第123回芥川賞を受賞した松浦寿輝による同名小説を「火口のふたり」の荒井晴彦がメガホンを取って映画化した、「花腐し」が11月10日に公開。映画監督の男と脚本家志望だった男がある女優との奇縁によって交錯するさまを描いている。本作でピンク映画監督の栩谷修一を演じた綾野剛に作品への思いや、出演作選びのスタンスについて語ってもらった。
──まず、本作に出演された経緯を教えてください。
久々に“脚本”に出会ったと思ったんです。読み物として完成されており、映画の匂いが沸き立っていた。だからこそ映像化するにあたって、世界観を壊さないかという畏怖はありました。ただ荒井監督をはじめ、素晴らしい映画人と共演者に恵まれました。仕事を続けていると、ご褒美のような素晴らしい脚本とそうそうたる映画人の皆さんとご一緒できる日が来るんだなと。その気持ちが畏怖よりも優り、思い切って飛び込んでみようという気持ちにさせていただきました。そのような気持ちにさせてくれる「まさに映画の匂いが沸き立つ」という言葉がぴったりの脚本でした。
──具体的に言うと、映像が思い浮かぶ脚本という感じですか?
この映画の中で「生きたい」と思える直感です。
──完成した作品を見て、どんな感想を持たれましたか?
一本の作品として、脚本から沸き立っていた映画の匂いが、そのまま炙り出され映像化されたという実感がありました。漫画やアニメの実写化は、すでに視覚化されているものの実写化ですが、小説の映画化は、活字だけの世界から視覚的な世界への変換です。誰も目で見たことがない世界ですから、そういった意味で常に緊張感を持って栩谷という人物を生きました。
──演じられた栩谷という人物はどういうキャラクターだと捉えましたか?
一言でいうと“サービス精神がない人”です。そういった概念ももはやないかもしれません。無愛想と言ったら、それまでなんですが、自分の気持ちを表情化できない人なんですよね。
──ご自身と栩谷が似ている部分はありましたか?
役者をやってきて役に共感性を探したことはありません。探したことがないというより、探しようがないんです、脚本に書いてある答えを、どう紡いでいくかに集中して脚本を読んでいるので。
──役者さんが演じるときは役に共感して感情を載せていくのかなと、素人考えでは想像していました。
色々な演じ方があって良いと思います。その中で僕はどちらかというと人物というよりか状況に共感するんです。人物が置かれている状況や環境を勇気をもって理解し、そのことに寄り添える人でありたいと共感する、そういう感覚です。
──では現場で柄本佑さんやさとうほなみさんと共演されていかがでしたか?感想を教えてください。
ほなみさんはとてもエンジンの大きな方で、それでいてしなやかなんです。なにより直感力がすごいシンプルにかっこいい方です。佑くんは元々個人的にファンで、何をやっていてもうっとりしていました。役者として瞬間瞬間の選択のスピード感がすごくて、ぶれずにストレートにセリフを相手に届けることができる潔さが頼もしくて。役者柄本佑さんをまた一つ知れたといいますか、ひとつたどり着けたような感覚がありました。