門脇麦が主演を務めるドラマ「リバーサルオーケストラ」(毎週水曜夜10:00-、日本テレビ系)が2023年1月11日(水)よりスタートする。本作で民放ゴールデン・プライム帯ドラマ初主演となる門脇の多彩な役どころを振り返る。
台詞のない、無音の演技が光る
そこに佇んでいるだけで、物語が生まれる。門脇麦はそんな役者だ。
今年で芸歴11年。清純派な見た目とは対照的に、デビュー当初から過激な演技にも挑戦し、いまや数々の映画やドラマに引っ張りだこの門脇麦だが、意外にも元々は俳優を目指していたわけではなかった。
幼少期からバレエを習い、プロを目指していたという門脇。10年ほどバレエ教室で毎日特訓する生活を送っていたが、中学校2年生の頃に「自分はプロになれない」と確信し、夢を断念したことをラジオ「高田文夫のラジオビバリー昼ズ」(ニッポン放送)に出演した際に語っていた。その後、まもなく同じ表現の仕事である役者を志し、高校卒業後に芸能界入り。2011年のドラマ「美咲ナンバーワン!!」(日本テレビ系)でデビューを果たした。
デビューから数年は等身大な学生の役が多かったが、2014年の映画「愛の渦」で、門脇は強い覚悟を持ってある役に挑む。同作は、高級マンションの一室で営まれる乱交パーティを描いたもの。門脇が演じたのは、純朴そうに見えて、誰よりも強い性欲を抱えた女子大生だ。大胆な濡れ場にも体当たりで臨み、一気に注目を浴びる。同年に出演した映画「闇金ウシジマくん Part2」や「シャンティ デイズ 365日、幸せな呼吸」での演技も高く評価され、多数の映画賞で新人賞を総なめした。以降も、目的もなく知らない人を尾行する大学院生(映画「二重生活」、2016年)や、実在したピンク映画の助監督(映画「止められるか、俺たちを」、2018年)など、尖った役柄のオファーが相次ぐように。
門脇は内に何かを秘めた無音の演技が上手く、ふとした仕草や表情でその“何か”を言葉以上に語る。セリフがない中、踊りと表情のみでさまざまな役を演じるバレエダンサーとしての経験も活きているのではないだろうか。自然と門脇が演じる役のことを知りたくなり、いつの間にかその魅力に翻弄されてしまう。新進気鋭の監督からベテランの監督までが、難しい役柄を彼女に委ねたくなる理由も分かる。
“王道ではないヒロイン”像を体現
近年はドラマでの活躍も目覚ましい門脇。ミステリアスな雰囲気はそのままに、お茶の間に刺激を与えている。
2016年4月期のドラマ「お迎えデス。」(日本テレビ系)では事故で亡くなり、幽霊になってしまった女性・千里を演じた。生前から霊が見える主人公の円(福士蒼汰)に想いを寄せており、幽霊の未練を解決して成仏させるバイトを通じ、ヒロインの幸(土屋太鳳)と心を通わせていく円をそばで見守る、ちょっと切ない役どころだ。幽霊という非現実的な設定でありながら、門脇が表現する恋心を伝えたくても伝えられないもどかしさは誰もが共感できるものであった。
2018年1月期のドラマ「トドメの接吻」(日本テレビ系)では、主演の山崎賢人演じるホストの旺太郎を“キスで殺す”異色のヒロイン、“サイコ”こと佐藤宰子を演じた門脇。またもや一筋縄ではいかない役柄ではあったが、愛らしい門脇の演技に心奪われる人が続出。また、最初こそ嫌悪していた旺太郎に惹かれ、彼には他に思い人がいることを知っていてもなお、懸命に力になろうとするサイコの健気さにも心を打たれた。
こうした王道からやや外れた変わり種のヒロインを演じさせたら、門脇の右に出るものはいないのではないだろうか。2022年10月クールのドラマ「親愛なる僕へ殺意をこめて」(フジテレビ系)でも、山田涼介演じる主人公の恋人・京花役でヒロイン的役割を担ったが、最初こそ一途な可愛らしい彼女かと思いきや、殺人鬼に憧れていることが中盤で明らかに。その狂気に満ちた演技で視聴者を震撼させた。同局で放送された「ミステリと言う勿れ」でも解離性同一性障害という難しい役を見事にものにし、原作ファンをも唸らせたのも記憶に新しい。
初主演でどんな爪痕を残すのか
次はどんな役を演じてくれるのか、楽しみな俳優・門脇麦。彼女が次に挑むのは、幼い頃から数々のコンクールを総なめにしてきた“元”天才ヴァイオリニストだが、とある理由で表舞台を退いた市役所職員の主人公・谷岡初音だ。夢を諦め、違う道に……という点で、本人とも共通するところがある。
しかし、初音の場合は田中圭演じる変人マエストロ・常葉朝陽にスカウトされ、再び音楽の道へ。コンサートマスターとして、地元のポンコツオーケストラ・児玉交響楽団を率いていく。今作で民放ゴールデン・プライム帯初主演を飾る門脇はどんな爪痕を残すのだろうか。動画配信サービス「Tver」では、門脇の過去出演ドラマが配信中だ。この機会にぜひその七変化ぶりを堪能いただきたい。
■文／苫とり子
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