たとえば岐阜県郡上市の「不夜城」は、雪が残る山あいの集落にあった。明かりがついた小屋のなかには男性が3人いて、ストーブを囲みながら「外の気温が下がるのを待っている」という。
小屋のそばにあるのは、手作りのスケートリンク。子どもたちの遊び場として40年前に作られ、以来、冬場は地域の大人たちが当番制でリンクの補修作業を毎晩しているそう。気温が-3℃を下回らないと、ホースでまいた水がうまく凍らないため、小屋で待機していたのだった。
話はここで終わらない。大人たちによると、あさって小学校のスケート発表会があるという。
人口約150人の集落にある唯一の小学校は、全校生徒4人。翌日プジョルジョDが話を聞きに行くと、来年度には閉校が決まっていて、これが最後のスケート発表会になるとのこと……!
その夜、無事に気温は下がり、「少しでも良いリンクで滑らせてやりたい」と極寒の深夜に補修作業は進む。翌朝、予定通りスケート発表会は開かれ、地域の大人たちが大勢見守るなか、4人の小学生は嵐「カイト」に乗せて最後の演技を見せてくれた。40年回り続けた不夜城は、役目を終えたのだ。
埼玉県本庄市の「不夜城」は、ベトナム人の僧侶が継いだお寺。そこは行き場を失った技能実習生を受け入れ、寝泊まりする部屋と食事を提供しながら、社会復帰を支援する場所だった。僧侶は「彼らに日本を好きになってほしい」と、常に明るく奔走する。
長野県茅野市で遭遇した「不夜城」は寒天工場。冬場の3ヶ月間だけ、泊まり込みで作業をする人が全国各地からやってくる。報酬は高いが睡眠時間は3時間半。それでも、家族や仲間の存在が働く原動力だという。
普通、深夜に知らない人が訪ねてきたら警戒するし、「不夜城」の人々も最初は怖がる。本来なら、大幅なマイナスからのスタートだ。だがプジョルジョDは、小柄な身体と朴訥なしゃべり、そして人懐っこい笑顔でするりと懐に入り、「深夜に何をしているのか」から「この人たちを動かすものは何か」まで引き出してしまう。こんなこと、プジョルジョDにしかできないんじゃないか。