お笑い芸人の劇団ひとりがこのほど、前作「青天の霹靂」から12年ぶりとなる書き下ろし小説「浅草ルンタッタ」(幻冬舎)を出版した。ひとりは、浅草の老舗劇場で目にした大正時代の香盤表から「浅草オペラ」という言葉を知り、「色々な物語が思い浮かびそうな気がした」と着想のきっかけを明かす。今回の小説は、21年12月にNetflixで配信された「浅草キッド」に続く“浅草もの”。なぜこの街に惹かれるのか、ひとりはその理由を「人情」と答え、「人情の匂いこそ、僕が浅草に魅了されている一番のポイントだと思う」と話した。また、小説家として「純粋に物語に向き合っている」とする一方、お笑い芸人としては「本業だから色々考えなきゃならない」と説いていた。
新作執筆のきっかけは“大正時代の香盤表”「物語が思い浮かびそうな気がした」
――久々の執筆となった小説「浅草ルンタッタ」ですが、テーマとして「浅草オペラ」を選んだのはどんな思いからでしょうか。
以前、ロケハンで浅草の「木馬亭」という寄席などを上演している劇場にお邪魔する機会があって。そこのロビーにあった大正時代の香盤表で、「浅草オペラ」というワードを初めて見つけたんです。その言葉が僕の中ですごく印象的で、なんだか色々な物語が思い浮かびそうな気がしたんですよね。まあ、そう簡単には思い浮かばなかったんですけど(笑)。
――小説家としてのデビュー作「陰日向に咲く」や、前作「青天の霹靂」はいずれも現代劇で、登場人物にはどこか“ひとりさんの匂い”のようなものを感じました。しかし今作は舞台が大正時代で、登場する人々はひとりさんとは切り離されたキャラクターであるように思いました。これまでと趣の異なる小説を執筆するにあたって、苦労はありましたか。
今までの小説は一人称で、その主人公だけを掘り下げていけば良かったのですが、今回は三人称。様々な登場人物が登場し、それぞれのキャラクターを掘り下げなければいけなかったので、確かに今までの作業とはちょっと性質が異なり、難しかった部分もあります。
浅草に魅了される理由は“人情”、新作も「いつか映像化したい」
――ひとりさんといえば、2021年12月にNetflixで配信された「浅草キッド」が大きな話題を呼びました。今回の小説の舞台も浅草となっているわけですが、ひとりさんは浅草という街のどんなところに惹かれているのでしょうか。
一言で言えば、“人情”ですかね。そもそも僕がお笑い始めたのだって、たけしさんの「浅草キッド」を読んで芸人の世界に憧れを持ったからなわけで。じゃあ、「浅草キッド」のどこに惹かれたのかと考えると、やっぱり“人情”ということになるんですよ。人情の匂いこそ、僕が浅草に魅了されている一番のポイントなんだと思います。
――「浅草ルンタッタ」では少女・お雪が浅草オペラに、「浅草キッド」では“たけし”がお笑い芸人に、それぞれ憧れを抱き奮闘する姿が描かれていますが、そういった“芸の道に生きる若者”を描くことに魅力を感じているのでしょうか。
結果的にそうなったという感じです。意識的ではなく、気が付くとそういう人物を描いているというのが正しいかもしれません。浅草の劇場や舞台小屋で踏ん張っている人たちに、僕は魅力を感じているのでしょうね。
――「陰日向に咲く」「青天の霹靂」はいずれも映画化されていて、「青天の霹靂」では脚本も務められています。「浅草ルンタッタ」も実写化を視野に入れていますか。
そうですね。自分が思い描いた世界や登場人物を実写にして見てみたいという欲求はどうしたって自然と湧いてきますし、いつか映像化したいという想いはあります。
