コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットな漫画情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、「美容×おばあちゃん×百合」という話題作、schwinn先生の「はなものがたり」(コミックフラッパー)をご紹介。長年連れ添った夫と死別した主人公のはな代は、ある日独り身で化粧品専門店を営む芳子と出会う。芳子から手ほどきを受けることで美容の楽しさを知り、遠い昔に諦めていたものを取り戻していくはな代の姿と、やがて互いを知り惹かれ合う2人の関係性には、SNSでも「尊い」「キュンとした」「背中を押される」といった声が集まっている。執筆秘話を作者・schwinn先生に聞いた。
「はなものがたり」以前はボーイズラブ作品を中心に活動していたschwinn先生。女性を主人公にした物語を描いてみたいという思いは長年あったが、なかなか踏み切れずにいたという。
「女性を描くときに描かなくてはならないことが多すぎて、私の未熟な手に余ると思っていました。これは決してほかの題材の方が簡単だということではなく、あくまで私にとって、ということです。まず女性はライフステージによって多種多様な選択をしなければならず、それによって個人の体験がものすごく違ってくる。ということは、様々なフィクション・ノンフィクションが扱っていますので、おそらくひとつの否定しがたい事実として存在するのだと思います。私自身が体験できることには限りがあるため、女性が複数人出てきたら扱いきれなくなるのではないか。
それから、私自身が女性であるということ。同じ女性の物語を描くとなると、それだけ作品に没入してしまって、私自身の過去のいやな思い出とか、とらわれていることなどに、いやがおうにも触れざるを得なくなる。創作者として胆力が足りないのかもしれませんが、作品と適切な距離が保てなくなるという実感がありました。ひらたく言うと、描いてるうちにイヤなこと思い出しちゃって描くのをやめちゃう」
そんなschwinn先生を動かしたきっかけは、ある無差別刺傷事件だった。
「電車の中で『幸せそうな女性を見ると殺してやりたいと思うようになった』という犯人による事件があり、ものすごく悲しい気持ちになりました。私が漫画を描く動機は、自分が読みたい物語を描きたい、ということが多いので、『あ、幸せな女性の物語が読みたいな』と強く思いました。
ちょうどそのときにTwitterで、大阪・文の里商店街の化粧品店(ビューティーショップ ドリアン)のポスターがバズっていたんです。シンプルなつくりで、その化粧品店のお客さんの高齢女性たちが自分の好きなお化粧をして楽しそうにしている、そこに関西弁のコピーが添えられている、というもの。すごくいいな、と元気をもらいました。同時期に、やはりSNSだったかと思うのですが、『○○歳以上の女性がこんなメイクをするのはみっともない』というようなメイクのプロの方の意見が批判と共に流れてきました。うーん、そんなことないよなあ、と思いました。
私はもうすぐ40歳になりますので、これから漫画を描いていくのに、どうしても20代の人よりはのこせる作品数が少ないわけです。うだうだ思い悩んでいないで、女性の物語をとにかく描いてみよう、と思いました。百合も、憧れつつも諦めていたもののひとつでした。有識者の方からこんなのは違う、お前は分かっていない、とお叱りをうけるかなとも一瞬思ったのですが、まあそれでもいいや、せっかく漫画を描き始めたのだから、思いついたことは1つでも多くやってみよう、なかば開き直れるようになったのは、アラフォーまで歳を重ねてきた強みかなあ、とのんきに考えて描き始めました」
こうしてTwtterに投稿された「はなものがたり」の1話原型「美容にめざめるおばあちゃんの百合漫画」は2.8万リツイート、9.7万いいねの大反響を集めた。担当編集の入倉さんも共感したひとりだ。
「Schwinnさんがこの作品を投稿されてすぐ、仕事とは関係ない友人たちをフォローしているTwitterのタイムラインにツイートが流れてきたんです。私も偶然ですがschwinnさんと同世代で、同い年くらいの女性の友人たちがみんな感動してリツイートしていたのが印象的でした。すぐにDMでご連絡し、何かしらの形ではな代さんたちのお話の続きが読みたい!商業化してコミックスにまとめられないか、とご相談しました」(入倉さん)
作者としても、反響の大きさは予想外だったという。
「1話目はあんなに読まれることになるとは思わず、とても驚きました、読んだ方のナマの感想を知ることができて、SNSをやっていて良かったなあと思ったものでした。どの感想もうれしいものばかりでしたが、実際に化粧品屋さんを営む方が『街の化粧品店がとりあげられて嬉しい!』とおっしゃっていたり、また連載が始まった後、はな代さんのように孫のいる方が『孫の漫画を買うそぶりで連載誌を買いました』とつぶやいてくださっていたのはうれしかったですね」
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