映画やドラマ、舞台における性的なシーン(インティマシー・シーン)で、演出意図を汲みながら様々な調整を行い、出演者の尊厳を守る存在である「インティマシー・コーディネーター」。9月16日より東京・銀河劇場で上演中の「チェンソーマン」 ザ・ステージでは、2.5次元作品としてはほぼ初めてインティマシー・コーディネーターが起用されている。どのような経緯で起用に至ったのか、また舞台という生のエンタメで果たす役割について、まだ日本に2名しかいないというインティマシー・コーディネーターの浅田智穂さんに聞いた。
――ドラマや映画など、映像作品でのインティマシー・コーディネーターの起用は近年だんだんと認知されてきている印象を受けますが、舞台作品、それも2.5次元でのクレジットは珍しいかと思います。どのような経緯で参加することになったのでしょうか?
脚本・演出の松崎史也さんが、元々インティマシー・コーディネーターに興味を持たれていて。本作では原作に忠実な形で舞台化する中で、露出の多い衣裳や身体の接触を伴うシーンがあるので、出演者が不安なく安全に演じられるようにコーディネーターを入れたいと思っていたそうです。私が出演者の三枝(奈都紀)さんと友人だったこともあって、ご連絡いただきました。
最初の打合せから、制作チームのほぼ全員が参加してくださって、すごく熱意を感じました。インティマシー・コーディネーターが入ることで自由が奪われるのではないかという懸念を持たれたりもする作品もありますが、本作は最初から全員が前向きに、導入してみたいという気持ちが伝わってきて、ぜひやらせていただきたいと思いました。
――映像と舞台はかなり作り方が違うと思うのですが、そのあたりの難しさはありましたか?
私は元々大学で舞台芸術を専攻していましたし、インティマシー・コーディネーターになる前も舞台や映画の通訳の仕事をしていたので、舞台の現場には慣れ親しんでいました。ただ海外のミュージカル作品の現場が多くて、2.5次元作品は全く初めてだったので、ワクワクしましたね。
おっしゃる通り、映像と舞台では作り方が違い、欧米だと、映像は「インティマシー・コーディネーター」、舞台は「インティマシー・ディレクター」という似て非なるポジションがあります。コーディネーターがコーディネート(=調整)をするのに対して、ディレクターは「演出」という名前がついている通り、インティマシー・シーンの演出をつけていくという部分が大きいです。ただどちらの仕事も、出演者から同意を得たり、安心安全に演じられる環境を作るというのは同じです。今回はまず、稽古のやり方から提案させていただきました。
――具体的にはどのように稽古に関わっていかれたのですか?
まず台本と原作コミックを読み込んで、露出の多い衣裳だったり、接触があったりという、舞台の中で演出する“インティマシー・シーン”をピックアップしました。それらについて松崎さんがどのように演出されたいかのプランを聞き、衣裳や接触についてキャストに1対1で伝えて、「これはできる」「これはできない」という回答をもらい、松崎さんにそれを戻し、どういう演出なら役者が安心して演じられるのか話し合いました。
また舞台の稽古も、通常だと稽古場で多くの人が見ていることが多いのですが、インティマシー・シーンの稽古については立ち会う人を少なくして、該当の出演者と松崎さん、演出助手、舞台監督、私、必要であれば衣裳スタッフという最小限の人数で行いました。稽古ではいろいろ試すので、出演者が恥ずかしさを感じないように配慮しています。その上で、舞台は最終的にはお客様の前で演じるものですから、プランが固まって慣れたら皆の前で演じていただくようにしました。ただ、全体での流れを確認する稽古のときなどは、振りや形だけで対応するようにして、何度も繰り返さないでいいようにしました。キャスト陣からもやりやすい、安心という声がありました。
この記事の関連情報はこちら(WEBサイト ザテレビジョン)