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松山ケンイチ「日本という国の全てが“安全地帯”ではない」介護問題描く新作で考えた生き方と死に方

2023/03/23 18:00

映画「ロストケア」で主演を務める松山ケンイチ
映画「ロストケア」で主演を務める松山ケンイチ撮影=友野雄

松山ケンイチ長澤まさみが初共演する映画「ロストケア」が3月24日(金)に公開となる。老人42人を「救い」と称して殺害した心優しい介護士・斯波(松山)と、彼の罪を立証しようとする検事・大友(長澤)の攻防を描く本作は、主演を務めた松山と前田哲監督が長年温めてきた企画だという。松山にインタビューを行い、本作にこめた思いや自身の死生観について聞いた。また、共演の長澤と現場ではほとんど会話しなかったという松山だが、撮影後に長澤に宛てて書いた手紙についても話してくれた。

日本という国の全てが“安全地帯”ではない


――介護を巡る問題を描いた映画「ロストケア」は、松山さんと前田哲監督が長年温めてきた作品だそうですね。原作小説を読んで、どんなことを感じましたか?

自分はまだ“介護”に関わっていないから、その状況に置かれている人たちの存在を認識できてなかったんです。本当に、大友(長澤まさみ演じる検事・大友秀美)側だったというか。一応日本って、なんというか……平和のような雰囲気がありますけども、日本という国の全てが“安全地帯”ではないということを、この小説を読んで知りました。

――物語のどのような部分で、それを強く感じましたか?

斯波(松山演じる介護士であり殺人犯・斯波宗典)のせりふの一つ一つに対して、僕は大友と同じように、返す言葉がなくなってしまって。法律や倫理、道徳で立ち向かうことができないというか。自分自身は今、安全地帯側にいる人間ですけど、社会の“穴”もはっきりとわかるんです。自分の子どもや家族のことで動いていると、「なんでこれってこうなんだろう?」って思うことが結構あったりして。例えば役場に行くと、事務的にたらい回しにされるとか。でも、役場の人も穴に落ちた側の状況を理解してたら、そういう対応じゃなくなるんじゃないかな?と思うんですよ。安全地帯側の人たちは、安全地帯が永遠に続いている認識だと思うんです。でも実は、社会にはポツポツ穴があって、誰かが落ちてしまっている。自分の身近な人が落ちてしまわないと、わからないと思うんですよね。穴が見えないし、気付けない。これが、人なんだなと思うんですけど。

――松山さん演じる斯波は、高齢者を殺害する役どころです。それを斯波は“救う”と言っていますが、斯波の“優しさ”や“信念”をどのように捉えて演じていましたか?

斯波が言ってることって、真実だと思うんですよね。それを自分の都合や欺瞞、偽善だとかで、“サイコパス”だと言ってしまう人は大体、安全地帯で何不自由なく暮らしている人たち。それが大多数なわけで、その人たちからすると、殺してしまうなんてありえない話ですよね。でも、大多数の人たちが見えない部分を、斯波はずっと言い続けている。安全地帯にいる人は安全地帯にいる人の正しさがあって、穴に落ちた人は穴に落ちた人の正しさがあって。安全地帯にいると「戦争は良くない」とか、「盗みや殺人は良くない」って簡単に言えてしまうけど、その背景にあるものは、その状況にいないと見えないじゃないですか。両者には距離があるから、いくら言葉で言っても、なかなか伝わらない部分がある。でも斯波は大友に、なんとかして現実を伝えようとするわけですよ。だから僕も、どうやって大友に正しく伝えることができるのかっていうのを、ずっと考えながら斯波を演じてましたね。

松山ケンイチ
松山ケンイチ撮影=友野雄


長澤まさみに書いた「謝りのお手紙」


――斯波と大友が対峙するシーンは、観ていて息を呑むほどの緊迫感でした。長澤さんと松山さんは、現場ではお互いにほとんど話さずに撮影に臨んだそうですね。長澤さんはインタビューで、撮影後に松山さんからお手紙をもらったことがうれしかったと語っていました。

長澤さんには特に説明せずに、喋らないようにしてて。空き時間も横にいるのに喋らないから、「なんなんだこいつ」って話じゃないですか(笑)。無視してるみたいな感じだったから、絶対嫌だろうなと思ってて。それである時、「ちょっともう一回このシーンをやり直したい」ということになって、監督と長澤さんと3人で、初めてちゃんと話したんですよ。でもお互いそれまで喋ってないから、何考えてるか一切わからないじゃないですか。本当は、そこに行き着くまでにコミュニケーションを取っていて、段階があったはずなんですよ。でもいきなりだから、全員に戸惑いがあったんですよね。その戸惑っている長澤さんの表情を見ていて、ものすごく不安になったんです。これでよかったんだろうか……違うとこで長澤さんを悩ませているのかなあ……とか。その時から、ずっと長澤さんのこと考えてて。もう家族か!ってぐらい考えて(笑)。それで、手紙を書いたんですよね。「もしこの現場で、何か傷つけてたりとか、不安に思わせたりしてたら、本当にすみませんでした」って。謝りのお手紙だったんですよ。

――でも一方で、長澤さんも喋らないと決めて現場に入っていたそうで。松山さんと同じ気持ちで現場に臨めたことが財産だとおっしゃっていました。

長澤さんから返事をもらって、そういうことが書いてあったから……あ、僕が勝手に悩んでいただけだったんだと(笑)。それはそれでいいやと思って。喋らなかったのは、知らないキャラクター同士が、少しずつ歩み寄っていく物語だから。「なんでこの人はこうなんだろう?」って感情を、目だけで表現するっていうのが、今回の現場でやりたかったことだったんですよ。

――長澤さんは松山さんと対峙するシーンについて、「こんなに瞳の綺麗な俳優は見たことがない」「恋に落ちた感覚になった」と話していました。

だって、ずっと目を離さないで見てましたもん。伝わってほしい……!と思って。でも僕も、ずっと目を合わせてると親近感が湧くんだって思いました。目って(自分の瞳を指しながら)“裸眼”って言うぐらいだから、“裸”じゃないですか。目は口ほどに物を言うっていう言葉もありますから、全部見えてるし、全部が伝わる部分でもあると思うんです。

松山ケンイチ
松山ケンイチ撮影=友野雄


下に続きます

「ロストケア」

2023年3月24日(金)全国公開

公式サイト
https://lost-care.com/
ロスト・ケア (光文社文庫)
ロスト・ケア (光文社文庫)
葉真中 顕 (著)
光文社
発売日: 2015/02/20
キネマ旬報 2023年4月上旬号 No.1918
キネマ旬報 2023年4月上旬号 No.1918
キネマ旬報社 (編集)
キネマ旬報社
発売日: 2023/03/20
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