コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、『え、社内システム全てワンオペしている私を解雇ですか?』をピックアップ。
原作・下城米雪さん、作画・伊於さんによる本作は、人員整理の一環で会社をクビになった女性エンジニアの不当な扱いに同業者からも多くの共感を集めている。7月3日に作画を担当している伊於さんが自身のX(旧Twitter)に第1話を公開したところ8.5万以上の「いいね」が寄せられ、反響が相次いだ。この記事では下城米雪さん、伊於さんのお二人にインタビューを行い、創作の背景について語ってもらった。
不当に解雇された女性SEが幼馴染に誘われたスタートアップ事業で大活躍!?
主人公の佐藤愛は、大学を卒業し新卒で入った会社で6年間社畜として働く毎日。少しでも人間らしい生活を取り戻そうと5年間かけ全業務の自動化を成し遂げた佐藤だったが、そこに待っていたのは「解雇」というありえなさすぎる結末だったのだ。
解雇後の現実逃避期間に、アキバで散財した帰り道、「ボクのこと覚えてない?」といきなり男性に声をかけられる。その人物は幼馴染の鈴木健太で最近事業をスタートさせたらしい。2人で話をしていく中で、鈴木は自分にとって芸術品と崇めていた"オルラビシステム"の開発者が佐藤であることを知ることになる。
「君が輝ける場所はボクが作る」その一言で鈴木と一緒に事業を始めることになった佐藤。鈴木が始めたビジネスは最近流行りのプログラマ塾だと言う。佐藤が事務所に来て早々、1人目の顧客が来ることになり…。
エンジニアとして働く佐藤が、相手の心に寄り添った「真のプログラミング塾」で出会う人の人生を少しずつ変えていく本作。Twitter上では「すごい共感できる」「疲れた時にまた読みたい…」「これは面白い!」「自分の今の仕事に通ずるとこあっていい感じ」「人って心が重要だよね」「日常系社畜漫画なのかと思ってたけど、見てみたら奥が深い漫画」「エンジニアへの正しい理解促進になってくれたら…」「愛ちゃんのコスプレかわいい」など多くのコメントが寄せられ、大きな反響を呼んでいる。
下城米雪さん、伊於さんのお二人が語る創作背景とこだわり
――原作小説を書かれた下城米雪さんにお尋ねします。『え、社内システム全てワンオペしている私を解雇ですか?』が生み出されたきっかけや理由をお聞かせください。
下城米雪:長年趣味で執筆しておりましたが、一度くらいは爆発的にヒットする作品を生み出したいと考え、当時の流行を元にいくつかタイトルを生成し、AIに評価させました。その中で最も「イケる」と思ったアイデアを短篇という形で発表したらウケたので、本作が生まれました。
――本作では現役SEの方からも多くの共感を集めていているようにお見受けします。本作に込めた思いや漫画を通して読者伝えたいことがあればお聞かせください。
下城米雪:私はアニメ・マンガで育った人間ですが、何か作品を摂取する時、それが人生にプラスの影響を及ぼさなければ全く意味がないと考えています。本作では少しでも「笑顔」を増やすことを考えて「視点」というテーマを取り入れました。意味については、考察が得意な方に任せます。すてきな考察記事を待ってます。
――本作の中で特に思い入れのあるシーンやセリフがあれば、理由と共に教えてください。
下城米雪:「君が輝ける場所は、ボクが作る」というシーンです。私はタイパという言葉を使う世代なので、百ページかけても全く話が進まないような作品はもう読めないです。本作はどうでしょう。冒頭の台詞まで僅か30ページです。ネームを切った方は天才ですね。原作は誰?私です(ドヤ
――下城米雪さんは作品を執筆したり評価したりする中でAIを活用いらっしゃるようですが、今後AIを使ってやってみたいことや目標などをお聞かせください。
下城米雪:質問の意図に合った回答か微妙ですが、まもなく人類が到達するシンギュラリティに期待しています。私は断言します。いずれ人工知能だけの世界が誕生します。その世界で豪遊するのが私の夢です。いわゆる異世界転生は空想ではなく現実のアトラクションになります。楽しみですね。
――続いて、作画を担当された伊於さんにお尋ねします。『え、社内システム全てワンオペしている私を解雇ですか?』を漫画として仕上げていくうえで特に意識した点やこだわった点があればお聞かせください。
