セカオワ、ミセス、ウタ…バンドもキャラも”踊って”ブームを作った2022年、レコード大賞優秀作品賞に見るバズダンスMVの重要性

2022/12/30 12:00 配信

音楽 コラム

2022年レコード大賞優秀作品賞を受賞した、SEKAI NO OWARI「Habit」とMrs.GREEN APPLE「ダンスホール」

「第64回 輝く!日本レコード大賞」(12月30日金曜17:30-22:00、TBS系)の各賞が、11月16日に発表された。優秀作品賞を受賞した楽曲のうち、NiziU「CLAP CLAP」、Ado「新時代(ウタ from ONE PIECE FILM RED)」、Da-iCE「スターマイン」、Mrs. GREEN APPLE「ダンスホール」、BE:FIRST「Bye-Good-Bye」、SEKAI NO OWARI「Habit」は、ダンス付きのMVをアップしている。中でも今年は、アイドルやダンスパフォーマンスグループだけではなく、バンドやキャラクターが踊った曲に人気が出た。ダンスをメインに活動しないアーティストの踊りが“バズった”理由、そして、これからの時代にどんなダンスが人気となっていくのかを考えてみたい。

「Make you Happy」の振り付けが社会現象を巻き起こしたNiziU※ザテレビジョン撮影

バンドが踊ってバズった楽曲が2022年優秀作品賞に


今年のレコード大賞優秀作品賞の一つの傾向として、バンドがダンスを踊った曲があることが挙げられる。SEKAI NO OWARI「Habit」は、中毒性のある奇妙なダンスがSNSを中心に流行し、YouTubeチャンネル「HikakinTV」でYouTuberのヒカキンとコラボダンスを踊った動画は再生回数1751万回を記録。この楽曲の決めポーズは、MVを監督した池田大とバンドメンバーのSaoriの息子が考案したもの。Saoriは自身のInstagramで、「どうせHabitは売れないからふざけようぜ、と言って本気でふざけたMV」と語っている。そんな楽曲がバンド史上最速でYouTubeの再生回数1億回を達成し、邦楽バンド史上最速記録を達成した。このSNSでの“バズり”をフックに、「ベストヒットアーティスト2022」(12月3日放送、日本テレビ系)など、テレビ番組でも度々紹介された。

Mrs. GREEN APPLEの「ダンスホール」も、ダンスMV楽曲として今年話題になった。Mrs. GREEN APPLEは1年8カ月の休止期間を経て2022年3月に活動を再開。「めざまし8」(フジテレビ系)のテーマ曲に起用されたこの曲は、MVでメンバー自らキレのあるダンスを披露した。勇気づけられる歌詞ときらびやかな世界観が人気を集め、ストリーミングでは自身最速の1億回再生を突破した曲となった。Mrs. GREEN APPLEは7月29日からTikTokの「#夏の歌うま」チャレンジのアンバサダーに就任し、優秀投稿者はメンバーの前でパフォーマンスができるという「#ミセスグリーンアップル賞」を企画。「ダンスホール」はYouTubeでも踊ってみた動画が多く投稿されるなど、SNSを中心に大きな話題を呼んだ。華やかなビジュアルと、まるでダンスパフォーマンスグループのようなMVで活動を再開した彼らだが、そこには新しいスタートにふさわしい、確かな狙いがあった。7月9日放送の「めざまし8」で、ボーカルの大森元貴は「バンドっていうものなんだけどそこの枠組みだけではなくて、自由なエンターテイメント」を目指したと語っていた。

“バンド”の枠を打ち破り、ダンスや印象に残るMVも使って人々を楽しませた曲が、今年を代表する楽曲として選ばれたのだ。

“バズりダンス”のカギは「上半身中心」「踊りやすさ」


では、一口にダンスといってもどういったダンスが人気になるのだろうか。近年ではSNSでダンス動画が投稿され、その視聴者からバズって人気になる傾向がある。SNSで動画を撮影・投稿するとき、一番に目が行くのは上半身の動きだ。特にTikTokでは、スマホ縦型撮影が一般的な為、広い画角ではなく上半身を中心に映して踊る動画も多い。場所を大きく移動したり、全身で派手に動き回るダンスではなく、腕や首、腰の動き、そして表情でパフォーマンスができるダンスが人気だ。

さらに、踊りやすさとキャッチーさも、人気ダンスを語るうえで重要なキーワードだ。北海道日本ハムファイターズのファイターズガールが踊る“きつねダンス”が今年大きな注目を集め、「第73回紅白歌合戦」(12月31日土曜19:20-23:45放送、NHK総合)で披露することも決定した。このダンスは繰り返しのメロディーに乗せたシンプルな振り付けが特徴的だ。きつねダンスの振り付けを考案したファイターズガールのディレクターの尾暮沙織氏は、メディアのインタビューで「初見でもマネしやすく、スタンドにいるお客さまが座りながらでも踊れるようにアレンジした」「子どもから年配の方まで誰が見てもパッと踊れるのがポイント」と語っている。その狙い通り、ブームを巻き起こしたのだ。「踊って広がる」は現代における流行の生まれ方のひとつと言えるだろう。

キャラクターも踊る!没入感&ユーザー参加型の盛り上げ演出の効果も


Ado「新時代」が今年大ヒット

8月に公開された映画「ONE PIECE FILM RED」の主題歌であるAdoの「新時代」も、2022年の話題を集めた曲として優秀作品賞に選出された。Apple Musicのグローバルチャートでは日本の楽曲で初の1位を獲得するなど、世界でも愛されている人気曲だ。MVでは映画のキャラクター・ウタがライブをしているかのようなダンスや演出がなされ、YouTubeの再生回数は1億回を突破した。

架空のキャラクターは、生身の人間よりも圧倒的にパフォーマンスの幅が広い。人間にはできない激しいアクションや、飛んだり消えたりなどの実現不可能な演出をはじめ、アニメーションの中であればほとんどなんでも表現できるだろう。しかしウタがMVで披露したのは人間が真似して踊れるダンスだった。そのパフォーマンスは、キャラクターが本当に同じ次元にいて、生きているような臨場感を与えることに成功している。11月には国立競技場でウタがダンスと歌唱を披露し、YouTubeのコメントでは「現実軸にもウタが存在した!」など、リアルすぎる演出に驚きの声が集まった。また、「ONE PIECE」公式は映画の盛り上がりに合わせて「#FILM RED文化祭」を各SNSで開催。映画にちなんだ歌やダンス、イラストなどの投稿を呼びかけ、投稿者も閲覧者も、ファンみんなが楽しめる一大イベントとなった。

SNS時代における「視覚」の重要性、“クチコミ”としてのダンス動画


ダンス動画をネットにアップすることが文化として定着し、YouTubeでは「#踊ってみた」動画は7万件を超える。音楽は、聴くだけではなく、動画として目で見て楽しむことはもちろん、ダンスを踊るというところまで楽しみ方が多様化している。現代は、女子高生から、芸人、女優、アナウンサーまで、同じダンスを踊っているという事態は珍しくない。

そうしたダンスMVを見る→踊る→ダンスをSNSに投稿→話題になる→投稿者が増える→元動画をいろいろな人が閲覧するという、好循環が生まれる。ダンス動画は、視覚から伝わる「クチコミ」のようなツールになっている。ユーザー側が楽しんでダンス動画を投稿して、盛り上げてトレンドを作っていくという構図で今後もブームが生まれていくだろう。今後の“バズりダンス”の動きに注目していきたい。