リコの憧れは止まらない
成れ果て村の住人は、みな冒険という憧れを抱いてアビスに挑み、夢敗れた者たちだ。朽ちることのない永遠の揺かごの中で暮らし続けることが幸せだったのか、解放されることが幸せだったのかは分からない。ただ、成れ果て村はリコにとっては憧れをさらに膨らませる場所になったのは間違いない。
「ここに来れて良かったかい?」というワズキャンの問いに、躊躇なく「めちゃくちゃ!!来て良かった!!」と答えたリコ。大人の探窟家でも恐れる絶界もリコにとっては憧れの地であり、素敵なヒトたちとの出会いのある場所だった。レグとの出会いから始めたアビスへの冒険にはナナチが加わり、オーゼン、マルルクと出会い、プルシュカは白笛となって魂は共にある。アビスで体験する全てが、ワズキャンが視ていた“ヒトをヒト以上たらしめる”もの。奈落に挑むための積み重ねだ。
リコには抑えられない好奇心や止められない憧れのあまり、ボンドルドやワズキャンに寄った危うさがあると見られている。作中の言葉を借りれば、「度し難い」というやつだ。しかし、ファプタがプルシュカの声を聴いて告げた「出会った者たちを大事にしたい」というのがリコの役目なのであれば、きっと真っすぐに全ての積み重ねを受け入れながら足を進めていくのだろう。
気になるのは今後の展開だが、原作コミックス11巻には成れ果て村を後にしたリコたちの新たな冒険が描かれている。1つだけネタバレをすると、今回ファプタがプルシュカの声を聴いたことにも関連する、“魂”の存在に触れる記述がある。ファプタはリコについて、「こいつの魂はどこから来た?」と訝しがっており、次の重要テーマになりそうな予感もある。レグの失われた記憶や母ライザの安否など、呪いの大穴アビスの謎はまだまだ深いところにあるようだ。
■文/鈴木康道