さまざまなジャンルの振付スペシャリストと共に、野口量、笹尾功、叶実花子がディレクターを務めるクリエイティブカンパニー“左 HIDALI”。ジャスティン・ビーバーをフィーチャリングに迎えたウィル・アイアムの「#that POWER」の振付をはじめ、国内外の有名アーティストに振付・演出をするなど、今最も業界内で注目されているコレオグラファーたちが登場。世界で活躍する“左 HIDALI”に、コレオグラファーにとって大切なことや10代のダンサーたちへのアドバイスを聞いた。
──まずは“左 HIDALI”というクリエイティブカンパニーについて教えてください。
野口 左 HIDALIとしては、依頼を受けて振付を提供するクライアントワークのほかに、自分たちで作品を企画制作発表する自主制作も行なっています。“敬老の日”といった祝日や季節の行事などをダンスで表現するショートムービー「HIDALI GREETING SERIES」では、プロデューサーに前田屋さん、コピーライターに小藥元さんを迎え、チームで自主制作している形です。クライアントの依頼だとアイドルの振付から演劇などの舞台、番組のコーナー振付を担当したり多岐に渡ります。いずれも空間を活かした作品づくりをモットーに据えてコレオグラフしています。
──制作した作品がさまざまな賞を受賞していますよね。
野口 振付を担当した「PPAP LIVE@YouTube Fanfest」が世界3大広告賞の1つである「The One Show」でブロンズ賞を受賞し、「SPACE SHOWER MUSIC AWARDS」ではウルフルズのMVで「BEST CHOREOGRAPHY VIDEO」をいただきました。クリエイターも合わせてチームで頂いた賞です。
──皆さんはどんな10代を過ごしていましたか?
叶 MVで踊っているアーティストに憧れて、マネして踊っていました。ジャネット・ジャクソンがグラミー賞を受賞したときのダンスを完コピして、友達と踊っているような子でしたね。その当時は自己流でしたけど、好きなものを探していた時期なのかもしれないです。
笹尾 そこからアンソニー・トーマス(※)のクルーになっちゃうのがすごいよね。
(※ジャネット・ジャクソンの代表曲となった『RHYTHM NATION』の振付師としても知られる、世界的アーティスト)
──笹尾さんは10代の頃、どんな子でしたか?
野口 ギャグマシーンでしょ(笑)。
笹尾 ギャグマシーンでもあるんだけど、数学が好きだったんですよ。数学のテストって式と答えが両方合ってないとマルをもらえないんですけど、僕は公式がめちゃくちゃで、答えだけ全部あってたんです。
全員 すごーい! 自己流!?
笹尾 自己流で答えを導き出すのが昔から好きだったんですよね(笑)。あとは人と違うことがしたくて、周りがスケボーをやっている中、僕はBMXをやってました。まぁ不運にも自転車が盗まれちゃいましたが(笑)。そこから、ダンス番組「RAVE2001」に影響されてダンスを始めました。
野口 僕は10代の頃から美容師をやってました。お客さんがこういうヘアスタイルにしてほしいって雑誌の切り抜きを持ってくるのですが、それに対する注文に忠実に応えるか、期待を超えるものを提供するのかという選択を出すのが当たり前の世界にいたので、今の仕事にも生かされているかもしれないですね。
──今の10代の子たちは積極的に海外に行こうという動きもありますが、ご自身の経験を踏まえてアドバイスはありますか?
野口 僕もさまざまな国を訪れてダンスを見てきました。同じアメリカでもニューヨークとロスでは全然違いますし、イスラエルではコンテンポラリーダンスが主流であるなど、土地によってダンス観も異なります。だから一つのスタイルに捉われず、いろいろなダンスカンパニーや世界を見たほうが視野も広がるかもしれませんね。
笹尾 僕もアメリカで2年ほどダンスを学んでいましたが、やはり文化の違いとかもありますし、海外に行っただけじゃダメなんです。海外で生活してればダンスがうまくなるわけではないし、行くからにはちゃんと覚悟を持って行くことが大事ですね。
──叶さんに聞きたいのですが、海外のダンサーはエージェントに所属するのが一般的だと思うのですが、海外と日本のコレオグラファーの違いはありますか?
