してしまっていたけれど、自分もこうして「ありがとう」と伝えたいと言ってくださる方が多くいらっしゃいました。とてもうれしかったです。
またこの漫画がきっかけで連載の打診もいただきまして、「雨さんが繋いでくれたのかな…？」と実は思っています。
―― (本作に限らず)漫画を描くうえで、こだわっている部分があればお教えください。
また、猫以外にも、ご主人や息子さんとの日々を漫画にされていますが、こちらについてもぜひ見どころをお聞かせください。
こだわっているところは、伝えたいことを明確にしたうえで、モノローグに頼らないことです。例えば「切ない」という気持ちをモノローグに書けば「伝わり」はしますが、「心を動かす」ことまではできないんじゃないかと思っています。どんなアングルで、どんな視点で、どんな場面を切り取れば心を動かすことができるのか、それを常に考えて描いています。
夫と息子のエピソードについての見どころは、うちは常識や既成の概念にとらわれずそれぞれが心地いい家族関係を日々ゆるっと模索していたりするので、ほっこりエピソードの中で、もしそういったところが垣間見えたら、「こういう家族もいるんだな」と心が楽になるような人がいればいいなと思っています。
――今後の展望や目標をお教えください。
今後は創作もエッセイも縦スクロール漫画も見開きもBLも描けるマルチな作家になっていければいいなと思っています。まだまだ未熟者ですが、この仕事を骨の髄まで楽しみ尽くしたいです。
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