その数日後、山里が花鈴(渋谷凪咲)と食事をしていると、店に偶然しずちゃんが入ってきた。しずちゃんは、山里をスルーしてカウンターへ。小さな声で店員を呼び、ぐずぐずしてメニューが決まらない彼女を見ながら、「声がちっちゃいよ」「シンキングタイム長いな!」と、独り言でいちいちツッコむ山里。それを聞いていた花鈴が思わず笑う。そして「面白っ」とつぶやいた。
久しぶりに聞いた「面白い」という言葉。山里は、自分の欲を捨ててツッコミになることを決めた。部屋で1人で悩み苦しみ、「オレは天才」などの自分を鼓舞する貼り紙をすべて引き剥がして、新たな役割のネタを書き始めた。幼い頃から「すごいね」と言われ続けて育った彼が、自分は天才じゃなかった、と認めるのは相当ツラかったはずだ。森本慎太郎の演技から痛いほどツラさが伝わってきて涙を誘った。
そして、新ネタを披露する日。舞台袖で山里はしずちゃんに「実はね…」と話し始めた。「このネタ書くの、最初はすっごいイヤだったのよ。血の涙流しながら書くような感覚…。でもね、途中で気づいたのよ。アレ!?書きやすいぞ!?って。ネタ合わせしても楽しかったぁ」。山里は正直な胸の内を伝えた。すると、しずちゃんも「私も」と答えた。
それぞれが「もう後が無い」と覚悟を決めて舞台へ出た。ネタが始まると客席から何度も大きな笑い声が返ってきた。ネタを終えて「コレ、ウケへんかったらもうアカンと思ってた」としずちゃんが言えば、山里も「オレもだよ」と答える。ついに自分たちだけのスタイルを見つけたのだ。そして彼らはこのネタで、コンテストの最優秀新人賞も獲得した。
この漫才シーンでの森本慎太郎と富田望生は、俳優が芸人の漫才を演じているのではなく、間も熱量も本当に芸人そのものだった。山里本人もオンエアを見ながら「完璧なんだけど!この南海キャンディーズ!!!!」とTwitterで呟いたほどのクオリティだった。
賞レースで結果を残したが、仕事が一向に増えなかった2人は、路上ライブを始める。だが、小さな彼女の声は街の騒音にかき消されてしまう。足を引っ張っている、と謝る彼女に、山里は「声が小さいのは、しずちゃんの持ち味。それを武器にすればいい」と勇気づけた。
そうして路上ライブを続けていたある日、観ていた学生たちが「おもろかったな」と言い合いながら帰っていった。彼らの後姿を見ながら山里は「やっぱり南海キャンディーズはしずちゃんだよ。オレは、“面白いキミの隣に居る人”でいい。“天才”じゃなくていい」と、半ば自分に語りかけるようにつぶやいた。そんな山里に、しずちゃんは「私は山ちゃんのこと、“天才”やと思ってるよ」と伝えるのだった。
今まで相方を責めるばかりだった山里が、弱点も個性だと包みこむ成長を見せ、そしてコンビ愛爆発展開に視聴者は胸アツに。並行して描かれた、まだ光が見えずにもがく若林(高橋海人)の姿も含め、「今日はとにかく泣かされた」「何度もグッときた」と、情熱だらけのエピソードに涙する視聴者が続出した。
◆文=鳥居美保/構成=ザテレビジョンドラマ部
※高橋海人の「高」は、正しくは「はしご高」
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