失恋した形になる後輩は、何かを胸に抱えたようすながら「未来のない恋なんかしたって意味ないですし!」とカラ元気を見せる。先輩として上手く発散させてあげられないことにモヤつきながらも、「未来のない恋なんかしたって意味ない」という言葉が藤子の頭に残った。ストーカーなんて、あまりに“未来がない恋”の形ではないか。
どうしても度々思い出されるのは、あの日の蒼真の言葉。「僕の話を聞いてください…!藤子さんお願いです!」「お願いです、藤子さん…藤子さん待って!」必死で泣きそうな表情、捨てられた子どものような視線がいまも藤子の脳裏に焼きついている。
「どうして私のストーカーだったの?そもそもいつから?あのとき、なにを言おうとしていたの?」胸の奥でつっかえ続ける疑問の数々。藤子はついに立ち上がり、スマホを手に取る。「ちゃんと向き合わないと、私はきっと…これ以上前に進めない」いままでブロックしていた蒼真とのメッセージ画面を開き、メッセージを送るのだった。
別の日、藤子が入ったのはかつて蒼真と食卓を囲んだ町中華。そこには、緊張感に強張ったようすの蒼真が待っていた。店員に促されて座り、2人ともビールと餃子を注文。ビールを煽って緊張感を和らげると、藤子は「仁科さん、私ずっと気になっていて…あの日、仁科さんは何を言おうとしていたのかなとか…どうして私のストーカーをしていたのか…とか」と一息にまくし立てる。
蒼真はゆっくり口を開くと、「4年前…僕たちは、一度会ってるんですよ」と回想を始めた。藤子は記憶にないようだったが、蒼真は以前ビルの屋上から飛び降りようとしているところを藤子に救われていたのだ。
手すりを超えて足を踏み出そうとした直前、「何してるんですか!」と声をかける藤子。「早くどっか行ってください!」と蒼真が怒鳴っても、藤子は「イヤです!行きません!絶対にどこにも行きません!」と譲らない。
自由のない人生に疲れ、最期くらいは自分で選択したいという蒼真に、「こんな選択はダメです!絶対ダメ!」と必死に話しかけ続ける藤子。「ああもう上手いこととか言えない!どうでもいい!生きて欲しいんです!私は、私はただ、あなたに生きて欲しいんです!」涙を流しながら訴える藤子に圧倒された蒼真の目からは、自然と涙がこぼれていた。
呆然とする蒼真を引っ張って救出した藤子は、「良かった…」と安堵でまた泣く。そんな彼女を見て、蒼真の胸中には「怖かった」という感情が渦巻いていた。見ず知らずの人間に勇気と愛情を持って行動できる藤子を見て、寝転がりながら蒼真は空を見上げる。口からは「広い…空って広いな…」という言葉が、目からは涙がこぼれ続けた。
「君と出会って、世界が美しく見えた。だから…もう一度この世界で生きたいと思えたんだ」灰色だった人生が一気に色づく。蒼真の人生はまさしく、この瞬間から一変したのだった。
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