テレビ大好きイラストレーター・渡辺裕子さんが、お気に入りの番組をかわいいイラストで紹介する連載「いつもテレビをみています」。第6回はドラマ「silent」(毎週木曜夜10:00-10:54、フジテレビ系)をチョイス。
失恋を丁寧にリアルに描く残酷さ
恋人同士が、いろいろあって別れて、数年後に偶然再会して、また恋をする。こうして書くとシンプルで、何度もドラマや映画になってきたようなありきたりな話に思えるのに、ドラマ「silent」は今まで見てきたどのラブストーリーとも違う。そしてありがちな、「ああ、キュンキュンするー!主人公の紬(川口春奈)と想(目黒蓮)がくっついて、幸せになるといいなー!」みたいな気持ちにもならない。「誰かと誰かが両思いになったら、その分だけあらたな片想いと失恋が生まれるんだよ?」と、テレビ画面の向こうから思い知らせてくる、とても残酷な物語だから。
主人公ふたりが再び惹かれあっていくのと同時進行で、彼らに恋をしていた湊斗(鈴鹿央士)と奈々(夏帆)が失恋していく過程が、これ以上ないほど丁寧に描かれているのがリアルすぎて、見ているうちに自分がいっしょに恋を失っているような気分になって、毎週泣いてしまいます。別れた彼女が家にヘアアクセサリーを置き忘れ、もういらないから捨ててと言う。でもその百均の安物さえ、ふたりにとってとても大切だった時間が確かにあったのに……ああこの辛い気持ちは私も知っている、あのうれしさを味わったことがある。これは私の物語だ……あんなにすてきな恋をした覚えはないんですが、それでも私の話に感じてしまうリアルさ。
登場人物それぞれが主人公「silent」
そんなふうに、失恋していく湊斗と奈々に感情移入してしまってはいるけれど、だからといって、主人公たちを嫌いなわけでもない。紬のまっすぐさに憧れるし、悩みながら進む想もずっと見守っていきたい。誰かわかりやすい悪人がいたら恨んでスッキリできるのに、誰も悪くなくて、気持ちのぶつける先がない。こういう話でだいたい嫌なやつに設定される立場、主人公の恋人(だった)湊斗が誰よりも優しくていい人なのが、何よりつらい。
そうですよね、主人公の幸せの陰で失恋する人たちだって、それぞれの人生では主人公のはずなのに、私たちはなぜかそれを忘れている。時には失恋した同士がくっつけばテトリスでブロックをはめこむみたいにスッキリ解決していいんじゃない、くらいに思っていた。なんと失礼な。それぞれが自分たちの「違い」を自覚して傷つきながら、それでもわかりあいたいと対話を重ねていく「silent」。物語のラストがどうなるのか、全然予想がつかないけれど、ドラマとしては終わっても、彼らそれぞれがずっと“主人公”として、私の中で生き続けてしまいそうな気がしています。
■イラスト・文/渡辺裕子