「バズらせようとすると失敗する」元電通クリエイティブディレクターが教える発想トレーニング<最強の時間割>
民放公式テレビ配信サービス・TVer初の完全オリジナル番組「最強の時間割〜若者に本気で伝えたい授業〜」が無料配信中だ。3月10日(金)に配信開始となったLesson13では、クリエイティブディレクターの藤井亮が登場。“デタラメ脳”を鍛えるトレーニングを披露し、櫻坂46の大沼晶保らが挑戦した。
バズらせようと思ったら失敗する
「最強の時間割 ~若者に本気で伝えたい授業~」は、さまざまなジャンルのトップランナーが特別授業を実施し、ラランドのサーヤとニシダ、櫻坂46のメンバー、そして学生ゲストが参加。トップランナーたちの授業がアーカイブされることで、TVerに「最強の時間割」が完成するというコンセプトの番組だ。Lesson13では、クリエイティブディレクターの藤井亮が講師として登場。櫻坂46の大沼晶保も生徒として番組に初参加した。
元広告代理店勤務のサーヤいわく、広告制作の現場において”企画の中枢”を担うクリエイティブディレクターの藤井が生み出す作品はことごとく大バズり。例えば、岡本太郎作品をモチーフにした特撮活劇「TAROMAN」(NHK Eテレ)には脚本・演出として参加。「1970年代に放送された伝説の番組」という体裁のもと、CGではなくミニチュアを使った撮影方法で制作し、大きな話題を集めた。
藤井は武蔵野美術大学卒業後、広告会社「電通」に入社。アートディレクター・CMプランナーとして、多くのCM制作に携わってきた。例えば、2013年には赤城乳業から発売されているチョコアイスバー「BLACK」のCMを手がけ、放送界のアカデミー賞と呼ばれるギャラクシー賞の優秀賞を受賞。漫画家・しりあがり寿が描いたあまりにゆる過ぎるキャラクターが世間の注目を集めたわけだが、その理由として藤井は「みんなは女優さんのCMを作ってくれるので、間にこういうのがあると目立てる」と語る。
一方、カプセルトイメーカーである株式会社キタンクラブから会社の15周年記念映像の制作を依頼された際には、「会社の歴史をただ流しても見てもらえない」と考え、2億年に渡るカプセルトイの“嘘歴史”を創作。それを元に制作した記念映像「カプセルトイの歴史〜古代篇・近代編・未来編〜」は、2022年の「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」の総務大臣賞を受賞したほか、「大嘘博物館 カプセルトイ2億年の歴史展」と題した展覧会まで開催されることとなった。藤井の作品に架空の設定が多いのは、現実的な世界だと何も面白くないことが、デタラメな世界で起きると途端に面白くなるからだという。
ただ、はなから「バズらせよう」と考えて作ったものは多くの場合失敗するため、たとえ少数でも誰かの心に刺さる企画を心掛けているという藤井。そんな彼が、最も大事にしているのが“違和感”だ。例えば、そこら辺に落ちているようなものに見えなくもない国宝や重要文化財を多くの人が真剣に見ている様子に覚えた違和感が、先ほどの大嘘博物館に繋がっている。またリサーチも欠かさないが、それは既にあるアイデアを避けるためのもの。人と被らない企画を生み出すために、藤井はあえて流行をリサーチするようにしているそうだ。
ターニングポイントとなった滋賀県のCM
次に藤井は「デタラメな企画を相手に伝えるコツ」を伝授。教材は藤井がコンペで勝ち取った滋賀県をPRするテレビCMだ。
CMでは、冒頭に小学生の男の子が登場。男の子が「武将なんてどれも同じでしょー?」と言うと、「武将と~言えば三成~♪」というBGMとともに石田三成の肖像画が現れる。続けて、「イチ、ゴー、ロク、ゼロ!滋賀県生まれ~♪」とまるでフリーダイアルのように三成の生年月日と出身が読み上げられ、三成に扮した男性と男の子が簡単な振り付けを披露するという内容だ。映像から音楽に至るまで、全てに昭和臭が溢れるこのCMはネット上で500万回再生され、「ローカル感がたまらない」「今の時代に作られたとは思えないがそれがむしろいい!」と絶賛された。
しかし、本人は「これを作っちゃうと、今後おしゃれな仕事は絶対来ないだろうと思った」と語る。ある意味、自分のターニングポイントになった作品を藤井はどのように生み出したのだろうか。
コンペにあたり、滋賀県から「石田三成を使って県の魅力をアピールしたい」という要望を受けた藤井。そこでまず、藤井は展開イメージを考えた。「石田三成の動画がなんかすごいらしい」と噂になるちょっと変な動画を作り、そこから「滋賀県がやっているらしい」と話題になって、結果的に滋賀県のことも三成のことも好きになってもらうという流れだ。
もちろん、制作前のリサーチも欠かさない。制作にあたり、三成のことを色々調べたという藤井は「僕が作るものは見ようによってはふざけているように見られるものが多いので、ちゃんと分かった上でふざけているということを理解してもらうことが大事」と語る。デタラメな企画だからこそ、綿密な下調べをプレゼンするのが重要だという。
一方で、藤井は自分のカラーを知ってもらうためにプロフィール写真にある工夫をしている。写真に映るのは、うんこの帽子を被った藤井。その理由について本人は「この写真を見てけしからんと思う会社だと、あとあとお互い不幸な事故が起きる」と明かす。ふざけたプロフィール写真は藤井にとって、自分とクライアントの価値観が合うか合わないかを判断する重要な“踏み絵”なのだ。