松重豊が主演を務めるグルメドラマ「孤独のグルメseason10」(毎週金曜深夜0:12-、テレビ東京系)が10月7日より放送開始となる。それを記念し、松重の過去出演作がTVerにて無料配信中だ。名バイプレイヤーとして日本の映像界を長年支え、近年は主役としても大いに活躍する松重の魅力を考察する。
名バイプレイヤーたる所以がそこに
「孤独のグルメ」は、久住昌之が原作・原案、谷口ジローが作画を担当した同名漫画が原作。輸入雑貨商を営む主人公・井之頭五郎(松重豊)が仕事の合間に見つけた飲食店に立ち寄り、ただひたすらひとり飯を楽しむ姿が映し出される“元祖飯テロドラマ”だ。
中年のサラリーマンが絶滅してしまいそうな絶品を求めて旅をする「絶メシロード」や、結婚式の当日に花婿に逃げられたアラサー女子が食べることで辛い記憶を忘れる「忘却のサチコ」、同性カップルの日常と食卓を描いた「きのう何食べた？」など、数多くの飯テロドラマを輩出してきたテレビ東京だが、その人気に火を点けたのが「孤独のグルメ」だったといえよう。そして、同時に松重豊という名優の存在を世に知らしめた作品でもある。
物語はいつも「腹が減った」という五郎の台詞から始まる。ひと仕事終えて空っぽの胃を満たすため、五郎が立ち寄るのはチェーン店でもなければ高級店でもない。その街に根付き、地元の人から愛されている個人営業のお店がほとんど。ドラマに登場するお店はすべて実在しているため、視聴者による聖地巡礼も盛んだ。
見ている人が五郎が食べているグルメに会いたくなる理由。それは原作の五郎よりもさらにスマートな松重が、本当においしそうに料理を平らげていくから。大げさなリアクションを取るのではなく、幸福に満ち足りた表情と、心の底から湧き出るモノローグによる感想が料理のおいしさを物語っている。
聞くところによれば、元々少食な松重は撮影前日からかなり食事量を調整しているらしい。最大限に料理のおいしさを味わえる空腹の状態で撮影に挑み、自分自身のナチュラルなリアクションを引き出しているのだ。
シリーズ10作目の放送にあたり、松重は「ウチは最初から『意気込み』なんてものが皆無なので続いたんじゃないでしょうか」とコメントを発表している。10年も続いた人気シリーズの主演でありながら、自然体であくまでも料理が主役。松重の謙虚で自然体、だけど食に対しては真摯な姿勢がドラマを成功に導いたのではないだろうか。
強面のイメージを覆した「バイプレイヤーズ」
主役の魅力を引き立てながら、成熟した演技で物語に深みを与える。そんな名脇役たちをリスペクトを込めて“バイプレイヤーズ”と呼び、焦点を当てたのがドラマ「バイプレイヤーズ」シリーズ（テレビ東京系）だ。本作は遠藤憲一、大杉漣、田口トモロヲ、寺島進、松重豊、光石研という“日本映画界を支える俳優6人”が本人役で登場する異色のドラマで、第1弾「バイプレイヤーズ〜もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら〜」が2017年1月にスタート。果たしてこれはドラマなのか、それともドキュメンタリーなのか判断のつかないリアリティ溢れる展開で、彼らの役者としての持ち味や矜持を映し出した。
作中でも語られているが、第1弾はいわゆる「中年のテラスハウス」。映画「七人の侍」のリメイク版の主要キャストとして集められた6人は、クランクインまでの期間、絆を深めるための共同生活を強いられることとなる。その中で6人はささいなことで揉めたり、くだらないことで笑いあったり……。
これが普通のおじさんたちなら、いったい誰得なのかと思われるかもしれないが、彼らは言わずと知れた名バイプレイヤーたち。しかも、Vシネマや任侠映画を下地としてキャリアを積み上げてきた強面の、ともすれば近寄りがたくもあるおじさんたちだ。そんな彼らが本作では女子高生のようにわちゃわちゃと楽しんでいる、まるで捨て猫を拾う不良のようなギャップが視聴者の心を射止めた。
松重といえば、最近ではテロ防止を呼びかける警視庁のポスターにも登場。そこには「テロを、ゼロへ。」という文言とともに、まっすぐ前を見据える表情が映し出されている。その目力の強さたるや、テロを絶対に許さんという姿勢を示すにこれ以上なくふさわしい。また180cmを超える身長も相まって、存在自体に迫力があり、過去には犯人を執拗に追い詰める刑事や裏社会の人間など、凶暴さを秘めた役柄も多数演じてきた。そんな松重だが、バイプレイヤーズの6人の中では年下ながら、最も常識人で家事もテキパキとこなし、個性豊かな先輩たちを支えるキャラクターとなっている。
