
2021年に日本テレビ系で放送されたドラマ「ネメシス」の最終話から2年後を描く、「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」。その劇場公開を記念して、民放公式テレビ配信サービス「TVer」にて、広瀬すずと櫻井翔の主演ドラマ6作品が順次配信中だ。同作でポンコツだが人望に厚い“自称天才探偵”という愛すべきキャラクターを作り上げた櫻井翔の魅力を深掘りする。
愛すべきポンコツ探偵と優秀な助手が帰ってくる
「この世に晴れない霧がないように、解けない謎もいつかは解ける。解いてみせましょう。この謎。さあ、真相解明の時間です!」
どんな不可解な事件の謎も華麗に解いて見せる探偵には、いつも「大丈夫です」とその背中を押してくれる助手がいた。
人望溢れるポンコツ探偵の風真尚希(櫻井)と、天才的なひらめきで事件の真相を見破る探偵助手の美神アンナ(広瀬)、そして彼らを見守る探偵事務所の社長・栗田一秋(江口洋介)。あの、愛すべき3人が2年ぶりに帰ってくる。
2021年4月から6月に日本テレビ系で放送されたドラマ「ネメシス」。その最終回から2年後を描く「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」が3月31日に公開となった。
栗田が立ち上げた探偵事務所ネメシスの自称エースである探偵の風真と、その助手であるアンナが協力して依頼を解決していく1話完結型のミステリーと、アンナの父・始(仲村トオル)の失踪をめぐる謎が複雑に絡み合うストーリーが展開されたドラマ版。探偵と助手のバディものは数多く存在するが、本作が面白いのは「助手の方が探偵よりも優秀」という設定だ。
櫻井演じる風真は名探偵ぶってはいるが、実はど素人で推理力はゼロ。そのため、天才肌のアンナが影で事件のトリックを暴き、それをまるで自分が解いたかのように語っていく。それだけ聞くと助手の手柄を横取りする嫌なやつに思うかもしれないが、実はそこには大きな理由があることが徐々に明らかになっていった。
風真はポンコツで頼りないけれど、心の内では様々な思いを抱えたキャラクターだ。基本的にはその動きや佇まい、アンナたちとの掛け合いも軽妙でコミカルだが、重要な場面ではシリアスな芝居で視聴者の集中力を一気に高めた櫻井。緩急ある彼の芝居はそのまま本作の魅力に繋がっていった。
完璧に見えて、実は隙がある
ジャニーズきっての秀才で、ニュース番組「news zero」(日本テレビ系)や様々なスポーツ番組のキャスターも務める櫻井。そこではニュースの要点をしっかりと踏まえた上で、自分の意見を理路整然と述べ、かたや「櫻井・有吉THE夜会」(TBS系)や「1億3000万人のSHOWチャンネル」(日本テレビ系)といったバラエティの司会では番組を進行しつつ、共演者にうまく話を振って場を盛り上げている。
その場の空気を敏感に読み取り、自分自身をそこに適合させる力が優れているのだろう。アイドルとしての顔、キャスターとしての顔、そして俳優としての顔。複数の顔を自由自在に操り、私たちを楽しませてきた。
俳優としては2002年に「木更津キャッツアイ」(TBS系)で、高校時代の野球部仲間“木更津キャッツ”のメンバーで“バンビ”の愛称で親しまれる・中込フトシ役を演じた櫻井。茶髪で尖ったビジュアルに反し、実は童貞のいじられキャラが多くの人に愛された。
翌年の「よい子の味方 〜新米保育士物語〜」(日本テレビ系)では女性ばかりが働く保育園に飛び込んだ、新米男性保育士の太陽をさわやかに好演。厳しい現実に打ちのめされそうになりながら、ずっと夢だった保育士の仕事を一生懸命全うしようとする姿に元気をもらっていたという人も多いのではないだろうか。
「ザ・クイズショウ」(日本テレビ系)では記憶を失ったままクイズ番組の司会をやらされる主人公の神山悟を。表ではハイテンションで且つほんのり毒の効いたMCで番組を盛り上げるも、裏では謎の施設に幽閉され、自分の殻にこもる神山の二面性をダークな演技で魅せた。総合商社のデキるサラリーマンだったが、校長としてある高校の経営を再建することになる主人公・鳴海涼介を演じた「先に生まれただけの僕」(日本テレビ系)でもそう。一見完璧だが、実は意外と隙があって、予想外の出来事に右往左往する姿を見るのが楽しい。そして、その過程で櫻井が表現する喜怒哀楽に見ている人は心を大きく揺さぶられるのだ。
劇場版ではダークな顔も?
そんな櫻井にとって、「ネメシス」の風真はハマり役だったといえるだろう。決して完璧ではないが、周りの協力を得ながら難題を乗り越えていく“愛すべきポンコツ”キャラが、探偵と助手のバディものというありがちな物語に新しい風を吹かせた。
映画「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」では、すっかり人気探偵事務所となったネメシスの自称天才探偵として活躍する風真。しかし、ある日を境にぴったりと依頼が来なくなり、3人は仕方なく小さな事務所に移転。その頃から、アンナは仲間たちが死んでいく悪夢を毎晩見るようになる。そして、“窓”と名乗る奇妙な男(佐藤浩市)が出現したのをきっかけに、大切な仲間たちが次々と生命の危機にさらされていく……というストーリーだ。
予告編では、闇落ちしたかのような風真の姿が映し出されており、ドラマファンから心配の声も挙がっていた。初日の舞台挨拶では広瀬が「信頼関係すら崩れているような距離感というか、冷たさで。そこは寂しかったですよね…。見たくない風真さんの顔を見た気がします」と語る場面も。ぜひドラマ版とは一味違う“ダークな風真”と劇場で出会ってほしい。
■文/苫とり子