草なぎ剛主演"戦争シリーズ"を振り返る 痛快な復讐劇と深い人間ドラマを両立させる演技の妙
草なぎ剛が主演を務めるカンテレ・フジテレビ系連続ドラマ「罠の戦争」(毎週月曜夜10:00-10:54)が1月16日(月)にスタートする。本作は「銭の戦争」(2015年)、「嘘の戦争」(2017年)に続く“戦争シリーズ”第3弾。6年ぶりにドラマの主演を務める草なぎの俳優としての歩み、そして痛快さが売りのシリーズを振り返る。
役を実存させる演技力は、つかこうへい仕込み
「蒲田行進曲」「熱海殺人事件」などの傑作を生み出し、2010年にこの世を去った劇作家で演出家のつかこうへい。厳しくも愛のある人として知られるつか氏は生前、役者の育成にも力を入れており、富田靖子、石原良純、阿部寛、石原さとみなど、錚々たるメンバーが彼の元で鍛え上げられ、大いに飛躍した。その一人が、草なぎ剛だ。
1988年、のちに国民的グループとなるSMAPのメンバーとしてアイドル活動を開始。まもなく俳優業にも乗り出し、1997年のドラマ「いいひと。」(カンテレ・フジテレビ系)で頭角を現した。
アイドルといえば、少女漫画に出てくる王子様のような人物を演じることが多い。このドラマもまた高橋しんの漫画を原作としたヒューマンドラマではあるが、草なぎが演じたのは困っている人がいたら放っておけない“いい人”だけど、どこにでもいるような主人公。草なぎの元来持つ柔らかい雰囲気が、原作通りの素朴な主人公のイメージに馴染んだ。同作で草なぎは「第13回ザテレビジョンドラマアカデミー賞」の主演男優賞を受賞する。
当初から俳優としての評価が高かった草なぎを、“天才”と絶賛したのが前述したつか氏だった。つか氏の代表作である舞台「蒲田行進曲」(1999年-2000年)で、過去に柄本明、平田満という名優たちが演じてきたヤス役に抜擢された草なぎ。厳しい指導で有名なつか氏が、彼の演技には一度も口を出さなかったとされる。
“口立て”と言われ、稽古中にその場で台詞を作り替えていく、つか氏独特の演出方法は草なぎに多大な影響を与えた。自分と演じる役とが少しずつ重なっていく感覚をそこで身につけたのではないだろうか。草なぎの演技はしばしば憑依型と言われるが、役が彼に降りてきているというよりも、どちらからともなくじんわりと合わさり、まるで実存する人物かのように物語世界を生きていく印象を受ける。
ただの復讐劇ではない“戦争シリーズ”
「蒲田行進曲」に出演したことで一皮むけた草なぎは2003年にターニングポイントを迎える。映画「黄泉がえり」、ドラマ「僕の生きる道」(カンテレ・フジテレビ系)と、出演する作品、そして自身の演技が軒並み好評価を得たのだ。特に胃がんで余命1年を宣告される教師を演じた後者の草なぎは忘れられない。
回を追うごとに痩せ細りながらも、前向きに生きていく様が、強く視聴者に死生観を問うた。その後、このドラマと同じく草なぎが主演を務め、ほか一部のキャストとスタッフが集結した「僕と彼女と彼女の生きる道」(2004年)、「僕の歩く道」(2006年)は、通称“僕シリーズ”として長きにわたり愛されていくことになる。
それに続き2015年からスタートしたのが“戦争シリーズ”だ。“僕シリーズ”と同じくカンテレ制作のドラマシリーズで、第1弾は韓国の人気ドラマをリメイクした「銭の戦争」。一度は栄光を手に入れるも、父親が残した多額の借金により、地位や名誉を失った元証券会社社員の白石富生を演じた。誠実で温厚そうな草なぎのパブリックイメージとかなりギャップがあるのが、この富生役だ。家族や自分を苦しめた金貸し業に足を踏み入れ、人や社会への復讐に燃える男を体現した草なぎの鬼気迫る演技は、驚きをもって世間に受け入れられた。
戦争シリーズ第2弾、2017年放送の「嘘の戦争」は、幼い頃に家族を殺された少年が一ノ瀬浩一と名を改め、海外で詐欺師となり、30年の時を経て家族を殺した真犯人に迫る復讐劇。巧妙な手口で事件関係者たちを騙していく、どんでん返しが相次ぐ展開が視聴者を引きつけた。
このシリーズは“リベンジ・エンターテインメント”とも称される痛快さがウリの作品ではあるが、ただ観ている人の溜飲を下げるだけのドラマではない。主人公の復讐に伴う葛藤や、呑み込まれてしまいそうな怒りをしっかり描いた人間ドラマの要素も併せ持っており、それらを表現する草なぎの表情や台詞回しに心を打たれる。なお、「嘘の戦争」はTVerにて期間限定で無料配信中だ。
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