山田洋次監督作品、映画「こんにちは、母さん」が9月1日(金)に公開。現代の東京・下町に生きる家族が織りなす人間模様を描いた人情ドラマで、吉永小百合と大泉洋が初タッグを組む。もともと山田洋次が手がけた「男はつらいよ」シリーズのファンだという大泉は、本作を通じて何を思ったのか。キャリアを重ね、さまざまな賞を受賞する中で感じるプレッシャーの向き合い方など話を聞いた。
――作中では、吉永さんと親子役でしたね。
最初に話をいただいた時は「吉永小百合から大泉は生まれないと思うんですけど」って思いましたね。加えて、僕から永野芽郁が生まれるのも「どうもおかしいな」と。
でも、いざ撮影に入ってみると、役者の皆さんの力なのか、違和感もなく入っていけました。小百合さんご自身は「私には子どもがいないので」っておっしゃっていたんですけど、セットに入るともう私のお母さんとしか思えませんでした。
――親子感を出すために、山田監督からは、なにかオーダーはありましたか?
親子間に限らず、非常に細かく演出していただきました。久しぶりに実家に帰ったときに、母親からお客さんだと勘違いされるシーンがあるんですけど、そこで母親だけにイラッとする感じ、「なんでわかんないんだよ」みたいなニュアンスを非常に細かく演出をつけていただきました。山田監督の中に明確に答えがあるんですよ。そこまできちっと演出されることって珍しいのですが、そういうところがすごく人間としてリアルになるし、おもしろいなと思いました。
――吉永さんと共演してみて、感じたことはありましたか?
すごいの一言に尽きるのですが、何よりも、やっぱりあの役をあそこまで魅力的に演じられるのは小百合さんのすごさだなと。小百合さんが演じた福江は、僕が演じた昭夫の母親であり、恋する女性でもあるという役なんですね。それを全て演じきって、かつ、あれだけキュートな人間にまとめ上げてしまうのは、大女優・吉永小百合なんだなって、出来あがったものを通して見たときに、そのすごさをまた改めて思い知ったような気がしました。
――今回の作品を通して、山田監督から刺激を受けたことがあれば教えてください。
山田監督はリテイクが非常に多い監督なんですよね。正直、そういう経験って珍しいというか、僕にとってはリテイクって結構な事件なんですけど、山田組では非常によくあることなんだそうです。それについて監督が「僕、諦めが悪いんです」っておっしゃって、「大変申し訳ない。僕がうまく撮れなかったんだけど、もう1回やらしてほしい」ってとてもよく謝るんですよ。だから、良い作品を撮るためなんだなと思うと、そこはもう全然やりましょうと僕は思うんですよね。
それから、だいたい撮影が9時から17時で終わるんです。それが例えば19時だとか21時まで伸びてしまうと「申し訳ない。みんなにも、生活があるのにこんな遅くまでなってしまって申し訳ない」って言って謝って、みんなの分のご飯を用意するというのを聞きました。この「自分の私生活も持ちながらちゃんと仕事をする」という考え方が、すごくすばらしいというか、健全だなって思いましたね。正直、連ドラや映画の撮影が始まると自分のプライベートの時間なんてないですから。
――作品に入る以前から「男はつらいよ」シリーズのファンだったとのことですが、山田監督の作品から影響を受けているなと思ったことはありますか?
昔、北海道でレギュラー番組をやっているときに、山田洋次作品へのオマージュで「山田家の人々」っていうドラマを作ったことがあるくらいですから、思いっきり影響を受けていると思います。家族の物語なんだけども、そこには人間のおかしさと切なさもあって、日常ではあるけどドラマチックであるような作品を目指していました。
それから、撮影を通して勉強になったのは、宮藤官九郎さんが居酒屋のトイレに歌いながら入るというシーンで、宮藤さんはどのタイミングで歌うのか、トイレのドアを開けるのかを非常に細かく指導されていて。宮藤さんも「これがコメディなのか」と非常に勉強になったと言っていたのですが、僕もそうだなって。そういうちょっとしたおもしろさみたいなのは、自然と見て育ってきた気がしますね。
――その場で生まれた笑いやアイデアを取り込んでいくから、生き生きとした笑いが生まれるんでしょうね。
そこに確固たる自信があって、見事にやってのけちゃうのが、山田さん流のコメディなんだろうなって。やっぱり僕もそういう部分がおもしろいのかと改めて思いました。
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