しずちゃんにやって来た映画の大役オファー
コンビ仲はどんどん悪くなり、漫才も全くウケなくなってしまった。客のアンケートは「全然面白くなかった」「期待外れ」などの酷評ばかりだった。何度も書き直してやっと完成した「M-1」のネタを超えるものは、簡単には作れないのは自覚している。でも、忙しくて時間が無い中で作った新ネタがウケないのは、しずちゃんが忙しくて稽古できないからで、彼女がもっと頑張って練習してくれれば…と、またまた自分を棚に上げて他人のせいにした。
そんな中、しずちゃんに映画「フラガール」のオファーが。4番手の大役だ。台本を見せながら「これが上手くいけば、南キャンはもっと上に行ける」と話し始めたマネージャー・高山(坂井真紀)の言葉を遮って、「断ってください! まだしずちゃんは知らないんですよね?」と山里は言った。
「しずちゃんにボクを引き上げる力は、無い!」
高山は、ひがむ山里を、彼女の知名度が上がれば、山里も引き上げられる、と説得する。だが山里は、「ボクがしずちゃんを引き上げる事は出来ても、しずちゃんにボクを引き上げる力は無いです!」と、驕り高ぶった発言をした。しずちゃんのプラスになるとわかってて断れ、と言うのは「ボクとしずちゃんの差が広がるだけだからです。ネタはボクが書いてるんですよ。頑張ってるのは、僕です!」という激しい嫉妬心からだった。
「今はしずちゃんにチャンスが来てるだけ」と高山が言っても聞かず、「高山さんは、しずちゃんが売れたら、それでいいんですもんね」などとひねくれまくる山里。高山は、山里の小ささに落胆した。
山里の抵抗は無視され、しずちゃんは「フラガール」に出演するのだが、もしこのオファーがもみ消されていたら、彼女が蒼井優と繋がり仲良くなる可能性は低く、山里は蒼井と結ばれなかったかもしれない。そして、この結婚をきっかけに、南キャンのコンビ仲も劇的に改善されたので、山里としずちゃんは今でも冷え切った関係を続けていたかも。「フラガール」は、今となってはいろんな意味で運命を左右した作品だ。
「いつか、みじめな感情が輝く時が来る」
ある日、山里は1人でプロデューサーの島(薬師丸ひろ子)と打ち合わせをしながら、時間が無くて新たなアイデアが浮かばない事、そして、頑張ってない者が頑張ってる人間をどうして批判できるのか、など、今の想いを訴えた。すると島は、「今感じてる不平不満、怒り、妬みが、絶対将来の糧になる。そんな表に出せないみじめな感情が、きっと輝く時が来る」と言った。「みじめさが輝く…そんなの無いですよ」と信じない山里に、島は「そうかなぁ?」と言い、「いつかそういう仕事がしたいね」と告げるのだった。
この数年後、島は山里と若林を会わせて「たりないふたり」を仕掛ける。そして、2人の負の感情をベースにしたいくつもの名作漫才が生まれることになるのだ。
◆文=鳥居美保/構成=ザテレビジョンドラマ部
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