伊於:担当編集からオファーを受けて初めて原作を読んだ時、ストーリーの面白さはもちろんですが、なによりも情景描写や心理描写をなるべく省いたシンプルな文体である印象を受けました。下城米先生も「長文はプログラムだけで十分」「物語と無関係な文章(風景描写など)がとっても少ない」(※単行本1巻のあとがきより抜粋)とおっしゃっているので、これは意図的な演出ですね。
なので文章として読むにはすっきりとしていてわかりやすいのですが、これをそのまま漫画に描き起こすと、読者に共有したいことの大部分をモノローグで処理することになってしまいます。
そのため、原作では数行の説明で済まされている部分を、コミカライズ版ではなるべく膨らませて描くようにしています。
たとえば3話の小田原回では家庭内の変化、6話の百合ちゃん回では心が折れる寸前までの沈み込みにページ数を割きました。こうしてキャラクターの内面を掘り下げることで、「あるある感」が強まって親しみが湧くように工夫しています。
また、原作とコミカライズでは描写順やセリフのニュアンスが変わっている箇所もあります。これは読者がコミカライズ版を通して読んだ際に、時系列やテンポで混乱しないためです。
原作の面白さをなるべく損なわないようにしながらも、コミカライズ版も「ひとつの物語」として成り立つよう、下城米先生や担当編集と日々相談しながら制作しています。
――本作では、社内システムを動かすSE職の女性が主人公となっていますが、伊於さんはもともとシステム開発やSE職などになじみなどはあったのでしょうか。
伊於:学生時代はデザイン配布サイトからソースコードを持ってきて自分好みに改修し、個人サイトを作って楽しむ日々でした。また会社員時代は特殊業務のオペレーターやソシャゲのデザイナーとして働いていたため、終電までの残業・休日出勤・泊まり込みの作業などの経験があります。
なので全体的に「決して経験者とは言えないけれど全くの素人とも言えない」…という中途半端な感じです(笑)
そのため、ワンオペ解雇の中で出てくるシステム関連は全て下城米先生(本職)や友人(本職)にアドバイスをいただきながら描いています。「私がわからない部分は、なじみのない読者の皆さんもきっとわからないだろう!そしてわからんとつまらんだろう!」の精神です。
――本作を作画するうえで楽しかったところや苦労したところなどがあればお聞かせください。
伊於:原作では数行の説明で済まされている部分を、コミカライズ版ではなるべく膨らませて描くようにしています。そのため、システム関連の説明を漫画としてわかりやすく落とし込むところや、どこをどれだけ詳しく描くかの取捨選択はいつも悩んでいます。
そのぶん、原作にはない描写=コミカライズ版のオリジナル描写で下城米先生や読者の皆さんが「そうきたかー!」と言っているのを見ると、とても嬉しいし楽しいですね。
――漫画家としての今後の展望や目標についてお聞かせください。
伊於:なによりも、「ワンオペ解雇を最後まで描き切ること」です。原作書籍はまだ2巻までしか出ていませんが、下城米先生の中では物語のエンディングが見えているとのことなので…。コミカライズ版もそのエンディングまで描き切れたら最高ですね。
あとは今後の漫画家人生として、オリジナル作品でも長期連載&単行本化ができたらいいな~と思っています!
――最後にお二人にお伺いします。作品を楽しみにしている読者やファンの方へ、メッセージをお願いします。
下城米雪:えがおー(๑˃ᴗ˂)!
伊於:各サイトのPV数で支えられているだけでなく、X(旧Twitter)やニコニコ漫画でのコメントも楽しく拝見させていただいています。いつも本当にありがとうございます!
下城米先生が最後まで書き切れるよう、私が最後まで描き切れるよう、原作書籍・コミカライズ版ともども応援よろしくお願いいたします。
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■作者X(旧Twitter):
下城米雪 [ @naro_shogakusei ]
伊於 [ @io_xxxx ]
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主婦と生活社
発売日: 2023/05/02