昭和時代の子どもには「ピアノは女の子の弾くもの」というイメージを持っていた者もいただろうし、「女の子みたい」と言われることがイヤでピアノを習っていることを友人に隠していた男子も少なくなかったはずだ。ピアノとロックが合うことを大きく示したのは恐らくビートルズのポール・マッカートニーが歌うバラードの数々だったと思われるが、エルトンはバラードから激しいアップテンポのものまでなんでも来い。時には踊るようにピアノを弾いて、この鍵盤楽器から新たなカッコよさを引き出した。個人の感想だがエルトンがいなければ、ビリー・ジョエルも大江千里も槇原敬之もスターになっていたかどうか?
「エルトン・ジョン・ライヴ:Farewell From Dodger Stadium」の冒頭では、コンサートへのカウントダウンを示す時間表示と共に、彼を敬愛するアーティストのコメントが次々と紹介される。誰が出てくるのかは見てのお楽しみだが、エルトンは本当に幅広い層に愛されているんだなと再認識させられた。選曲も、またいい。ヒットパレードで埋め尽くすのではなく、ブレイク前、アメリカ西海岸の小さなクラブで少数の客を歌っていた頃の話も交え、初期の通好みのナンバーも聴かせてくれる。この日も初心を忘れず、すべての時代の楽曲へのリスペクトを込めながら、エルトンは5万数千人の観客の前に立ったのだ。
会場の中は、文字通り老若男女でいっぱい。中でもうれしかったのは、子どもたちが笑顔いっぱいで踊ったり、歌に聴き入っているシーンだ。真のエンターテインメントは世代も国境も皮膚の色も宗教的信条も性癖も超えると筆者は信じている。近年はLGBT+の視点からも一挙一動が注目されているエルトンだが、何しろ音楽の力が並外れている。再生環境が許す限りの大音量で、ぜひ「エルトン・ジョン・ライヴ:Farewell From Dodger Stadium」に浸っていただきたい。
◆文=原田和典
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