こだわり抜いたのは、人格が変わる瞬間の“目”
――監督からリクエストされたことで印象に残っていることはありますか?
交代人格のキャラクターに関しては、事前に一つ一つ、監督やプロデューサーの皆さんからイメージ資料をいただいて、その情報を基に僕の役作りの中に取り入れました。
あとは、主人格からそれぞれの人格に変わる瞬間の“目”を撮っていきたいと言ってくださったので、そこは現場で監督と相談しながら意識して取り組みました。
――それは具体的にどのような変化でしょうか?
出来上がったものを見た方は、「鋭くなった」とか「優しくなった」という表現をするかもしれません。でも、僕の中ではそういう意識はしていないんです。
例えば、主人格がパッと切り替わった時に、いきなり交代人格が話し出すわけではなくて、その変わったタイミングの余韻が欲しいということだと思うんです。
多分それが見た方からすると、「あっ今変わったんだな」という間になると思うんです。そういう間を色とりどりに撮っていきたいということだったので、そこには一生懸命応えました。
――交代人格それぞれのキャラクターの特徴と、演じる上でこだわった部分をそれぞれ教えてください。
カブトは、人見知りでちょっと内向的なのですが、すごく頭が良くて、一瞬で数を暗記できたりと、数学に関して天才的な知能があります。自分が長けているものと少し不足している部分の落差が激しいです。
“勉強や自分ができること、すごいことをしたら褒めてもらえる”というのが原動力になっているのかなと。カブトは愛情を追い求めるために出てきた人格なんじゃないのかなと思います。
すごく愛情に飢えていて、褒められようと必死になって頑張る。そういう部分を自分の中にある感情から、「こういうことなのかな」とひもづけて演じました。
特に沢村さんが演じる獅子舞には、どうにかこうにか褒められようと、すごく忖度(そんたく)するんですね。彼から愛情をもらうために、他の刑事とは全く別の扱いをするので、ちょっと媚びているように見えるかもしれません。
どうしたら彼が振り向いてくれるかということを、沢村さんとのお芝居の中で見つけていきました。そこでの一生懸命さというのはすごく愛らしかったですし、カブトの臆病な部分や良くない部分も出せるように意識しました。
バクは、相手に自分の意見を認めさせたり、支配下に置きたかったり、自分が正しいと思わせたいときに出てくる人格なのですが、自分が否定され続けた分、相手の事も否定する性質を持っています。
でも、演じ方として一概に声を大きくするとか、そういうことではなかったように思います。確かに、バクの時に何か否定されたりするとすごくテンションが上がるし、「俺を否定してんじゃねぇ」って怒ると思います。
身振りや声のボリュームも大きかったり、ちょっと口調が荒かったり、畳み掛けて相手を言い負かしたり、そういうのはバクの性質として元々あるのですが、それらはいずれも相手からのリアクションありきで演じました。
主人格の元村周太は、幼少期から自分の感情を押し殺して生きてきたので、すごく精神的に弱いですし、塞ぎ込んでしまいます。僕はそれぞれの人格は、彼の弱さから生まれてくるものだと思っています。
それぞれの交代人格は自分がやりたいことや目的がはっきりしているので、違った道筋を歩いてはいるのですが、最後は同じゴールに向かっていきます。
僕が演じる交代人格は、自分からチェンジを誘発することはほとんどなくて、外部からのリアクションを受けて変わります。要は、その交代人格が、ピンチになったり、何か助けを求めた時にチェンジするので、その人格が何をしたらいいのかということが、おのずと見えてくるんですね。そうすると、その役のテンションがだんだんと作られていきます。
――演じていて楽しかった、もしくは手応えがあったのはどの人格ですか?
カブトですかね。獅子舞と接する時間が多い分、その2人で演じた、そこでしか生まれないものがたくさん出てきて、一番厚みがあるかもしれません。