叶 ロスの現場を実際体験してきましたが、海外も日本とほぼ一緒ですね。ダンサーだった人が教えを始めるようになって、振付を作るようになり、振付がYouTubeにアップされて人気が出る、企業やアーティストからオファーが来て振付を頼まれ、振付師として認識されていく流れが多いと思います。活動の仕方はダンサーと一緒で、エージェントに所属してオファーが来たら制作に入ります。
──コレオグラファーとして大切なことや身につけておいたほうがいいということがありましたら、教えてください。
叶 プレイヤーでもコレオグラファーでもどちらにも共通するものなのですが、現場のスタッフさんが自分と関わった時に、仕事しやすいと思われる人材になることが重要です。現場の空気を読めるようになると、巡り巡って自分も楽しく仕事できますよ。
野口 ダンス以外のものにも目を向けることでしょうか。たとえば踊りがうまいダンサーでも、SNSに載せている写真や内容が悪いと、クライアントは依頼するのを止めてしまうかもしれません。ハイブランドの振付や出演などは、普段からファッションを意識しているダンサーのほうが選ばれる可能性が高く、仕事の幅も広がります。ダンスは当然のスキルとして、それ以外の分野も洗練されると強みになります。
──ダンサーだったら、世に出すものはすべて自分のPRだと思って、オシャレで魅力を感じるものにしようということですね。
叶 そうですね! あー耳が痛いです(笑)。
野口 (笑)。まぁ、僕らもセンスがいいかどうかと言われたら怪しいんですけど、そこは気を付けたほうがいいと思います。
笹尾 自分もそうだったんですけど、若い時ってひとつのものに固執しちゃう時期だと思います。ダンスも音楽も視野を広げれば素晴らしいものであふれているので、いろいろなものに目を配って欲しいですね。ダンスは可能性に満ちているので、舞台やバックダンサーの経験なども含め、若いうちから価値観の幅を広げたら将来役立つと思います。
野口 新しいアイデアのヒントを探すため、流行りのスポットに足を運んだり、路地裏の居酒屋からブランドのブティックまで覗いたりしてみるのもいいと思います。普段入らないお店だと、入るのにも勇気がいると思いますけど、そういう些細なことでも価値観を広げるのにいいと思いますよ。
──今までダンスをしてきた身として、10代のダンサーやこれからダンスをやりたいという方に向けて、忘れないでほしいことはありますか?
笹尾 ダンスを楽しむという初心を忘れないでほしいです。自分もありましたが、ストイックになりすぎてダンスが楽しくない時もありました。でも、ダンスって楽しむものじゃないですか。コレオグラフもそうですけど、ダンスを楽しむ感覚を忘れないでください。
野口 仲間の存在ってすごく大切だと思うんです。左 HIDALIも含めて、いろいろなクリエイターやダンサーたちとなんでも言い合える場を作っていくことがダンスと振付を楽しむことだと思っています。自分でそういう環境を作り、選んでいくっていうことがすごく大事ですね。
叶 自分ならではの「素敵」の定義を確立してほしいです。再生回数の多い動画の振付が必ずしも100%カッコいいものとは限りませんし、いろいろなものそれぞれに魅力があります。そこを柔軟に受け入れて、自分の感覚で好きだと思えるようになってほしいです。他人からのジャッジもありがたくアドバイスとして受け取るけど、自分のマインドは曲げずに、自分を信じてください。
(撮影:今井卓 取材・文:野沢達也)
プロフィール
野口量、笹尾功、叶実花子の3名のディレクターを中心に、様々なジャンルの振付スペシャリストから構成されるクリエイティブカンパニー。空間を活かした作品づくりをモットーに、2013年の発足以来、MVやアーティスト振付演出、ライブやファッションショーなどのステージング、CMや番組での動き指導など幅広く活動している。
今後、左 HIDALIが振付を担当する作品はコチラ。
★「ハイパープロダクション演劇 ハイキュー!!“進化の夏”」(2017年9月8日 東京公演開演):http://www.engeki-haikyu.com/autumn2017/
★Panasonic リアルタイムトラッキング&プロジェクションマッピング「EXISDANCE」:https://www.pics.tokyo/works/exisdance/
★観客参加型のライブショー・ONE PIECE LIVE ATTRACTION〝3(サード)〟『PHANTOM(ファントム)』(現在公開中):https://onepiecetower.tokyo/live_event/live
★自主制作映像作品「闇と光」by IKIOI x HIDALI(2017年末〜2018年上旬公開予定):https://www.youtube.com/channel/UC1xnxhMRhKLa3vZ-qFAV4HQ
【関連リンク先】
オフィシャルホームページ:http://hidali.jp/
オフィシャルTwitter:https://twitter.com/hi55184738
オフィシャルFecebook :https://www.facebook.com/hidalisince2013/
オフィシャルYouTube:https://www.youtube.com/user/HIDALIsince2013